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「押しが強いインド人」とのビジネス、日本企業に求められるものは

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難関で知られるインド工科大学(IIT)デリー校の学生たち=2017年、奈良部健撮影

――2030年にIT人材約55万人が世界で不足すると言われるなか、インドのIT人材が注目されています。

いまはあらゆる産業でDX(デジタル化による変革)が進み、自動車や家電、小売りなどあらゆる産業がITを必要としています。理系の人材が足りなくなり、世界のさまざまな企業がインドに行く動きを加速させています。

インドのIT人材と日本の中小企業をつなげるプロジェクトを始めた広島県は、イノベーション立県として色々な取り組みをしており、私も関わっています。中小企業も多いですが、必ずしもすべての企業がIoTやDXを担う人材が潤沢とも限りません。一方、インドは毎年150万人の工学系の学生が卒業しています。

――インドと組むメリットは何でしょうか。在留外国人は、中国(81万人)や韓国(45万人)からが多く、インドは中国のわずか20分の1(4万人)です。

日本の企業はものづくり、特にすり合わせを必要とする複雑な技術が得意です。しかし、デジタル化でそこは重要ではなくなる。一方のインドはすり合わせのようなものづくりのノウハウが乏しい。ハードに強い日本と、デジタルに強いインドを組み合わせれば、製造業の未来を握ることができるようになると思います。

―インドへの日系企業の進出は年々増え、約1500社になりましたが、伸びは緩やかです。人口13億人以上の巨大市場の攻略は難しいとも言われます。

インド市場は、税制や許認可など、たしかに難しい点はあります。しかし、2014年に就任したモディ首相のもと、税制や州をまたぐ物流の複雑な仕組みを改革してきました。今後市場が伸びていくという視点に立つと、すでに多くの日本企業が進出している中国よりも、ポテンシャルがあるのではないでしょうか。

特に中小企業の動きは、まだ遅いです。日本企業は慎重で、インドに出るかどうかの市場調査に10年以上もかけている企業があるほどです。日本企業は「リスクゼロの成功の方程式」を求める傾向があります。市場を知ることは大事ですが、常に変化するもの。スタートアップでも最初からうまくいくところはない。計画通り行かない、やってみないとわからないのは当たり前です。日本企業は1度決めたら必ずやり遂げようとするし、一度やると決めたことのスピードは逆に早い強みがあります。まず飛び込んでみることが大事だと思います。インドは日本と組みたがっているので。

――コロナで企業の動きが鈍くなっています。

すべての企業がそうではありません。買い手のお金の使い方が変わりました。ヘルスケアや教育、家で使うような製品関連は順調ですが、旅行や外食産業が厳しいのはインドも一緒。実現がもっと先になると思っていたオンライン診療ができるなど、ポジティブな変化があります。今がチャンス、と出ている企業もあります。

首都ニューデリーで3月1日、コロナウイルスのワクチンを接種するモディ首相=ロイター

――日系企業から、インド人とのコミュニケーションに苦労する声を聞きます。

「インド人は押しが強い」「しゃべりすぎる」と言われますが、逆に日本人は自分の考えをあまり話さない。これでは信頼を得るのは難しいでしょう。インドは宗教やカースト、言語など多様な人たちの集まりなので、インド人は立場が異なる人たちと話をまとめる力を備えています。「持ち帰って検討する」と言いがちな日本の会社は、意思決定が遅い、結局何もしない、とも思われてしまっています。

日本の教育は兵隊をつくるのは得意ですが、指揮官はなかなか育たない。与えられた課題に取り組むのは長けている一方、自分で問いを立てることが苦手だと思います。社会課題を見つけ、解決の方法を考える。そうした仕事やライフデザインは、自分自身でつくるものです。日本の若者もグローバルに仕事ができるようになるには、自ら問いを立てる力をどうつけるかを考える必要があると思います。

また、日本企業は自社はメーカーである、小売り業である、と決めてしまいがちです。でも、例えばユニクロは製造小売業だし、アマゾンはリテールかつ物流企業、クラウド提供会社でもある。特定の定義に自分たちを留めることはしていません。自社の強みを意識した上で、その強みを一番発揮できる異分野にも対応する。そんな柔軟さがほしいとも思います。