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苦境の外国人労働者をJICAが支援 生き続ける「緒方イズム」

World Now
水産加工工場で働くインドネシアからの技能実習生ら=2017年12月、宮城県塩釜市、藤崎麻里撮影(本文とは関係ありません)

■アプリで聞き取る労働者の声

この団体は「責任ある外国人労働者受け入れプラットフォーム」(JP-MIRAI)だ。

「外国人労働者の声をよく聞いて、問題を解決することを目指したい」。JICAの宍戸健一上級審議役は、東京で開かれたプラットフォームの設立フォーラムでこう訴えた。JICAは、ビジネスと人権の問題に取り組む一般社団法人「ザ・グローバル・アライアンス・フォー・サステイナブル・サプライチェーン」(アスク)とともに事務局を担う。

外国人労働者の受け入れにかかわる課題を解決するためのプラットフォーム発足にあたって、11月中旬に都内でフォーラムが開かれた=JICA提供

プラットフォームでは、省庁や自治体、外国人技能実習生を受け入れている企業や監理団体、経済団体などが連携し、日本にいる外国人労働者の課題を共有したり、コンプライアンスの強化を呼びかけたりする。現在、76団体・個人が加盟する。労働組合や弁護士らの助言も受ける。

まず取り組もうとしているのは、外国人労働者の声を集めること。ベトナム語など複数の外国語での利用が可能な外国人労働者向けのウェブサイトやアプリをつくって、集めた声を政策提案にいかす狙いがある。

ただ、不当解雇などの苦情など個別企業についての相談を受けることは「現状では含まれていない」(JICA広報室)。外国人労働者の「本音」をどれだけ集められるかは、不透明な面もある。自分の抱えている課題が解決され、声を届けたいと外国人労働者自身が思える窓口になれるかどうかが、情報が集まるかどうかの試金石の一つになりそうだ。

JICAとともに事務局を担うアスクには、すでにタイの事例を参考に開発したアプリがある。労働者から問題があるとの情報が寄せられた場合、勤務先の企業だけでなく、勤務先と取引のある企業にも改善を求めることができる仕組みになっている。すでに、ファッションブランド「ミキハウス」を展開する三起商行(大阪府)が自社と傘下の企業など対象を絞って取り入れている。

NGO「アスク」が開発した、外国人技能実習生からの相談を受け付けるアプリ

プラットフォームでは、2030年を目標に、SDGs(持続可能な開発目標)などでうたわれるような外国人労働者の権利を保護し、環境を改善していくことをめざす。

国際的にも外国人労働者の「争奪戦」ともいえる競争が生まれる中、少子高齢化が進む日本では、外国人の働き手がいっそう必要とされている。11月のフォーラムでも「(外国人労働者に)選ばれる日本に」が合言葉にもなっていたほどだ。一方で、企業のサプライチェーンの中で労働者の人権が損なわれる問題が起きていないかなど、外国人労働者の人権保護は近年、世界的に大きなテーマとなっており、日本企業に向けられる視線も厳しくなっている。

外国人労働者の人権保護へ向け、まず念頭に置かれているのは、技能実習生らだ。

出入国在留管理庁によると、2019年末の技能実習生は前年比25・2%増の約41万人で、過去最多を更新。本来は日本で学んだ技能を母国に持ち帰って伝えるという制度だが、実態は、企業にとって最低賃金で働いてくれる労働力になっている。

■なぜ犯罪に手を染めてしまうのか

「ベトナム人の犯罪者の7割は技能実習生と留学生。どうして罪を犯してしまうのか。外国人を受け入れる制度に構造的な問題があるのではないかという提起をしていきたい」。フォーラムで登壇したワンバリュー社長のフィ・ホアさんはこう話した。

フィ・ホアさんによると、来日前に支払う手数料が100万円と高額で、その借金をして来日していること、その後も親への仕送りを背負っていて、日本で残業するなどして十分に稼げないと、生活が困窮するという状況があるという。

