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「何かを訴えているよう」観測機器の前に現れたホッキョクグマの親子

世界報道写真展から――その瞬間、私は
Polar bear mom and cub visit the ice floe and check out flags and equipment next to Polarstern vessel. October 10, 2019, Esther Horvath
photo: Esther Horvath for The New York Times エスター・ホーバス(ハンガリー)

温暖化の影響が最も深刻な北極海で昨年9月、史上最長で最大となる国際共同観測プロジェクト「MOSAiC」が始動した。日本を含む約20カ国の研究者らがドイツの砕氷研究船で約1年、ノンストップで氷の海を観測航海する。

「今後の数十年で夏の北極海から氷が消滅する危険性が指摘されている」。そう話すエスター・ホーバス(41)は、世界でも珍しい極地取材専門のカメラマンだ。「気候変動の深刻さと、それを極地で観測する研究者たちの姿を写したい」として、MOSAiCに同行した。

エスター・ホーバス(本人提供)

10月10日午後6時、観測機器を設置した直後の氷原に突然、ホッキョクグマの親子が現れた。漆黒の闇を照らす観測船のライトの中心で、機器をチェックしながら何かを訴えているように見えた。わずか30メートルの至近距離からの撮影は初めての経験。「自然からの贈り物」と感じ、写真を通して北極海の危機的な現状を世界に訴えたいと思った。

2015年に米国の雑誌の仕事で観測船の同行取材をしてから「北極海に恋をした」。温暖化で急速に薄くなる氷、縮まる海氷域。人々の問題意識の呼び起こしに写真家としての人生を捧げようと決めた。危機感は取材対象を南極にも広げ、世界の観測プロジェクトを常にリサーチして同行取材を試みる。観測隊や研究者のドキュメンタリーにもこだわり、いつしか極地取材のエキスパートと認知されるようになった。

現地取材を積み重ねてきたからこそ、特に北極海の環境の激変ぶりには目を疑う。「これを止めるにはどうしたらいいのか」。答えを求め、来年もすでに観測船の同行取材を複数予定している。

■観測史上最も暑かった北極

北極圏内のロシアの町で6月、観測史上最高気温とされる38度を記録した。熱波や猛暑。極寒の地ではありえないような異常高温の頻発が、北極の深刻な現状を象徴している。

研究者の間では、北極圏は世界平均の2倍の速さで温暖化が進行しているとされる。高い気温や海水温で氷が薄くなったり解けたりして、夏季の海氷面積は過去35年で約3分の2に減少。2030~50年までには夏季に氷が消滅する危険性が指摘されている。

北極での観測プロジェクトは地球温暖化を理解するために重要で、日本を含む各国が積極的に関与している。