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あふれかえるコロナ情報 うそから身を守るための見極め方は

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スペインを拠点に調査報道を続けるジャーナリストのセレナ・ティナリ氏=本人提供

「何よりも、流れる情報をそのまま受け止めないこと」とティナリ氏はまず釘を刺した。「今のような異常事態下では、より刺激的な情報を信じたり、過度に希望的な見解を魅力的に感じたりしてしまう傾向がある」

ティナリ氏は大学在学中だった1993年から雑誌に記事を投稿するなどジャーナリスト活動を開始。97年からはイタリアやスイスのテレビ局でドキュメンタリー制作を手がけ、2009年の新型インフルエンザの流行以来、医療問題を取材し続けている。2015年にフリーランスになり、取材の一方、ジャーナリストを育てる機関で講師も務めている。

「例えば」とティナリ氏が例に挙げたのは、日々発表される「感染者数」。様々な地域で増加しているが、「検査人数もわからないのに感染者の数だけ見てもほとんど意味がない」。コロナウイルスによる死者数はどうか。「多少は危険性を示す指標になるが、亡くなったのがどの年代で、元々病気を持っていたのかなどの情報なしに積み上げられた数字を見て不安を感じるのは有意義ではない」と説明する。年代、性別、持病などを統計的に見ることで、「どんな人が気をつけなければいけないのか」ということがわかり、対策も具体的に講じることができる、という主張だ。

ティナリ氏が力説するのは、「社会が当然と受け入れていることにも少し距離をとって考えてほしい」ということだ。「都市封鎖(ロックダウン)」や「非常事態宣言」が感染防止にどれだけ有効なのかは検証が必要で、「いくつかの国では、ロックダウンや非常事態宣言前に感染のピークを迎え、下落傾向に入っていた。これらの施策が全てを押さえ込んだという結論は間違っている」と性急な結論付けに警鐘を鳴らした。

セレナ・ティナリ氏が推薦する、オックスフォード大学などが協力する証拠に基づいた新型コロナウイルスの情報のページ

ティナリ氏は、09年の新型インフルエンザの流行時に、抗インフルエンザ薬「タミフル」についての調査報道に関わった。その結果、多くの人が「治療薬」としてタミフルに期待する中、この薬自体にはウイルスを撃退する効果は十分に立証されず、成人への効果にも確実な証拠が示されていないことが明らかになった。「誰だって不安な病気への薬はほしい。でも実際の効能と期待は一緒ではない」と話す。

今回のコロナウイルスでも、ティナリ氏は、「政府や企業の発表であっても、これは本当かと慎重になってほしい」と呼びかけている。「根拠とされている科学的論文には、専門家同士による相互点検(ピア・レビュー)が十分でないものも多い」というのがその理由だ。

例えば、「マスク着用は新型コロナウイルスの感染を50%抑える」という論文が報じられたが、実験対象はネズミで、人工的な換気の条件下でのものだったという。「実は効果が薄い、という事実と向き合うのはつらいかもしれないが、真実を見つめるべきだ」とティナリ氏は言う。

では、どうすればいいのか。「まずは情報源は何なのか、自分なりに調べること」と言う。気になる情報を見つけたら、政府や企業の発表を見るだけでなく、グーグル翻訳などを使って研究内容を自分自身で読んでみるのが一番のオススメだそうだ。だが、一つ一つの情報を検証することは実際は不可能に近い。「ファクトチェックのサービスを使うのも有用だ」とティナリ氏は言う。

例えば、メッセージアプリの「ワッツアップ」は、ネットを回遊する情報について報道機関などが検証して「正しい」「疑わしい」などと判断した結果を見られるサービスを提供している。

メッセージアプリ「ワッツアップ」では、気になった情報のキーワードを送ると、それに関連した情報の「ファクトチェック(事実確認)」について書かれたメッセージが送られてくる

記者が試しに「Vaccine(ワクチン)」と検索してみると、多くのファクトチェックが表示された。4月末にフェイスブックなどで「コロナウイルスのワクチンができた」との説明付きで出回った写真については、AFP通信が検証し、「写真は韓国のウイルス検査キットだ」とわかったという。対応は英語のみだが、検証結果のリンクもたどれるため、より詳しく読める。

さらに、科学的証拠をベースにした専門的な情報の取得先としてティナリ氏は、英オックスフォード大学などが運営するサイトを紹介してくれた。「メディアや専門家によるファクトチェックのように、力を合わせて『正しい情報』を得る動きが広がっているのは重要だ」と語る。

「外出自粛などで世界にあふれる情報に触れる時間は増えているだろう。そこでより信頼できるものを探せるかどうかが、私たちに問われている」