フォーラムで講演するワンバリュー社長のフィ・ホアさん(オンラインの画像から)

さらに、技能実習生は仕事場を原則的に変えられないことも問題を悪化させている。仕事場から失踪する技能実習生は年々増え、2011年ごろには1千人台だった失踪者は18年には9千人を超えた。失踪し、摘発された実習生が回答したところによると、残業時間を実際よりも少なくさせられたり、割増賃金が不払いだったりといった問題が起きていた。法令違反があった事業所も年々増えており、厚労省の調査では、2019年には全体の7割を超える6796事業所にのぼった。

技能実習制度については、米国務省の「人身取引報告書」でも、労働者が自らの借金を返済するため違法な労働環境のもとで働かざるをえない「強制労働」の側面などが指摘された。日本の実習制度に対する国際社会の視線は厳しさを増している。

■変わる実習生の住み方、広がる課題

総菜などをつくる食品工場では、昼休みにミャンマー出身の技能実習生らが日本語を勉強していた=2020年1月、埼玉県越谷市、藤崎麻里撮影(本文とは関係ありません)

実習生の置かれている環境はいま、大きく変化している。

日系ブラジル人の場合、1990年代、派遣会社による受け入れが多く、工場がある近くの地域に集まって住む「集住型」が多かった。会社が通訳などを手配し、生活周りを支援。家族を帯同するケースも多く、子どもたちが学校に通うため、自治体ともつながりやすかった。

だが、近年増えている実習生は、監理団体のほか、勤務先の企業、とくに地方の中小零細企業での受け入れも多い。一般的には通訳が手配されず、生活面での支援が行き届かないケースもあるという。その結果、少人数の外国人が暮らす「散在型」のコミュニティーがあちこちの地方に生まれているのだ。とくに制度上、子どもを連れてこられない実習生の場合は、家族を通じて自治体とつながる機会がなく、孤立しやすい。

一方で、スマートフォンの普及やITの発展を受け、SNS上のつながりが生まれやすくなっている。母国の家族や同じ国籍の人同士でつながる手段になっているが、なかには不安をあおったり、不透明な情報が流れたりしてしまうケースも。フィ・ホアさんは「インターネットやフェイスブックで知り合った人の誘いで罪を犯してしまうことがある」と指摘する。

■支援が必要な人を、助ける

リーマン・ショック後、JICAがNPO法人に委託し、失職した日系人ブラジル人ら向けの介護の講座も開かれた=2009年、三重県鈴鹿市、藤崎麻里撮影

最後に、海外での事業が主体のJICAがなぜ、日本で暮らす外国人労働者の支援を強化するのかという点に触れたい。

長時間労働や不当解雇といった外国人労働者をめぐる課題の増加を受け、JICAは改正入管法が施行された2019年度から、外国人材の受け入れ環境の整備に貢献することを事業戦略として位置づけた。

例えば、来日前から日本語教育などに力をいれ、日本滞在中も、地方にいる青年海外協力隊のOB・OGらが外国人らを支援する態勢づくりをし、日本での技能実習生を終えて帰国した外国人らの就業を支援する。今回のプラットフォームは、そうした支援事業の一環だ。

JICAの国内事業への取り組みに対しては、「所管外」との批判もあるが、そこには「緒方イズム」があるという。

元国連難民高等弁務官で、JICA理事長も務めた緒方貞子さん=2016年5月、浅野哲司撮影

JICA広報室によると、故・緒方貞子氏は理事長だった時代(2003~2012年)に「内外一元化」をうたい、途上国の人の滞在場所ではなく、支援が必要な人に対応をするという考え方を提唱した。実際、リーマン・ショック後に、困難に直面した日本在住の外国人労働者に対する緊急対応を時限的におこなった実績もある。緒方氏は昨年亡くなったが、場所を問わず支援するという考え方はいまもJICAに残っているという。宍戸上級審議役は「実習生や特定技能の問題そのものにはかかわらないが、周辺をお手伝いし、途上国の開発にも役に立ちたい」と語った。

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