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FBの会員情報を大量流用 選挙コンサル元幹部が警告する「コロナ危機と世論操作」

Global Outlook 世界を読む
ケンブリッジ・アナリティカの世論誘導を告発した、元幹部のブリタニー・カイザー氏(本人提供)

ブリタニー・カイザー 1987年、米テキサス州生まれ。1412月から181月までCAに在籍。昨年出版した著書「告発 フェイスブックを揺るがした巨大スキャンダル」で、CAによる世論操作を告発した。非営利団体「Own Your Data Foundation」を立ち上げ、デジタルリテラシー教育向上などを手がける。

ケンブリッジ・アナリティカの本社があったビル=ロイター

数カ月にわたるスケジュール調整の後、ようやくつかまったカイザー氏は、新たな拠点にしているという米ロサンゼルスにいた。スカイプ経由でおこなったインタビューでは、赤いヘアバンド姿でソファに座り、くつろいだ様子で取材に応じてくれた。

――CAは廃業しましたが、前回大統領選では全米の有権者のデータを集めていたそうですね。

我々が米国で持っていたデータベースは、18歳以上のほぼ全員にあたる24000万人分。FBは数十ある私たちのデータ提供会社の一つで、24000万人について1人あたり平均2000から5000のデータポイントを集めていました。そうしたデータは、「エクスペリアン」「インフォグループ」「アクシオム」など、大手のビッグデータ提供会社から提供されたものです。彼らは人々のデータを集め、販売することを中核サービスとしています。

――データポイントとは何ですか?

あなた自身に関する情報のひとかけらです。あなたの名前、住所、あるいはウェブサイトでニュース記事を5分かけて読んだとか、ある写真を30秒間見たとか、もっと細かい情報も含まれます。そうして集められた小さな情報は、あなたはどんな人間で、何に興味があり、どのようにすれば説得できるかなど、正確な人間像をつくるのに役立ちます。

■選挙集会の登録で携帯番号を集めるわけ

――2016年の大統領選の際、トランプ氏の集会に何度も取材にいきました。参加登録の際、携帯電話の番号を入力するよう求められました。そうした情報も使われていたのですか?

その通りです。携帯電話の番号は、選挙陣営があなたにテキストメッセージを送ったり、あなたを陣営のSMS(ショート・メッセージ・サービス)に誘導したりするのに使えます。特に、購買力が低く、社会経済的にも阻害された地域では、スマートフォンさえ買えない人がたくさんいます。SMSは、CAが米国以外のネット普及率が低い地域で使った有効な戦略の一つでした。

ブリタニー・カイザー氏。ケンブリッジ・アナリティカ在籍中の2015年、EU離脱のイベントで登壇した=ロイター

――2016年の米大統領選の頃から、あなたはデータによる世論誘導に懸念を示していました。4年たった現状をどうみていますか?

残念ながら、私たちは当時より守られていない状態にあり、状況はさらに悪くなるでしょう。4年前から、新しいルールや規制はあまり作られていません。今はCAのような企業が数百ある状態で、世界中に広がっています。彼らは、データ駆動によるマイクロターゲティングを理解し、大量のフェイクアカウントなどを作っています。こうしたものは、ソーシャルメディア上で人々の心情を動かすのにとても効果的です。

――状況は悪くなっていると。

はい。状況はさらに悪くなると思います。今年は新型コロナウイルスの感染の広がりで、フェイクニュースや偽情報の問題がより明確になっています。例えば、イランでは新型コロナの治療にメタノールが有効だというフェイクニュースが流れた後、何千もの人がメタノールを飲み、病院に搬送されたり亡くなったりしました。専門家によると、新型コロナについてのフェイクニュースが少なくとも毎日5万本拡散されているといいます。

――CAの予測モデルでは、人々は恐怖によっても影響を受けるといいます。新型コロナが広がり、ビッグデータはさらに世論誘導に使われるのでは。

その通りです。コロナが広がる状況下では、「心配性な人々」を特定できれば、一定の層にはとても有利にはたらきます。米大統領選の予備選期間中にコロナが広がり始めた頃、有権者を抑圧する戦略とよく似た傾向を見て、とても懸念していました。特定の州や地域で、フェイクニュースや偽情報を見た人々が、政府からの外出禁止令が出る前から、自宅にとどまるようになっていたのです。ある人が外出せずに、不在者投票もしなければ、投票行動が全くできないことを意味します。弱い立場に置かれた人の弱みにつけ込むよう、コロナ危機が悪用されていると思います。

■「トランプ氏が勝つ確率は高い」

――米国はコロナの感染者数が世界一となりました。この状況で、トランプ大統領は再選されると思いますか?

