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マスクを着けたら別人格 人生を大逆転させたプロレスラーの話

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獣神サンダー・ライガーのマスクを手にする中村之洋=益満雄一郎撮影

マスクは何かを隠す消極的なアイテムとは限らない。マスクが心身に力を与え、人生が大逆転することもある。

「山田ってこんなに強かったっけ」。元号が昭和から平成に変わった1989年、プロレス雑誌を読んでいた高校生の私は驚いた。長髪をたなびかせる独特のマスクをかぶり、獣神ライガー(現獣神サンダー・ライガー)に変身した山田恵一が、初代タイガーマスクの好敵手、小林邦昭を撃破し、快進撃を演じたのだ。

獣神サンダー・ライガー=新日本プロレス提供

私は小学生のとき、漫画「キン肉マン」でプロレスにはまった。二つ年下の弟をバックドロップでマットにたたきつけ、プロレス名鑑でレスラーの身長と体重を見比べて大きさや強さを想像する熱烈なマニアだった。

名鑑のなかにとびきり小さいレスラーがいた。山田だ。身長170センチ、体重は90キロ台。掲載された数百人のレスラーの中で、山田と同じぐらい小柄なのは「小さな巨人」グラン浜田か「鬼軍曹」山本小鉄らわずか。あどけなさが残るベビーフェースも華やかさを欠いた。

同世代には、スター候補として売り出された闘魂三銃士(武藤敬司、蝶野正洋、橋本真也)らがひしめいていた。

そんな山田に転機が訪れた。89年の英国遠征の際、所属する新日本プロレスから覆面レスラーへの転身を打診された。永井豪原作のアニメとのタイアップだ。「マスクマンにあこがれていたのでOKの二つ返事でした」。山田は書面インタビューにそう答えた。

「俺は一生、このキャラクターでやっていきます」。30年ほど前、週刊ゴング編集長だった清水勉(64)は山田からこんな決意を聞かされた。清水は振り返る。「それまでもコツコツといい試合を続けていたが、どうしても地味な存在だった。自分に足りないものが分かっていたのではないか」

ミル・マスカラスのマスクなどを手にする元週刊ゴング編集長の清水勉=益満雄一郎撮影

顔を入れ替えた山田は激しいファイトを武器に好勝負を繰り広げ、強烈なキャラクターに生まれ変わった。昨年1月に引退するまで、日本のジュニアヘビー級を代表するレジェンドとして君臨。「マスクをかぶると、完全にライガーとして違う人格になる」と山田は言う。

ライガーのほか、初代タイガーマスクらのマスクを製作してきた職人の中村之洋(54)は「人気レスラーの顔をお預かりし、身が引き締まる思いだ」と語る。

タイガーマスクのマスクを手にする中村之洋=益満雄一郎撮影

覆面レスラーにとって、マスクとはどんな存在なのか。初代タイガーマスクの佐山聡は中村を通して「ファンが自分を見て感激してくれたり、涙してくれたりする、すごい存在だ」とコメントした。佐山は現在、自律神経の病気を患い闘病中だ。

メキシコのスーパースター、ミル・マスカラスを覚えている中高年のファンも多いだろう。試合のたびにマスクを変えて「千の顔を持つ男」と呼ばれ、大ブームを巻き起こした。清水によれば若いころは俳優アラン・ドロン似で、80歳前後とされる現在はショーン・コネリーに近い。

ミル・マスカラス=清水勉さん提供

「でもこの世界はイケメンだからといって成功するわけじゃない。マスクをかぶるとミステリアスな存在になる」。顔よりも、マスクがくれるキャラクターを私たちは愛したのだ。