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臭豆腐をつまみに紹興酒を楽しむ 魯迅ゆかりの街、紹興で文豪を思いつつ一杯

At the Scene 現場を旅する
八字橋の上からは、水路に沿って老房子が連なる街並が一望できる

中国経済の中心地・上海から車で南に2時間半ほど。紹興市中心部の魯迅故里(①)は、壁一面に描かれた魯迅のレリーフが目印だ。

一帯には魯迅の旧居や庭園、通っていた私塾「三味書屋」が保存され、幼いころの魯迅をモデルにした銅像があちこちに配され、家族連れでにぎわっていた。

魯迅の旧居敷地内で、幼いころの魯迅を模した銅像(左)の前で遊ぶ子ども

魯迅記念館では、1881年に紹興に生まれ、1936年に上海で55年の生涯を閉じるまでの写真や書簡が展示され、国内外に残した彼の足跡をたどることができる。

20歳から7年間をすごした日本での留学時代に近代化を目の当たりにした魯迅。帰国後は、中国への近代思想や文化の普及をめざし、「新文化運動」の旗手として初の口語文小説「狂人日記」を発表するなど、中国近代文学の地平を切り開いた。

魯迅故里の前には、壁一面に巨大な魯迅のレリーフが描かれている

記念館を出て、「魯迅中路」と名付けられた通りを10分ほど歩くと、咸亨酒店(②)に到着する。

こちらは、魯迅の短編小説「孔乙己」に登場する老舗料理店。店頭には、酒好きの主人公・孔乙己が小説と同じように、カウンターにもたれて一杯やっている銅像が立っている。店内には、作品の一場面をほうふつさせる貼り紙もあり、思わずクスリとさせられた。

魯迅の小説「孔乙己」に登場する咸亨酒店。門の前には、主人公・孔乙己の銅像がある

水の里・紹興を堪能したいなら、市中心部にある八字橋(③)へ。市内に張り巡らされた水路にかかる美しい石橋で、2014年に世界文化遺産に登録された「大運河」の構成要素でもある。橋の上からは、「老房子」と呼ばれる白壁に黒い瓦屋根の古い家々が連なる街並みを一望できる。

八字橋の上からは、水路に沿って老房子が並ぶ街の様子が一望できる

そして、紹興といって忘れてはならないのは、日本でもおなじみの紹興酒だ。モチ米などから作る醸造酒「黄酒」を代表するブランドで、紹興市の特産だ。中国黄酒博物館(④)では、紹興酒の歴史や製法を知ることができる。

色とりどりの絵が描かれた紹興酒の酒壺

博物館を出て小さな路地に一歩足を踏み入れると、暮らしの息づかいが聞こえてくる。軒先に揺れる洗濯物、木陰に出した椅子に腰掛けておしゃべりするお年寄り、台所から聞こえる炒め物の音……。

水路脇で洗濯をしていた住民の陳さん(56)は「豊かな水のお陰で夏は涼しく、冬も過ごしやすい。紹興は街も人も穏やかなんだ」と笑った。

古い街並みを歩いていると、魯迅の小説「故郷」に登場する、さすまたを手にした閏土少年や、豆腐屋小町の楊おばさんが飛び出してくるような。そんな不思議な時間が流れる街だ。

■豊かな食材、繊細な味付け

紹興に来たら、やはり訪れたいのは「咸亨酒店」。紹興料理の名店として、いつもにぎわっている。春秋戦国時代、越の国の都が置かれた紹興で育まれた紹興料理は、豊かな食材と、素材を生かす繊細な味付けが特徴。四川料理、広東料理などと並び、「中国8大料理」の一つに数えられる浙江料理に含まれる料理だ。

手前から時計回りに「干菜燜肉」「茴香豆」「臭豆腐」「咸煮花生」。

菜っ葉の漬けものを干したものと肉厚な豚バラ肉を一緒に蒸す「干菜燜肉」は、店の看板メニュー。漬けものの複雑なうまみがしみた肉の脂身が口の中でとろける。紹興にルーツを持つ周恩来の大好物で、国内外の要人との食事の席にたびたび登場したと言われる一品だ。小説「孔乙己」に出てくる「茴香豆」も注文。ウイキョウで味付けしたゆで空豆で、独特の甘くてしょっぱい風味に手が止まらない。紹興名物・発酵させた豆腐を油で揚げた「臭豆腐」と、茴香豆をつまみに紹興酒で一杯。店員の楊さんが「それが紹興の定番」と教えてくれた。

魯迅の小説「孔乙己」に登場する咸亨酒店の店内には、小説の中で描かれていたように、主人公・孔乙己が店に付けで飲んでいた借金の金額が張り出されていた

■書道の聖地「蘭亭」

中国・東晋の書家で、「書聖」とも称される王羲之の生涯の名筆「蘭亭序」が書かれた場所で、書道の聖地として知られる「蘭亭」。新型コロナウイルス感染予防のため、観光地の多くは入場者数を制限しており、事前予約が必要。入場時間も指定されるなど不便もあるが、普段は人でごった返す観光地をゆっくり散策できる。

■娘の幸せ祈る酒

紹興酒の有名銘柄の一つ「女児紅」。この地域では女の子が生まれたとき、酒を仕込んだつぼを地中に埋め、結婚する時に掘り起こしてみなで祝った風習に由来する。紹興酒を扱う店に行くと、縁起物の絵や漢詩を配した酒つぼが並んでいる。酒に込められた思いを想像しながら眺めてみるのも紹興酒の楽しみ方だ。(宮嶋加菜子)