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宗教の域に近づくBTS、牧師も驚くその力 熱烈な「アーミー」が社会を動かす

World Now
LOS ANGELES, CA - FEBRUARY 10:  South Korean boy band BTS backstage during the 61st Annual GRAMMY Awards at Staples Center on February 10, 2019 in Los Angeles, California.  (Photo by John Shearer/Getty Images for The Recording Academy)=2019(平成31)年2月10日、クレジット:ゲッティ/共同通信イメージズ ※エディトリアル使用のみ。広告、プロモーション、商業目的での利用はできません。
BTSのメンバー=ゲッティ/共同通信イメージズ

「ボリウッド文化が圧倒的に人気のインドで、外国の音楽、それもK-POPがこれほど支持されるとは信じられない現象です」

韓国の男性アイドルグループ、BTSの人気が爆発している国の一つが人口13億人のインドだ。音楽誌ローリングストーンインド版記者のリディ・チャクラボーティに取材を申し込むと、ズームの画面越しにこんな言葉が返ってきた。

インドでは国内のエンタメ文化が圧倒的な人気を誇る。2017年に他のインドメディアに先駆けてBTSのリーダー、RMに取材した時は、国内にどれだけ記事の需要があるか心配していたという。だが、記事を公開したとたん、同誌のホームページが突然ダウンした。インド版が始まって以来、最大のアクセス数が殺到したのが原因だった。その半分はインド国内から閲読していた。

■インドの堅い扉をこじ開けた

BTSのメンバー=Big Hit Entertainment提供

昨年は音楽配信サービスで、BTSのシングル曲「Dynamite」が「インドで1週間に最も再生された曲」の新記録を更新。自身は中学生の時からK-POPを愛してきたというチャクラボーティはインドでのBTS人気をこう分析する。「音楽とダンスと色彩にあふれているという点で、ボリウッドとK-POPは共通するのかも」

「アーミー」と呼ばれる熱烈なファンが支えるBTSの世界的な人気は、過去にアジアのアーティストが到達したことのない規模に広がっている。BTSの所属する事務所の公式ユーチューブチャンネルの登録者数は5000万人を超え、韓国の人口にほぼ等しい。メンバーが食事をするだけの様子を映すオンラインライブは、開始からすぐに数百万人が視聴する。昨年末、米エスクァイア誌はBTSを特集した際、「今この惑星でもっともビッグな存在」と記した。

こうした人気は、学術的な研究対象にもなっている。昨年1月には、イギリスのキングストン大学で「BTS学会」が開かれた。世界20カ国以上から集まった140人超の学者がBTSについて語り合ったという。

■もはや宗教?牧師も感嘆

BTSのメンバー=Big Hit Entertainment提供

早速、参加者の一人で、米ハーバード大学付の牧師(チャプレン)を務めるリタ・パウエルに連絡を取った。パウエルはBTSは宗教に近い機能すら持つと語る。数年前、BTSのメンバーがファンに向けて語るオンラインライブを見てときめいていた時、ふと、同じ瞬間に500万人が同じ映像を見ていることに気がついた。「これだけの人が同時に『愛』を共有している。私の教会で、こんな現象は起こせていない」。パウエルは笑いつつも真剣に言う。「倫理や価値への集団的合意や、(信者の)献身的な行為、儀式や式典、別次元へとつながるような体験……。宗教としての機能のほとんどをBTSは満たしている」

BTSはごく初期から歌詞などで、学校制度への不満など様々な考えや感情を素直に吐露し、工場で作られたように画一的な「ファクトリー・アイドル」だと揶揄(やゆ)されることもあったK-POPのイメージを塗り替えてきた。学会の参加者の多くは、彼らが訴えてきた「LOVE YOURSELF(自分を愛そう)」「SPEAK YOURSELF(自分を表現しよう)」といったメッセージに人気の秘密があると指摘する。

「BTSは、世界中の人々が悩みや思いを共有するための媒体のような役割を果たしている。ファンの草の根の行動は今、社会を変える力を生んでいる」。学会に参加した、ライターで翻訳家の桑畑優香はこう分析する。

実際、米国の人種差別抗議行動への寄付をわずか1日で100万ドル集めるなど、共感で連帯するアーミーの寄付で成しえた事業は数え切れない。

ブラジルから学会に参加したルイサ・ド・アマラルは、ツイッターにおけるアーミー同士の交流を分析し、その連帯の強さをこう指摘する。「ファンの多くは自分の生まれ育った国よりもアーミーというアイデンティティーへの帰属意識がある」

在日コリアン3世の30代の女性はこれまで、数万人のフォロワーのいるツイッターのアカウントで、BTSの韓国語情報を日本語に訳すといった活動をしてきたが、昨年末、コロナ禍で苦しい生活を強いられる人々がいることを知り、「自分にもできることがあるかも」と思いついた。

学生やシングルマザーなど困窮しているアーミーに学用品や生活用品を届ける案をツイッターで発表したところ、計50人分の支援に必要な物資がすぐに集まった。寄付箱には、他のアーミーから寄せられたBTSグッズも入れている。女性は言う。「今までは集団への強い帰属意識を持つことは難しかった。でもアーミーというコミュニティーに出合ったことで、自分のできることをやってみようと一歩を踏み出せるようになった」

■いつの間にか私もアーミー 取材した記者の眼

取材を終えたいま、私が思い出すのは、思春期を過ごした四半世紀前の米国の姿だ。当時は、アジア系の顔をテレビ番組で見ることはほとんどなく、アジア人グループに米国の人々が熱狂する未来は想像もしなかった。人気の理由が知りたくて、彼らのパフォーマンスや言動を追いかけるうちに、いつのまにか熱烈なアーミーになった。母方のルーツでもある韓国への関心が高まり、4月から休職し留学することを決めた。

日本ではBTSの勢いを語る際、日韓の政治問題と絡めるような言説もある。だが、BTSの音楽やメッセージの最大の特徴は、国や人種、世代の壁を軽々と超えていく圧倒的な魅力にある。巨大な共感の輪で世界をつないだ「BTS革命」は欧米中心になりがちなエンタメ業界に地殻変動を起こしたという意味でも、文化史上に刻まれる大事件だと思う。