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「情報が筒抜けに」 海底ケーブルでも「中国排除」鮮明にしたアメリカ

World Now
海底でケーブルの敷設作業をするダイバーたち=NECネッツエスアイ提供

■総延長、地球30周分

横浜港にある大手通信会社KDDIの施設には、いくつもの巨大な「糸巻き」がある。巻かれているのは、糸ではなく補修用の海底ケーブル。ぐるぐると巻きあげられ、直径は大きいもので13メートルにおよぶ。太平洋の海底に敷設されたケーブルに切断や故障が見つかると、船に積みこんで24時間以内に出航する。「東京~香港間(約2800キロメートル)ほどの長さを保管しています」と、子会社KCSの北教之さんは話す。

糸巻きのよう積み重なった海底ケーブル。大きいもので直径は13メートル、上まで積み上げると高さ4メートルになる

海底ケーブルは太平洋や大西洋などの海底に張りめぐらされる。稼働ケーブルは世界で400本を超えるとされ、総延長は地球30周分の長さだ。海の情報ハイウェーともいわれる。事業者のNECによると、国際データ通信の99%は海底ケーブルを通る。膨大なデータを速く、安く、安定して送れるのが強みだ。メールや金融取引情報、国際電話も海底ケーブルを経由する。

■米中の攻防激化

海底ケーブル内に入っている光ファイバー=大室一也撮影

今年8月、海底ケーブルがにわかに脚光をあびた。ポンペオ米国務長官がクリーン・ネットワーク構想を明らかにして、スマホアプリや通信キャリア、海底ケーブルなど5分野で中国企業を排除し、同盟国やその国の企業だけでネットワークをつくると宣言した。背景には中国企業の台頭がある。

米サブコムとNEC、フランスのアルカテル・サブマリン・ネットワークスの日米欧3社で世界シェアの9割を占めてきた。割って入ろうとしたのが中国「華為技術(ファーウェイ)」の関連会社だった。中国は国家政策として世界のインフラをおさえようとする。長いケーブルを敷くには技術力が必要で、中国勢は短距離しか手がけていなかったが、2年前にアフリカ大陸(カメルーン)と南米大陸(ブラジル)の約6000キロメートルをつなぎ、日米欧をあっと言わせた。販売価格の安さも武器にアフリカでも事業を広げている。

海底ケーブル=大室一也撮影

米政府は米国の個人や企業、政府の情報が中国の関与するケーブルを通ると、「中国側に筒抜けになる」と危ぶむ。6月には、米西海岸ロサンゼルスと香港をつなぐ計画に米司法省が安全保障面から待ったをかけた。グーグルやフェイスブック、香港企業が共同で出資して事業を進め、工事は終わりに近づいていたが、ケーブルの陸揚げ先が香港であることを問題視し、完了まぎわに不許可とした。「香港は中国と一体」とみなしたことが背景にある。

結局、グーグルなどは香港の陸揚げをあきらめ、ルートを練り直した。余波は南米にも及んだ。チリ政府は南米とアジア・オセアニアをつなぐケーブルで事業者選びを進めていた。中国企業が優勢とみられたが、チリ政府はこの夏に一転、日本政府などが提案する別ルートを採用。米国政府が中国案への懸念を示し、チリ政府が配慮をみせたという。

■民間事業に国家が関与

中継器(中央下)と海底ケーブル=大室一也撮影(画像の一部を加工しています)

「5Gの次は海底ケーブルだ」。海底ケーブルに詳しい慶応義塾大の土屋大洋教授は今年3月に米ワシントンを訪ねたとき、米関係者にささやかれた。5G分野では米国が中国排除を加速させていた。安全保障面から海底ケーブルの重要さを訴えた土屋だったが、米国の本気度をその時は、はかりかねた。だが8月に実際に動きはじめたことに土屋も「驚いた」。「純粋な民間事業だった海底ケーブル分野に、国家が表だって関与する方針を示すようになった」

【合わせて読む】海底ケーブルで起きた米中の覇権争い、なぜ? 専門家に聞いた

海底ケーブルは1850年代に英仏間のドーバー海峡に世界で初めて敷かれ、日本でも71(明治4)年、長崎と中国、長崎とロシア間に敷かれた。樹脂などを巻き付けた銅線から同軸ケーブル、光ファイバーへ進化。髪の毛ほどの太さの光ファイバーは多いもので数十本束ね、樹脂・金属カバーで保護。細い糸をたらすように海に沈めながら設置する。通信会社が敷設していたが、ネット事業が広がるとケーブルを使う側のグーグルなど巨大企業が自ら敷くようになった。NECの太田崇久さんは「巨大企業が使う通信の容量は半端じゃない。敷いても敷いても、どんどん必要になってくる」。

■進まないサイバー空間のルールづくり

海底ケーブルを修理したり敷設したりする船「KDDIオーシャンリンク」。積載可能な深海用ケーブルは、4500キロメートルの長さになるという=KCS提供

米中が海底でも争うのは、新たな安全保障として浮上するサイバーセキュリティーにかかわるからだ。サイバー空間は海底ケーブルやデータセンターなど物理的なもので構成され、そこをおさえれば相手を制することにつながる。この空間は国際ルールづくりが進まないどころか管理をめぐっても国ごとに立場が違う。中曽根康弘世界平和研究所主任研究員の大澤淳さんは「米日欧は自由で開かれた公正な情報の流通を主張し、中国やロシアは国家主権を強く言っている」と話す。歩み寄れる気配はなく、世界が協調できるのか、先は見通せない。