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繰り返される大規模災害に思う 日本は常設の災害救援復興隊を持つべきだ

ミリタリーリポート@アメリカ 更新日: 公開日:
熊本県芦北町の豪雨被災地で、道路の様子を確認する災害派遣の自衛隊員ら=2020年7月6日、恵原弘太郎撮影

本年も記録的大雨による大規模災害が九州を中心に全国各地で発生してしまった。今回の「令和2年7月豪雨」に際しても、陸上自衛隊を主力とした自衛隊災害救援部隊が派遣され、人命救助や被災地救援活動に多大な貢献をした。ちょうど2年前の本コラム(2018年7月29日)でも記したように、大規模自然災害や処理に危険が伴う事故などが発生すると、自衛隊の災害救援部隊が投入されるのがまさに「日常の風景」となっている。(北村淳)

その2年前の本コラムでは、日米共同訓練などを通して陸上自衛隊の現状をある程度認識している米軍幹部たちが非公式ながら筆者に語ったアイデアの一つ、「陸上自衛隊の余剰人員で常設の災害救援隊を発足させる」という私案を紹介した。

これはいまだに米軍関係者たちの間では生き続けている意見であり、その基本的な考え方を実現することがますます急務であると筆者も考えているため、いま一度このアイデアの要旨とそれぞれに対する私の補足説明を記してみよう。

脅威の質と陸海空の兵力バランス

<前回コラムの要旨①>

中国海洋戦力、中国長射程ミサイル戦力、北朝鮮弾道ミサイル戦力などの日本が直面している深刻な軍事的脅威から判断すると、海上自衛隊と航空自衛隊の戦力規模は小さすぎ、反対に、陸上自衛隊の人的規模は大きすぎる。

2年前よりも、さらに中国海洋戦力と中国長射程ミサイル戦力は質・量共に強大化し、海上自衛隊と航空自衛隊の戦力(艦艇数、航空機数、人員数)それに陸上自衛隊の地対艦ミサイル関連戦力の大増強が必要な状況である。(必要と見積もられる戦力の詳細などに関しては稿を改めたい)

陸自に必要なのは8~9万人

<前回コラムの要旨②>
陸上自衛隊の効率的な組織改革と少数精鋭化が達成されれば、必要な陸自の兵力は現在の4割程度、約6万人で十分と思われる。

陸上自衛隊との日米合同訓練などを通しての米海兵隊幹部たちの分析によると、陸上自衛隊は、(1)陸海空を移動展開できる高度な機動力を持った特殊作戦戦力、(2)地対艦ミサイル、地対空ミサイル、イージス・アショア、PAC-3(航空自衛隊から移管)などを運用する防御ミサイル戦力、という二本柱で再編成することにより、兵力6万人の少数精鋭の戦闘集団に生まれ変わらせることができる。

一方、海上自衛隊と航空自衛隊の人員増強を図るために、海上自衛隊や航空自衛隊の関連施設の警備を陸上自衛隊が担当することにする(実際に、このようなアイデアはクロスサービスと呼ばれ検討されている)。こうした自衛隊関連施設の警備戦力として2~3万人が必要になる。これを上記の6万人に加算すると、抜本的再編成を行った陸上自衛隊で必要な兵力は、現在の15万人規模より大幅に少ない8~9万人となる。

常設化で災害救援の専門性高める

<前回コラムの要旨③>
陸上自衛隊からの志願者ならびに自衛隊の再編成による「新生陸上自衛隊」や海上自衛隊そして航空自衛隊への移籍には組み込まれなかった陸上自衛隊員を母体として、これまで陸自が恒常的に投入されてきた災害派遣を専門にする常設の災害救援隊を発足させる。これにより、陸自や警察機動隊などが「かり出されて」実施する災害救援活動より効率的かつ高度な災害救援活動が実施できることになる。

安倍政権による「日米同盟の強化」というかけ声に応じて米海兵隊や米陸軍と陸上自衛隊との合同訓練の頻度が高まるにつれ、米軍側は陸上自衛隊の実情を把握するようになってきている。その結果出てきたのが上記のようなアイデアである。(当然、同盟軍に関する論評になるため、米軍関係者としては公式に提言できる内容ではなく、あくまで私的な提言の域は出ないが、本音を語っているとも言える)

陸上自衛隊は、発足以来現在に至るまで一度も戦闘に投入されたことがない。その一方で、大規模な自然災害や他の行政機関が躊躇(ちゅうちょ)するような事故処理(たとえば伝染病に感染した家畜の殺処分など)には、国際常識に照らすと軍隊としては「異常なほど恒常的」に投入され続けている。ようするに、現在の陸上自衛隊員が経験している「実戦」は、戦闘ではなく災害派遣が全てと言っても過言ではない状況である。

豚コレラの陽性が確認された養豚場前で、豚の殺処分の作業に当たる愛知県職員や陸上自衛隊員ら=2019年2月、愛知県豊田市、戸村登撮影

国家によってその設立目的や法的位置づけに差異があるとは言うものの、国家の軍事組織すなわち軍隊とは、基本的には「国防のための戦闘に打ち勝ち、自国民と国益を防衛する」という役割を主たる任務とする組織であることには変わりはない。

陸上自衛隊が実質的にお家芸としている「災害救助活動」に特化した組織――「常設災害救援復興隊」――を陸自の一部を母体として発足させれば、今のような戦闘と災害救援に二股をかけた中途半端な存在から脱することができる。また、災害救援活動や被災地復興活動に特化した訓練が実施できる上、それなりの専門的な装備も持つことができ、極めて効率が良い組織が完成することになる。

繰り返される災害、安全保障環境の両面を見た方策を

今回、自衛隊の抜本的再編成と「常設災害救援復興隊」の創設に関するアイデアを再び持ち出したのは、日本で毎年幾度となく自然災害が繰り返されているにもかかわらず、効果的な災害救援復興態勢が打ち出されていないからだ。

また、大規模災害の頻発という自然環境の急変以上に、日本周辺での軍事環境は日本にとって恐ろしくマイナスの方向で激変し続けているにもかかわらず、その状況に対応した防衛戦略が策定されるわけでもなく、旧態依然とした自衛隊組織の構造にメスが入れられるわけでもなく、ただ現状維持が図られている状態が続いている。

米軍関係者たちも、「一見すると、海上自衛隊や航空自衛隊を“重視”して、陸上自衛隊を“軽視”するがごとき主張に関して、陸上自衛隊が感情的に組織防衛に走るのは、米陸軍や米海兵隊も同じようなものである」などと話している。

たしかに、大幅な人員削減をともなう陸上自衛隊の抜本的再編成・少数精鋭化という議論は、海上自衛隊や航空自衛隊の強化と結びつけられて、“陸戦力軽視”のように誤解あるいは曲解されがちである。しかし、米軍関係者たちの提案は現在日本を取り巻く軍事環境に対応した日本の国防戦略という観点からの組織再編のアイデアであり、軍種をめぐる利害とは無関係だ。

日本が直面している自然環境と軍事環境は危険水域に達している。自衛隊の抜本的組織再編と常設災害救援復興隊の創設こそ、日々変化し続けている軍事環境と大規模な災害が相次ぐ自然環境の双方に即応する妙案だ。