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ロヒンギャの難民キャンプで国際機関が行った人数を正確に確認する方法

あのとき、現場で ロヒンギャ問題を追う
バングラデシュ南東部、コックスバザール郊外のロヒンギャ難民キャンプには、ビニールシートと竹でつくった簡易な「シェルター」にロヒンギャの人たちが住む=杉本康弘撮影

前回の「ロヒンギャの難民キャンプでも電子マネーが流通している」はこちら

びっしりと広がるシェルター

バングラデシュ南東部、コックスバザールの難民キャンプには、1990年代以降、ミャンマー政府の迫害によって祖国を後にした人たち約15万人が暮らしていた。それが、2017年8月からの3カ月の間に40万人以上がなだれ込み、一気にキャンプが広がった。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、それまで、「クトゥパロン」と「バルカリ」の二つに分かれていたキャンプが一つになり、東京都千代田区と同じ12平方キロにまで膨らんだ。一方で、人口密度は1平方キロあたり9万5千人(2017年11月時点)と、東京23区の6倍以上となった。UNHCRの担当者は、「史上最も急激に拡大した難民キャンプ」と話した。避難民の半分以上は18歳未満の子ども。感染症が広がった場合は「極めて深刻な状況になるだろう」(UNHCR の担当者)と懸念されていた。この巨大キャンプの他にも、「ウンチプラム」、「ウキヤ」などの小規模のキャンプもある。

車でキャンプに着いた。おそらく入り口に軍関係者か警察官らが立ち、出入りする人をチェックしているだろうと予想していたのだが、意外にもすんなり入ることができた。車は道路から右折して土の道を進む。念のため、地元のバングラデシュ人通訳に確かめると、「今は国際機関などの人の行き来が激しく、まったくチェックしていない」という。「ジャーナリストのビザを持っていれば平気だ」

車が進むと、左右に竹を組んでつくられたシェルターが肩を寄せ合うように並ぶ。高低のある土地で、高台に行くと、見渡す限りシェルターがびっしりと立っていた。

車から見ていて、おや、と思うことがあった。シェルターの中に、果物や魚、菓子や貴金属を売っている「商店」がある。これはなんだろう。バングラデシュ人通訳は、「以前からキャンプにいるロヒンギャたちが開いている店です」と説明してくれた。しかし、難民のほとんどは現金も持たず、キャンプに逃げてきているはず。地元のバングラデシュ人がキャンプ内に入り込み、取引した現金が出回っているという。

ロヒンギャ難民キャンプには、食料品を売る「商店」がいくつもある。多くは、2017年以前からこの場所に住むロヒンギャの人たちが営んでいるという=染田屋竜太撮影

コックスバザールのキャンプには、2017年に多くのロヒンギャが逃げてくる以前から居住しているロヒンギャの人たちがいる。すでに「生活基盤」をつくり、キャンプ外で商店や自転車タクシーの「リキシャ」の運転手などとして生計を立てているという。

車から降りてキャンプの中に入る。もうもうと砂煙が立ち上る。キャンプ内の一部の地面には難民らによってレンガが敷き詰められているが、ほとんどが土がむき出し。そこを国際機関の車やシェルターを建てるための竹やシートを運ぶトラックが行き来するため、あたりは砂でぼんやりかすむ状態だった。

「肩を寄せ合う」という表現がぴったりな、立ち並ぶシェルターには所々1~2メートルほどの隙間がある。そこが、キャンプ内の「路地」だ。「それぞれの地区の道は迷路のようになっていて、そこで暮らしている人でないと迷ってしまう」とロヒンギャ男性の1人が教えてくれた。

ロヒンギャの子どもたちは笑顔で迎えてくれたが、その生活状況は厳しい=染田屋竜太撮影

気になるのは、生活排水がそのまま流されていることだ。路地の脇には小さな流れができているが、水はにごり、ヘドロのようなものもまじっている。それがキャンプ内を流れる川で合流し、川はゴミがたまり、いやなにおいを放っていた。

後にUNHCRの担当者にきいたところ、こうした排水が地面にしみこんでいるため、井戸の一部に汚水が流れ込み、それを飲んだ難民が体を壊すこともあったという。この担当者は、「キャンプには大小様々な団体が入ってきている。井戸を掘るだけでも技術に差があり、深さが十分でないものも少なくない」と話した。

「シェルター」は、竹とブルーシートでつくったものがほとんどだ。国際移住機関(IOM)などが建て方を教え、難民自らつくっている。多くは窓がなく、中に入ると昼間でも暗い。ロヒンギャの人たちは地面にゴザをひいて生活する。竹でできた「壁」で2~3部屋に分けているところが多く、シェルターの中には火をおこして食事をつくる「調理場」もある。難民の1人、モハメド・シェリフさん(50)は、「食器はミャンマーから持ってきたもの、キャンプに来てからゆずってもらったものを何度も使っている」と話す。「食べ物には困っていないが、狭いシェルターで8人が寝るのはなかなか難しい」という。

ロヒンギャ難民キャンプ内では、「リキシャ」と呼ばれるバイク型のタクシーが走る=染田屋竜太撮影

難民の人数をどう把握するか

キャンプを歩くと、少しずつ難民の生活が見えてくる。食べ物は決められた日にキャンプ内にある「配給センター」にとりにいく。家族の人数で米や油など、もらえる量が決まる。IOMや世界食糧計画(WFP)が難民のいる場所を確認し、もらいに来ていない家族がいないかどうかを確認している。この人数を元に、UNHCRなどが中心となって、キャンプで暮らす難民の数をまとめているという。

急激に増える難民の数に、ミャンマー政府は「数が水増しされている」などと指摘していた。数十万人にも及ぶ難民をどう把握しているのか。コックスバザールにあるIOMの事務所に行って、報道担当のオリビア・ヒードン氏に話を聴いた。

IOMは、キャンプ内で数十世帯ごとに難民のリーダーを決め、そこでグループ内の人数を確かめている。ヒードン氏は、「キャンプ内は人の移動が多い。新しく来た人も含めてIOMのスタッフが毎日リーダーの元に行き、人数を確かめている」という。キャンプで生活する場所は、コックスバザールについた難民に順番にUNHCRなどが割り当てていく。同じ村の村人が逃げてくることが多いが、場合によっては隣同士が全く知らない家族ということもあるという。そこで、知り合いのいる地区に移りたいという難民も多く、日々、移動があるという。

ロヒンギャ難民キャンプにひしめくシェルター。乾季にあたる11月は、砂埃が舞い、遠くが見えにくくなることも=染田屋竜太撮影

IOMは新しい集団がキャンプに着いたら、住む場所を確認して新たにリーダーを決め、そこで人の動きを把握してもらうという。難民の人数などはIOMのスタッフがタブレットを使って入力。データ化され、食料配給をする際にWFPなどと共有しているとヒードン氏は説明した。多くの難民が流入して混乱した状態なのではないかと予想したが、ヒードン氏は、「食料を取りこぼしなく受け取ってもらうためにも、人の動きはとても重要。これまでの世界各地での難民キャンプでの経験を生かして効率よく、正確に確認している」と言う。

ヒードン氏によると、国際機関の間でも、コックスバザールの難民キャンプは、「世界史上で最も早く拡大したキャンプ」と言われているという。「デジタルも駆使しますが、最後は人と人とのつながりで、数え間違いをしないように慎重にやっています」とその活動に自信を持っていた。

(次回に続く)