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ワーケーションでつかんだ「仕事の勘どころ」 実践して初めて見えた、その効果とは

LifeStyle 更新日: 公開日:
軽井沢でワーケーションをする児玉真悠子さん=本人提供

リモートワークの広がりで働く場所や時間を選ぶ自由度が増し、仕事(ワーク)と休暇(バケーション)を組み合わせた「ワーケーション」への注目が広がっている。関係人口を増やそうと、ワーケーションできる環境の整備に積極的な自治体もある。ただ実践したことがある人はまだ多くはないようだ。ワーケーションの考えを人事制度に採り入れた企業と、各地でワーケーションを経験した先達に、挑戦したからこそ見えてきた効果を聞いてみた。(澤木香織)

■自治体と連携し、ワーケーションを推進

社員がワーケーションしやすい仕組み作りを進めるのが、日用品大手の「ユニリーバ・ジャパン」(本社・東京都)。2019年7月に「地域 de WAA(ワー)」という制度をスタートさせた。

各地の自治体と連携し、社員がその自治体にあるコワーキングスペースを無料で利用できたり、提携する宿泊施設を無料や割引価格で利用できたり。提携自治体は、北海道下川町、宮城県女川町、山形県酒田市、福井県高浜町、静岡県掛川市、和歌山県白浜町、山口県長門市、宮崎県新富町の8つ(2021年2月現在)と全国に広がっている。社員は地域の課題解決の活動に関わることもある。

「地域 de WAA」のもとになったのは、16年7月にできた社員が働く場所や時間を自由に選べる制度「WAA」だ。WAAとは「Work from Anywhere and Anytime」の略。上司に申請すれば、理由を問わず、会社以外の場所(自宅、カフェ、図書館など)でも勤務でき、規定の範囲内で自由に勤務時間や休憩時間を決められる、というもの。合わせて、残業時間は原則月36時間までと社内のガイドラインで示している。

島田由香さん=ユニリーバ・ジャパン提供

WAAを発案したのは、人事総務本部長の島田由香さん。満員電車で通勤する負担を減らし、好きなことや得意なことをすれば、結果は良くなるはずという考えがあったという。

■まき割りを通して感じる仕事の本質

島田さん自身も提携自治体に足を運び、ワーケーションを体験してきた。ただ、ワーケーション先でもオンライン会議が続くなどパソコンと向き合う時間は長くなりがちだ。それでも、パソコンから少し顔を上げるだけで、海や森が視界に入ってくる。頭の中がクリアになり、仕事の集中度が上がったと感じたという。

ワーケーション先では、社員が農家の草取りを手伝ったり、地元企業と一緒にビジネスプランを考えたりすることも。島田さんにとって、特に印象的だったというエピソードを教えてくれた。

あるワーケーション先で、まき割りをしたときのこと。入社2年目の社員も一緒だった。その社員は最初、怖がってうまく割ることができなかった。だが、地元の人にやり方を教わり、「大丈夫だよ」と声をかけてもらううちに、コツをつかんでいった。「パーン」と割れたとき、その社員は「仕事と一緒ですね」とうれしそうに言ったという。

島田さんは「まき割りって、恐れがあるとうまくできないけど、信頼して斧を振り下ろすと割れるんですよね。言葉で『仕事ってこういうものなんだよ』と教えるより、社員が体で体験したことが大きかった。私にとっても喜びでした」と話す。

森でたき火をしながらチームビルディングをする社員ら=ユニリーバ・ジャパン提供

誰かと関わり、体を動かし、日々の仕事にも通じる学びを得る――。パソコンの前にいるだけではなかなか経験できないことだ。これまで参加した社員からは、「集中して仕事ができた」「仕事以外で会社の仲間と接することができて新鮮だった」といった感想が寄せられたという。

同社はコロナ禍のこの1年ほどは、原則自宅で仕事をすることとしている。今後は、感染対策と提携自治体それぞれの考えを尊重した上で、長期滞在できるようにしたり、コワーキングスペースを他の企業も使えるようにしたりしていきたいという。

■期待はあるものの、経験者は少ない

人材サービス大手のエン・ジャパンが昨年10~12月、35歳以上の転職サイトユーザー(2420人)を対象に調査したところ、ワーケーションの認知度は7割にのぼった。「ワーケーションをしてみたい」や「今後、ワーケーションという働き方は広がっていく」と答えた人もそれぞれ6割近くいた。一方で「経験したことがある」人は7%にとどまった。関心や期待は一定程度あるものの、実際に体験するまでにはいたっていないことがうかがえる。

