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トランプ支持者にとってなぜ「マスクを着けるのは弱さの象徴」なのか

World Now
アリゾナ州立大のミシェル・シオタ准教授

――米国ではマスクを着けることの是非をめぐる議論が巻き起こり、着けることに反対する人もたくさんいるようです。なぜですか。

まず言えるのは、米国はカリフォルニア州だけでも日本より少し大きいぐらい、地理的にとても大きな国だということは大切なことです。そこには様々な文化的背景や信念を持った人がいます。私は今サンフランシスコにいるのですが、昨年3月以降、多くの人はマスクを快く着けています。ここではマスクはたいした問題ではありません。小さい子どもがマスクをしているのは可愛いなと思うほどです。

しかし一方で、ご指摘のように着用に反対する人も多いことは事実です。個人の権利と決定が何より重要だとみる人たちの極端な考えと関係しています。米国では一般的に人に指図をされるのは嫌いだという人が多いと感じますが、一部の人の間ではマスクに関して過激な考え方につながりました。彼らはマスクが嫌というより、「政府が非常に不快なマスクを着用するよう命じている」ということに反発しているのです。

残念ながら、トランプ前大統領を含む一部の政治家が感染症の危機を政治化した側面があります。支持者に対し「たいしたことじゃない」「心配しなくても外国人を追い出しさえすれば解決する」と話し、マスクがこうした考えの象徴にまでなってしまった。その多くは共和党員やリバタリアンと呼ばれる人々ですが、彼らにとって、マスクは弱さや臆病さ、政府の言いなりになることの象徴になり、マスクを着けないことが政治的抗議になったのです。

トランプ大統領の演説を聞くため、ホワイトハウスの南側にあるナショナルモールに集まる支持者たち=ワシントン、ランハム裕子撮影、2021年1月6日

――マスクが弱さの象徴ですか。

日本にお住まいの方から見れば、こうした考え方はわけがわからないと思うでしょう。米国でもこうした考え方は馬鹿げているし、危険だと感じる人も多いのですが、二つの全く異なる世界に分断された今の米国の病的症状と言えます。全く別の政治家を信頼し、全く別のメディア媒体を信用して読んだり見たりし、全く異なる世界観を持っているのです。今後数年で状況は改善されていくと、希望を抱いています。この状況下でも、いま米国で大多数の人は店内などではマスクを着けようとしていることは幸いなことです。

――米国ではマスクを着けることへの意識は変わってきたと感じますか。

マスクに慣れた人たちはこれからも、特に具合が悪いときにマスクを使い続けると思います、東アジアの人たちはこれまでそうしてきましたよね。マスクを着ける習慣がついた地域では、柄やデザインがすてきな洗えるマスクを買って楽しむ人もおり、小さなファッション産業になっていますよ。他の人を気遣い、自分が不調の時は喜んでマスクを着けるということこそ素晴らしいことだと思います。

間隔を開けて置かれた椅子に座り、バイデン大統領の演説を見守る出席者たち=ワシントン、ランハム裕子撮影、2021年1月20日

――米国の人は口元でにこっと笑う印象がありますが、最近「スマイズ(Smize、目で笑う)」という言葉が見直されているそうですね。マスクの下でも笑顔を見せることには意味があると思いますか。

笑顔は他の人とつながるための、とても価値のある方法です。相手を歓迎していることや、尊敬していること、そして優しさを表現することができます。ありがたいことに笑みというのは口元だけでなく、目元の動きでも見られます。マスクをしていても、人の目を見て、そこに笑みを見つけてねと私は人によく話しています。米国では以前なら大きな笑顔を見せていた場面で、大きく手を振るようなジェスチャーを見せたり、素早くうなずいたり、あるいは単純に「ハロー!」と声をかけたりしています。誰もがマスクをしていたって、ほんの少しの努力で、ごく普通の影響をお互いに与え合うことはできるんです。(構成・鈴木暁子)

ミシェル・シオタ アリゾナ州立大心理学部准教授。肯定的感情、情動制御、感情のメカニズムなどの研究を続ける。