1. HOME
  2. World Now
  3. わずか1カ月で修正に追い込まれた北朝鮮の5カ年計画、詰め腹切らされた党幹部

わずか1カ月で修正に追い込まれた北朝鮮の5カ年計画、詰め腹切らされた党幹部

北朝鮮インテリジェンス
2月8日から11日まで平壌で開かれた朝鮮労働党中央委員会総会=労働新聞ホームページから

総会では、わずか1カ月前の党大会で決まった国家経済発展5カ年計画の目標が見直された。朝鮮中央通信によれば、正恩氏は計画のなかで、今年の穀物生産目標が高すぎると批判。逆に、平壌に今年、1万戸を建設するとした目標などが低すぎると指摘した。総会ではこうした数値の修正が行われた。

朝鮮中央テレビの映像をみると、正恩氏は両腕を振り回しながら演説するなど、かなり興奮した様子だった。「国の経済をもり立てる上で一番の問題は人材不足だ」とも語り、部下の能力不足が問題を引き起こしたと言わんばかりの論法を取った。党経済部長も、1月の党大会で就任したばかりの金頭日氏から呉秀容氏に交代した。金氏は詰め腹を切らされた格好だ。

だが、5カ年計画を指導した金正恩氏にこそ、最大の責任がある。

北朝鮮は昨年8月、新たに5カ年計画を作成すると発表した。少なくとも計画が発表された今年1月の党大会まで5カ月の準備期間があった。正恩氏は党大会で、4カ月間にわたって労働者や農民、知識人の党員の意見を真剣に聞き取ったうえで、過去5年間の党財政活動を分析して改善策を研究したと報告。「新たな5カ年計画は、現実的可能性を考慮し、人民の生活を安定させるための要求を反映した」と豪語していた。正恩氏が当初の計画目標を知らなかったわけがない。

■修正の本当の理由はどこに

では、なぜ、目標が高すぎたり、低すぎたりする現象が起こってしまったのか。正恩氏はその原因について「人材不足」「保身主義」などと説明した。

だが、欧米と北朝鮮を往来する専門家は「おそらく、1月に発表した5カ年計画が、市民や党の下部組織から不評を買ったのが原因だろう」と語る。農業従事者からは、国境封鎖や制裁で肥料や農機材が不足するなか、生産目標を達成できないという不満が出たのだろう。国際社会は最近20年間、北朝鮮の食糧は毎年100万トン前後不足すると指摘し続けている。

逆に、平壌では深刻な住宅難が続いている。近代的な高層アパートも建設されているが、党や軍の高級幹部、一部の富裕層にしかあてがわれない。かつて2012年の金日成生誕100周年を記念し、平壌に10万戸を建設する運動を始めたが、資材難などで2万戸程度の建設に終わったこともある。「1年に1万戸ではとても足りない」という声が出たのだろう。

いくら党がヒアリングを行っても、粛清を恐れた市民が真実を語ることをためらったに違いない。1月党大会で計画の実施が下部機関に命ぜられて、初めて不満が噴出したとみられる。前述した専門家は「国家保衛省による監視や、下級機関からの報告などで、正恩氏は初めて計画の目標が実態を反映していないと気づいたのではないか」と語る。

党中央委総会で目標は修正された。下方修正された農業部門は問題ないが、目標がさらに高くなった建設や電力、軽工業などの部門は、非常に苦しい状況に追い込まれた。苦境を脱するため、正恩氏が党官僚らに与えた指示は、真剣に仕事をしない「個人主義」や賄賂などを受け取る「不正腐敗行為」の根絶だった。

朝鮮労働党中央委員会総会に出席した金正恩総書記(中央)ら=労働新聞ホームページから

しかし、こうした問題を生んだのは、独裁者がすべての問題を指導すると定めた「唯一的領導体系」に原因がある。

■「忠誠資金」という腐敗の温床

北朝鮮では最高指導者の発言は憲法より重く、すべての法を超越する。国家を運営する基盤となる予算執行についても同様だ。

かつて金日成主席のフランス語通訳を務めた高英煥・元韓国国家安保戦略研究院副院長は、「金日成主席万歳」と叫んだアフリカの首脳に、金主席が「お国のためにスタジアムを作って差し上げましょう」と語った場面を覚えている。高氏は「北朝鮮の財政など関係ない。金主席が発言するたび、これで何人の北朝鮮の市民が飢えるのかと思うと、胸が痛んだ」と語る。

北朝鮮の国家予算で解決できないため、問題が発生するたびに、軍や党組織などの各部門が解決に駆り出された。それが「忠誠資金」と呼ばれ、今に受け継がれている。各部門は忠誠資金を準備しておく必要があるため、それぞれの許認可権限を使って収賄行為に走るという構図になっている。

また、党官僚が真剣に仕事をしないのには、理由がある。

北朝鮮公務員の月給は5千ウォン程度しかない。北朝鮮ではコメ1キロ程度にあたる金額だ。

北朝鮮北東部・咸鏡北道清津の市場=2018年12月撮影の映像から

もともと、金日成時代は公務員の給与に合わせて物価を決めていたので問題はなかった。だが、1990年代半ば、大量の餓死者を出した「苦難の行軍」時代に配給制度が崩壊して、市場経済が広がり始めた。金正日総書記は「コメの価格に物価を合わせる」とし、金正恩時代になると「原価保障主義」になったため、給与と物価の差が大きく開くことになった。

北朝鮮当局は、それでもインフレを恐れているのか、公務員給与を物価水準に合わせる試みを取っていない。社会主義の北朝鮮では、1世帯に最低1人は公務員として党や国営企業などで働く義務がある。公務員の給与だけでは暮らせないので、家族が市場で働いたり、公務員が夜間警備や家庭教師などのアルバイトをしたりして生活費をまかなっている。

金正恩氏が指摘した「個人主義」の原因はここにある。賄賂も忠誠資金に充てるほか、こうした公務員の生活費に回っているという実情がある。

正恩氏は党中央委総会で不正腐敗行為の根絶を指示したが、本当に実行すれば、「唯一的領導体系」は崩壊し、金正恩氏は権力の座を追われるだろう。あるいは、正恩氏と「共生関係」にある党本部3階の書記室で働く高級官僚たちが、正恩氏に真実を告げずに、適当にやり過ごすのかも知れない。

どちらにしても、正恩氏が真の意味で、実力を伴った最高指導者ではないことも、今回の中央委総会は浮き彫りにしたと言えるだろう。