■中国に待たされた国連トップ
国連における中国の存在感の高まりを目の当たりにしたのは、昨年9月の国連総会中のことだ。
その日、国連本部地下では中国建国70年の記念式典があった。ふだんは国連で目にすることの少ない数十人の中国人記者が待つ中、グテーレス国連事務総長がきた。分刻みのスケジュールの中で、だ。
ところが、彼は待たされることになる。5分後、ようやく中国の王毅国務委員兼外相が登場。グテーレスは笑顔で出迎え、王の計12分間の演説をじっと横で聞いた。自分の番になると、「中国は国際協調の柱として、重要な役割を果たし続けてきた」と持ちあげた。
■トランプは「国連軽視」鮮明に
今年の総会でも中国の存在感は際立っていた。
コロナ禍を受け、主にオンラインで開かれたことを好機ととらえ、習近平国家主席がたびたび会合で発言した。9月22日の一般討論演説では「国連が国際問題で中心的な役割を果たすことを支援する」と宣言。国連が重視する温室効果ガスの排出ゼロでは「2060年までにめざす」との公約を掲げた。
一方、トランプ米大統領は7分の短い演説をしただけで、「中国」と12回も言及。コロナを中国ウイルスと言い放ち、中国や世界保健機関(WHO)を非難。「私は誇りを持ちアメリカファーストでやっている。それでいい」と国連軽視を鮮明にした。
■国連の4機関にトップ送る
米国はトランプの大統領就任以降、環太平洋経済連携協定(TPP)などから次々に離脱し、WHOへの資金拠出停止も決めた。一方、中国は15ある国連専門機関で、4機関にトップを送り込む。今年は、世界知的所有権機関(WIPO)の事務局長の座もねらったが、米国が対立候補を推して阻まれた。
香港などの人権状況を懸念する声も多いが、経済的に不利な状況になると発展途上国を脅すなどして、国連総会の委員会で欧米諸国を上回る数の「擁護声明」を出させた。
■米国のスキを突く中国
設立75周年の国連は試練の時だ。米・中が常任理事国として拒否権を持つ安全保障理事会は機能不全が目立つ。グテーレスは、年内を期限に改めて紛争地での停戦を実現するよう求めるが、先は見通せない。二つの大国は合わせて国連予算の3分の1(米国22%、中国12%)を占める。再選の目があるグテーレスをはじめ国連が強い姿勢を見せられないのも、ここに理由がある。
米国のスキを突き、国際社会の主役になろうとする中国。対する米国は「国連機関における中国の悪影響に対抗する」(国務省)ための特使を新たに任命した。緊張は高まる一方、ニューヨークの外交官からはトランプ再選をおそれる声が聞かれた。国連は米中のはざまでどう振る舞うのか。米中は歩み寄れるのか。
ミクロネシアのパニュエロ大統領は一般討論演説で「気候変動からコロナまで、米国と中国が、世界の連帯と協力というグローバルな大義のために共闘してほしい」と語った。世界の多くの願いでもある。(藤原学思、文中敬称略)