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技能実習生が迫られる辛い選択、日本の女性にも通じる 映画『海辺の彼女たち』の世界

World Now
映画「海辺の彼女たち」の場面から ©2020 E.x.N K.K. / ever rolling films

――この作品を撮ろうと考えたきっかけは、ミャンマー人の女性実習生だったそうですね。

私の妻はミャンマーの出身なのですが、一時期2人で、日本のビザに関する情報をミャンマー語で発信するフェイスブック(FB)ページを作り、更新していたんです。ビザって難しいですよね。勘違いして日本に来てしまう人もいる。ミャンマーの人の役に立てたらと始めたのですが、このFBがシェアされ、メッセージ機能を通じて、実習生や留学生からものすごい数の問い合わせが来るようになったんです。中には「どこで偽造ビザを作れるか」といった質問をしてくる人もいて、それは無理ですよと伝えたこともありました。

連絡をくれた中にひとりの女性がいました。中部地方で大葉を作る工場で働いているミャンマー人の実習生で、早朝から深夜まで働き、時給は300円ぐらいだという。「今から逃げたいと思っている。怖いけど、周りの人は逃げて自分一人だけ残っている」というのです。

――時給300円なら違法になります。

そうですね、おそらく額面上は契約に基づいた体裁だけど、労働時間が長く割に合わない形になっていたのだと思います。大葉を摘んでいる写真も送られてきました。逃げれば生活も変わってしまう。「なんとか我慢してくれ。大使館に聞いてみるから」と伝えました。でも結局うまくいかず、女性は「もういいです」と。確か「東京に行く」といい、それを最後に連絡が途絶えてしまったんです。逃げるといったって、バイトをして日本に残るんだろうなと心配しました。

藤元明緒さん=JR高田馬場駅前

これが体験として自分の中に残っていた。いつか、実習先から逃げた実習生がどう暮らしていくのかを映画として描けないかと思っていました。

そこから実習生のことを調べるようになりました。17年に映画『僕の帰る場所』が東京国際映画祭で「アジアの未来」作品賞を取り、一般公開も決まった。さて次に何を撮るのかという時に、就労先から逃げた女性を描こうと思いました。

映画「海辺の彼女たち」の1場面を用いたポスター ©2020 E.x.N K.K. / ever rolling films

――今回の作品では、実習生の妊娠も一つの重要なテーマになっています。朝日新聞が報じたものだけでも「妊娠したら帰国させられてしまうから」と、実習生が自宅で薬を飲んで中絶したり、おなかにいた赤ちゃんの死体を遺棄したりするなど、かなりの数に上ります。

実習生の妊娠にかかわる話は以前から、ベトナム以外の国の人たちの間でもありました。記事も読んで影響を受けました。全国ニュースにはなっていなくても、実習生が子どもを中絶するといった例はミャンマーコミュニティーのFBでも目にしました。

個人的なことも重なりました。18年から19年末まで1年間、夫婦でミャンマーのヤンゴンに住んでいたのですが、ちょうどそのころ、妻が妊娠していたんです。妻には日本人の配偶者ビザがあるけれど、外国の人のステータスって綱渡りというか、少しでも日本の制度が変わるとごろっと変わったりする。自分の妻がもしかしたら日本に長期いられなくなるとか、いづらくなるということも起こりうる。もしそうなったら、生まれた子どもはミャンマーと日本のどちらで育てるのだろう、などと考えました。

そういう恐怖感を、映画として描かなきゃいけないんじゃないかと思ったんです。子どもを身ごもった実習生という人物像がまずあり、私たち家族の実際の状況も重なって、脚本を書こうと思いました。

『海辺の彼女たち』撮影現場=E.x.N提供

――妊娠後に、つらい選択を迫られる人がいるという現実があります。生むことも選べるべきだと思いますか。

それはすごく思っています。生物的っていうのか、人間的なそもそもの尊厳の話であって、労働の要因で生めないというのは、すごくいやだ。実習生だけじゃなく、日本人同士でもある問題だと思います。本来、妊娠・出産は当然の権利であるはずなのに、それができないという。そこはこの映画の中で問いたかった部分。

――逃げ出した実習生の一人を演じた俳優のフィン・トゥエ・アンさんは、東京国際映画祭のイベントで、実の姉が10年来台湾で生活していることを明かし、郷里に電話をするシーンでそのことが頭に浮かんだと話していましたね。俳優はどのように選んだのですか。

ベトナム人を主人公にしようと決めてから、ハノイとホーチミンでオーディションをしました。彼女たち自身がこの物語を、演技を通して伝える必要があるかどうかを大事にしました。技術的な演技で表現ができてしまう人も、有名な俳優さんもいましたが、そういう人よりは、彼女たちの人生の中で、この映画に出た意味をみつけてほしいという願いがありました。