「ワーケーションをしたことはないし、これからするつもりもない」と回答した人の理由として「旅行・帰省先でまで仕事をしたくないから」(53%)、「社内で認められていないから」(36%)、「出勤が必要な仕事だから」(33%)があがった。社内の制度や仕事の性質もハードルとなっているようだ。

ワーケーションの形態=観光庁「新たな旅のスタイル」から

観光庁は昨年12月、ワ―ケーションやブレジャー(出張の滞在を延長するなどして余暇を楽しむこと)の制度導入を検討する企業向けにパンフレットを作成。税務処理や労災保険の基本的な考えをまとめた。パンフレットには導入のメリットとして企業側には「有給休暇の取得促進」や「人材流出の抑止と人材の確保」など、働き手側には「長期休暇が取得しやすくなる」「ストレス軽減やリフレッシュ効果」などの言葉が並ぶ。今後、受け入れる地域向けのパンフレットも作成予定だという。

■自治体、誘致に注力

全国的に人口減が進む地方自治体。ワーケーションは地域の外の人が継続的に地域と関わる「関係人口」を増やす機会だととらえ、環境整備に熱心な自治体も出てきた。ワーケーションの普及を目的に2019年11月に設立された「ワーケーション自治体協議会」の加盟自治体は169にのぼる(2021年2月現在)。情報通信企業の誘致を進める和歌山県白浜町では、サテライトオフィスの開設が相次ぐ。神奈川県逗子市では、市所有施設を整備し、ワーケーションに活用してもらう実証実験を進めている。

■地域が持つ「場の力」

東京都在住のフリーランスライター・編集者の児玉真悠子さんは、これまで、軽井沢(長野県)や湯河原(神奈川県)など各地でワーケーションを体験してきた。それぞれの地域が持つ「場の力」に大きな可能性を感じたという。

そう感じたきっかけが2019年夏、山口県萩市でのワーケーション体験だった。市の依頼で、現地の魅力をまとめるパンフレットを作成。市の了解を得て、夏休み中だった小学生の子ども2人を連れていった。途中で夫も加わり、家族で計10日間滞在した。

萩市の街並みを歩く子どもたち=児玉さん提供

古民家で自炊しながら、暮らすように過ごした。周囲は城下町のたたずまいが残り、城跡や武家屋敷、吉田松陰ら幕末の志士が過ごした場所があちこちに残っていた。これからどう生きていきたいか、夫婦で自然と会話する機会に。それがきっかけで、夫は新たな分野の仕事にも挑戦したいとプログラミングを学び始めた。もともと旅行好きだった児玉さんは、ワーケーションの魅力をより広めたいと考えるようになった。

「『ここで育った人が、自分たちより若い頃に日本を動かしたんだ』と思うと、自分はこれから何をしたいのか自然とつきつけられた。どんな本やドラマを見るよりも、インパクトが大きかった」と話す。

浜辺でパソコン作業を試みた児玉さん=本人提供

■親子でもできる

その後訪れた長崎県五島市では、子どもたちが現地の小学校に「体験入学」をした。現地の小学校の了承を受け、在籍校に連絡した上で、五島市の子どもたちと5日間、一緒に学んだ。最初は不安そうな様子もあったが、次第に慣れていった。

「違う人の人生を生きたようだった」「自分も誰かに優しくなれる人になりたい」。子どもたちは、そんな感想を話したという。

「息子は、いま住んでいる場所以外にも選択肢があること、選択を通して自分が人生を切り開けることを想像できるようになったのかな、と感じました。娘は、隣の席の子が何も言わずに文具を貸してくれたことに感動したみたい。自分も同じように人に優しくなりたいという気持ちが育ったと思います」。その後も、子どもたちとの何げない会話の中に、五島での経験が出てくることがあったという。

普段と異なる発想ができる「場の力」や子どもたちにとっての「サードプレース」。そんなワーケーションの魅力をさらに掘り起こしたいと、2021年2月に会社を設立。地域ごとの特徴や魅力を生かし、親子で滞在できるプランを考えていくという。

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