「国籍取得って養子縁組に似ている。生物学的にはDNAは変わらないが、一緒に生きる家族が変わるような感じ」
コンゴ民主共和国出身のエンジニア、ロンゴ・ツァサさん(60)は妻の日本留学をきっかけに30年前に来日。生活の基盤を構えると決意し、2009年に一家で日本国籍を取得した。日本の国籍法は二重国籍を認めていないため、コンゴの国籍は手放した。犯罪履歴や納税状況といった要件も問題なかった。氏名の並びも日本式に変え、名字のロンゴを先に言う。
長女のニアンギさん(27)は日本生まれ。3歳でウガンダに行き、11歳からは栃木県に。栃木県内の中学校と高校に通い、米国の大学に進学した。今秋はオンライン授業のため、日本で授業を受けていた。「ヘルシーだから」と毎日3個も納豆を食べる一方、日本では生きづらさを感じる。「日本人か、そうでないのか問われている感じ。同じように扱われていないと感じるのもストレス」
米国には、色々な背景を持つ人たちがいる。カウンセラーを目指して大学で心理学を学び、銃社会に不安があっても、いまは米国で暮らしていければと考えている。
「在日のルーツがあることは、親しい人にしか話していない」と言うのは、在日コリアン2世の父と日本人の母との間に生まれた40代の女性。名前は日本名で、子どものころ日本国籍になった。
昔、ゴマのお菓子を笑われたことがある。「日本では食べないんだ」と思った。次第に自分の居場所はここではないと思うように。米国の大学を出て国際NGOなどで働き、欧州や中南米、アフリカ、アジアなど複数のルーツを持つ人たちと出会った。「世界は多様なんだ。壁が崩れ落ちたような気がした」
海外では「コリアにルーツがある」と話していたが、日本では「波風をたてたくない」とためらう。「日本では、肩に力が入っちゃう。在日のルーツがあることは自分の一部分なのに、その色眼鏡だけで見られてしまう気がする」
人が移動し、そこに生活が生まれる流れはきっとこれからも変わらない、と思う。「私たちはずっと前から、そしてこれからもここにいるのに」
北海学園大学の館田晶子教授(憲法学)によると、欧米諸国の多くでは、移民の増加とともに重国籍が認められるようになったという。オランダ・マーストリヒト大学の研究所の調査では、2020年時点で、世界の約76%の国が外国籍を取得しても元の国籍を失わない法制度だという。こうしたことも背景に、国籍と文化・民族的なアイデンティティーが多様であることが受け入れられやすくなっているという。「多様なアイデンティティーを認め合うことの制度的な後押しとして、重国籍の容認は大きな一歩になる」