別の実習生を演じた俳優クィン・ニューさんは、近所にいた仲の良い友だちが、親に行くように言われて実習生として日本に渡ったそうです。自分はそれほど苦労もせず、いわゆる普通の家庭に育ったが、この映画にすごくシンパシーを感じると話していた。演技は初めてでしたが、天才型の俳優です。

3人のベトナム人俳優と一番話をしたのは、この映画には当事者の方がいるということです。ベトナムには、日本で実習生を経験して帰って来ている人がいっぱいいます。映画が公開されたら当事者が見る可能性が高い。その人たちに、「えー、こんなの映画だけだよ」と思われてしまうと意味がなくなる。そこをなるべく裏切らないようにしたい、というのが演出する上でのテーマでした。

『海辺の彼女たち』撮影現場=E.x.N提供

――技能実習制度について、どのような意見を持っていますか。

実はこの夏、実習生の番組を作ったんです。ミャンマーで放送するためのもので、頑張っている実習生がいるという前向きな内容のものでした。ここで出てきたのは大手企業の取り組みです。

取材して思ったのですが、根本的に零細企業と中小企業には、技能実習制度は向いていない、マッチしないと思うのです。労働力を補充するという観点では合っているといわれるかもしれませんが、そもそもそういう制度として作られていない。建前上の実習になっている。

大手企業ならしっかりトレーニングして、まさにその名の通りの実習ができるでしょう。取材先では海外の企業との連携がされていて、実習生は帰国すると、もともといた部署で実習を生かして働くことができる。都内の有名なホテルも、研修で3年間ベッドメイキングなどをした後、実習生はもともと入社していた会社に戻る。制度として、これぞという感じでした。

でも、日本側はこういった本来の「実習」にはそんなに力を入れていないと思う。どちらかというと零細企業が人手を求めているわけで、そこにずれがある。

たまに、良い制度だからあまり批判しないでくれと言われるのですが、制度がいい悪いというより、そもそも「成立」していない例が多い。帰国後、実習した職に就かない人が半分以上いたりと、本当の意味でこの制度が使われていないことに、なんともいえない気持ちになります。

映画監督の藤元明緒さん。ミャンマーの飲食店が立ち並ぶJR高田馬場駅近くで=鈴木暁子撮影

――技能実習制度に代わるものが必要だとしたら、どういう形が望ましいと思いますか。

いわゆる労働者のビザというステータスを作った方がいいと思います。それと、国の専門機関が労働者の行き帰りの管理をきちんとすべきだと考えます。

本当は日本人とかベトナム人とかじゃなく、そもそもこの人と働きたいんだ、っていうのが絶対にあると思う。相手が外国の人でも同じレベルで考えるという意識が当たり前になれば。働く人や、雇う側の意識改革みたいなことをやっていかないと、仮に制度がよくても人が来ないという事態が起きてしまうでしょう。悪気がある人もない人もいますが、日本で受け入れる側にはちょっと横柄な印象を受けることがある。お願いベースで働きに来てもらうべきはずなのに。

――前作の映画『僕の帰る場所』では、日本での暮らしに慣れたものの、帰国せざるを得なくなったミャンマー出身の子どもと母親、日本に残った父親を描きました。外国出身の家族や友人と身近に接して、私たちが考えなければいけないと思うことはありますか。

前作のモデルになった子どもは7歳と4歳でした。難民として日本に来た父親とよく一緒に過ごしたのですが、町を歩いているときに入国管理局から電話がかかってくることがありました。「ちゃんと、働いていませんよね」って確認の電話です。電話で聞いたって、いくらでもうそはつけますよね。建前と本音みたいな、グラデーションがあると感じました。

もう一つ強く思ったのが、技能実習制度にしても、人材を受け入れることについてはみんなすごく頑張るけれど、ここから帰っていく人については一切触れられていない。日本から「バイバイ」じゃないですが、帰った後のことも考える余地があるんじゃないか。そう考えて「僕の帰る場所」を撮ったんです。来ると同時に、いろんなステータスの人がまた帰国していく。そこも含めて日本人として、ここで暮らしている人間としてずっと見ていく、考えたいって思っています。

ふじもと・あきお 映画監督。1988年大阪府生まれ。大学で心理学・家族社会学を学んだ後、ビジュアルアーツ専門学校大阪放送・映画学科に入学。長編初監督作品は『僕の帰る場所』。『海辺の彼女たち』は2021年春に一般公開が決定。