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長倉洋海さんの写真絵本シリーズ最終巻 タイトル「さがす」に込めた思い

LifeStyle 更新日: 公開日:
玉(ギョク)の市場で出会った少年(中国・新疆ウイグル自治区)

人生は大切なものを探す旅

――シリーズは順に「いのる」「はたらく」「まなぶ」「つながる」「さがす」。なぜこうしたテーマを選んだのですか。

長倉洋海さん(以下、長倉) 最初の「いのる」は写真展がきっかけで出版社から話がありました。2冊目の「はたらく」は僕自身がやりたかったテーマ。世界を旅する中で、家族を支えるために働くたくさんの子どもたちと出会いました。その姿が子どもの頃に家業を手伝っていた自分と重なったんです。そうして人が生きることをいろんな側面から、子どもの姿を通して描きたくなった。すべてに共通するテーマは「生きる」です。

戦乱で焼失し窓枠だけが残った家。それでも人は生きていく。カモミールが咲き乱れる庭には子どもたちの遊び声が響いていた(コソボ共和国)

小学校高学年向けですが、大人も読める本を意識しています。子どもと大人の境界線って曖昧ですよね。「いつ大人になったの?」と言われて「○年○月○日です」って言えないでしょう。僕らはいつ大人になったんだろう。いつ子どもを忘れてしまったんだろう。そんなことを思いながら、子どもがふとした瞬間に見せる大人の表情、大人の中にある子ども心みたいなものを撮ってきた。子どもって相手の職業や国籍で壁を作らない。お金持ちだろうが大臣だろうが嫌な人は嫌。そんなところも面白いよね。

戸板が外れて風が吹き込む海沿いの粗末な家で、家族は「私たちのクーラーよ」と笑った(スリランカ)

――生きることをテーマにしたシリーズの最終巻は「さがす」なのですね。

長倉 人生は大切なものを探す旅のようなものだから。遠くに出かけて見つける人もいるし、すぐそばで見つけられる人もいる。いま見つからなくても、誰かが何かを大切にする姿を心に留めておけば、時を経て人生のステージが変わるときに気付くかもしれない。世界を回り、「生きるって何だろう」と考えてきた僕なりの答えが「さがす」でした。

ただ、どこから読み始めてもいいんです。働き、祈り、人や世界とつながり、ふたたび探しに行ってもいいし、つながることから始めてもいい。新型コロナ感染症対策で活動が制限され、人と会えなかったり、話ができなかったりすることがこんなにも空しいものかと痛感している人も多いと思います。生きるためにつながり、つながるために学び、探すために祈る。生きるということは円のようにぐるぐる回っているものだと思う。

クラウドベリーを採る極北の先住民族ネネツの家族(ロシア)

――「生きるってなんだろう」を探し続けて、わかったことはありますか。

長倉 人はみな、貧しい人もお金持ちも、幸せになりたくて生きているということ。どうすれば幸せになれるのかはわからずにね。

エルサルバドルの難民キャンプで生まれ育ったヘスースという女の子を1歳から結婚するまで被写体として追い続けました。彼女の境遇を、「難民キャンプが故郷だなんてかわいそう」と思うかもしれない。でも彼女は結婚式で、難民キャンプは人生の思い出が詰まった宝石箱なのだと言っていました。

誰しも生きてるからには幸せになりたくて、そうなれる場所や手段を探し続けていますが、幸せの総量は人や境遇によってそれほど変わらないのかもしれない。小さな幸せでもたくさんに感じることもできるし、他人から見ればちょっとの不満でも、それにばかり目がいって幸せを感じられないこともある。人は生まれる場所や境遇を選べない。そこでどう生きるかが大事だと教えられたんです。

叔父さんの農園で働くヘスース(エルサルバドル)

海の底のヒラメのように

――小さな子どもが家族の中で大切な役割を担っているシーンが多いですね。

長倉 僕の実家は雑貨店を営んでいて、僕も子どもの頃から店を手伝っていました。あの頃は嫌で仕方なかったけどね(笑)。でも生きるためには働かなければならない。家族の生活が安定しなければ学校へも通えない。市場の物売りにしても、鉱山の採掘者にしても、だれかが働いてくれるおかげで人々の生活が成り立っている。世界各地で出会った子どもたちは、働いて家族を助け、誰かの役に立っていることに誇りを持っていた。

あの子たちも学校に行きたいと思う瞬間があるでしょう。大人になってからチャンスが訪れるかもしれない。僕は、働くことと学ぶことを行ったり来たりすればいいと思うんです。先の先まで計画しても、計画通りいかない可能性はある。世の中いつどう変わるかもわからない。海の底のヒラメのように世界をぐるりと見渡せば、いろんな生き方が見えてくる。

ちょっぴりの勇気と、喜びや幸せを感じる力があれば、世界に飛び出していける。それが生きることでもあるんだね。

学校から帰り、山から降りて来た家畜を一階に入れる(アフガニスタン)

――子どもの頃に知っておけばよかったと思うことはありますか。

長倉 特にないなあ。僕が人生についてこんなふうに思えるのは、年齢を重ねていろんな経験を積んだから。小さい頃は(出身地の)釧路が嫌で、早く外に出て自分の居場所を見つけたいと思っていた。もしあの頃に幸せは自分の中にあると気付いていたら、釧路を出なかっただろうし、世界を見ることもなかったでしょう。色々な「探しかた」があると思いますが、僕には外に出ることが必要でした。

シリーズを通して伝えたいのは「世界は広くて美しい」ということ。たとえあちこち旅できなくても、誰にでも想像する力がある。1枚の写真や絵から想像を膨らませ、自分の根っこに栄養を与えて、いつか花を咲かせてほしい。10歳、12歳の子どもたちに、67歳のおじさんが言いたいことのすべては伝わらないかもしれないけれど、クエスチョンが残ればいいんです。ある日、写真を撮るヒゲのおじさんが学校に来て話をしていった、すごく楽しそうだったけど、なぜだろう――と。大人になった時、クエスチョンの答えに気付く瞬間がくるかもしれない。そういう種をまければいいと思っています。

生きているあいだ、探しつづける(スリランカ)