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ようやく実現したギリシャへの旅 食べる喜びを改めて感じた

マイケル・ブースの世界を食べる
北村玲奈撮影

みなさんは、私が食べるために旅することをよくご存じだろう。新しい味や食感、食材、料理したり食べたりする技術やアプローチ。これらが、他者に出会い、世界を探検することの一番の魅力だと分かった。

もちろん今年は、これまでほとんどどこにも旅行できなかったので、本や記事、写真などを通して、頭の中で旅をするしかなかった。中でも料理によって、世界の食を再訪してきた。すし、タイやインドのカレー、イタリアで食べたパスタの再現。スペイン人にならって塩とオリーブオイルだけで魚介をグリルしたり、フレンチの技法で肉をワインとブイヨンでじっくり煮込んだり。「キッチン・テーブル・トラベル(世界へキッチンから)」とでも呼べるだろうか。

しかし、ついに7月、私と家族は去年から予約していたギリシャでの休暇に旅立つこととなった。ギリシャは、私の第二の故郷であるデンマーク同様、新型コロナウイルスの感染者は少ない。それでもある程度の不安を抱いての旅だった。

マスク50枚に除菌ジェル10本を詰めた。血中の酸素飽和度(数値が低いと感染を疑う初期段階)を測るパルスオキシメーターまで買った。出発前日には自宅でウイルステストを受け、「コロナ旅券」が発行されたのだった。

ただでさえ楽ではない空港や機内が、マスク着用で一層不快となったが(日本への長距離飛行は真の試練となるだろう)、乗りきった。デンマークのコロナ旅券はアテネの空港入国管理で退けられ、家族を代表して妻リスンと息子アスガーが即時検査を受けた。幸い何事もなく通過した。

すぐにタクシーでホテルへと向かった(運転手もマスク姿だ)。受付では、泊まる部屋は消毒済みで、朝食は事前オーダー制であると説明を受けた。そうして、たぶん最大の試練と直面する。外食である。

■海外旅行の新しい形

アテネの街でマスク着用は20人に1人だったが、レストランの接客係は全員がマスク姿。30度以上の気温で口を覆って仕事をするのは地獄に違いなく、その献身に感謝した。暖かい気候であることは同時に、屋外で食事ができることを意味する。現に滞在中、ほとんど全ての食事を屋外で食べた。貸し切りヨットでのイオニア諸島へのクルーズでも、バティやクオニといった美しい港町での食事でもだ。観光客は今年はとても少なかった。

何日か経つと、私はリラックスし、旅を楽しんでいた。ギリシャに再び来られたことをとてつもなく特別だと感じた。これまで外国を訪れ、現地の食を楽しんできた中でこんなにもありがたく、感謝の気持ちをもったことはなかった。そういう意味ではウイルスの「おかげ」と言うべきかもしれない。

新食材の発見も、忘れていた料理の再発見もあった。食がいかに大きな喜びをもたらしてくれるかを改めて感じた。

私がはまったのは、例えばナスのギリシャ流焼き方。直火でグリルする分、強くいぶされた香りをまとう。ムサカ(ナスとじゃがいものラザニア風)は、ほんの少しシナモンを利かせると、遊び心ある、複雑な味わいが生まれると気づいた。トマトソースに香辛料のディルを混ぜるのも本当に気に入った(フランスやイタリアではトマトといえばバジル。ディルなんてほとんど聞いたことがない)。

何よりやみつきになったのは、味わい豊かなのにさわやかなうまみの塊、タラマサラータだ。タラコの燻製にレモン汁を噴射、パンを粉砕、塩を搭載したペーストで、ディップに使う。ピンク色が多いが、薄いベージュのものが最高だ。あまりに夢中になりすぎて、家族は私の手が届かないところへ皿を遠ざけるようになった。さもないと自分たちも味わえないからだ。

振り返りながら、私は思いを巡らせた。この旅行は世界が完全閉鎖する前の最後の歓喜となるのか、それとも国外旅行の新しいモデルになるのだろうか、と。後者であることを祈ろう。そうでないなら、またキッチンへと戻ろうじゃないか。(訳・菴原みなと)