トランプ氏は大規模な集会によって多くの支持を広げました。コロナ危機は彼の弱さを露呈しており、トランプ氏には相当不利に働くでしょう。

それでも、今のところトランプ氏が勝つ確率は高いと思います。彼がデータ主導による選挙陣営を持つ唯一の候補者だからです。彼の陣営は、かつてCAにいたチームが主導しています。私が雇い、トレーニングをした元同僚たちが、今年の大統領選のトランプ陣営を動かしています。洗練されたデータベースを活用する場合、そのデータを長く使い、データを追加すればするほど、より有効なデータベースになります。

――今年の大統領選でトランプ陣営の選挙マネジャーを務めるブラッド・パースケール氏は、前回大統領選であなたと一緒に働いていましたね。

ブラッドは当時もトランプ陣営の運営に関わっていましたが、彼自身はデータサイエンスの能力を持っていませんでした。そこでCAを雇ったのです。(CAで働いていた)マット・オゾースキーが、データサイエンティストのチームと共に、(テキサス州)サンアントニオのブラッドのオフィスに詰め、データ主導のデジタル選挙戦を立ち上げました。

トランプ陣営の選挙マネジャー、ブラッド・パースケール氏=ロイター

FBやツイッターのスタッフが陣営オフィスに

――トランプ陣営のデータ分析能力は向上していると思いますか?

もちろん、そう思います。彼らは以前より多くの資金や経験を持っており、前回選挙の時より多い人員を持っています。民主党は当初多くの候補者同士が競合していたので、1人の候補を後押しするためのデータに投資をする時間がありませんでした。(民主党の候補者争いから撤退した)マイケル・ブルームバーグ氏は、ホークフィッシュ(Hawkfish)という会社の設立を手伝いました。私から見れば、これはケンブリッジ・アナリティカの民主党版といえます。この会社はかなり本格的なデータ企業で、反トランプの広告を大量に流していました。ブルームバーグ氏は選挙戦から撤退しましたが、彼らはデータ分析に精通しており、本選挙に向けてデータ駆動によるマイクロターゲティング戦略を続けていくでしょう。

――パースケール氏は、FBが選挙戦で最も強力なツールだったと語っています。賛成ですか?

そう思います。FBはあなたに関する膨大なデータを持っていて、誰かに働きかけることが最も簡単なツールです。

――ツイッターは政治広告を禁止しましたが、FBは容認しています。

FB最高経営責任者の)マーク・ザッカーバーグ氏が政治広告を続けることだけでなく、(FB上で)政治家が規制や法律に従うことなく好きなことを発言できる権利を与えたことに、とても失望しています。私たち市民は法律に従う必要があるのに、政治家は何でも言いたいことを言う権利が守られている。相手を中傷しようが、有権者の投票を抑圧するデジタル戦略を使おうが、人種差別や暴力を扇動しようが、です。これらすべては認められるべきではないし、多くの国で認められていません。なのに、ザッカーバーグ氏は、政治家によるそうした行為を認めている。最大の問題は、新たな法律を作ることではなく、統治されていないと思われるプラットフォームに既存の法律をしっかりと適用させることです。

ブリタニー・カイザー氏(本人提供)

――あなたの著書を読んで驚いたのは、FBやツイッターがトランプ陣営にスタッフを送り込んでいたことです。今も続いているのですか。

間違いなくそうでしょう。FB、グーグル、ツイッターは、「優良顧客に対してVIP対応をしている」と言います。彼らが言わないのは、これは基本的に労働の無償提供であり、対価を受け取らずに選挙陣営のために働いているということです。

■デジタルリテラシー教育の重要性

――データによる世論誘導を防ぐため、政府や個人は何をすべきですか?

三つの異なる手法を考える必要があります。一つ目は、大手IT企業を規制する新しい法律や規則が必要だということ。二つ目は、デジタルに精通した人を増やすことです。例えば、大半の人はフェイクニュースや偽情報の見分け方や、ネット空間での自分自身の守り方、利用規約を読むべきかどうかさえ知りません。だからこそ、デジタルリテラシー教育が極めて重要です。

三つ目は、テクノロジーをより倫理にかなったものにすること。私たち自身もより透明性のあるテクノロジーを作り上げる必要があります。人々が自分自身のデータを所有し、そのデータがどう使われるか、誰にアクセスを認めるかなどを、自分たちでコントロールできるようにすることです。

――あなた自身が作った財団は、どんな活動をしているのですか?

私は2年前に「Digital Asset Trade Association」という財団を立ち上げました。デジタル資産に関する法律や規制作りの手助けをするだけでなく、議員たちの教育や専門家の議会での証言を支援して、法案を成立させる手助けもしています。「Own Your Data Foundation」は、デジタルリテラシー教育に関するもので、IQに似たDQ(デジタル知能指数)というカリキュラムを作り、自分たちが持つデータの守り方や権利についての理解度を測る手助けをしています。ネットやSNS上の感情分析ツールからどうプライバシーを守るか、フェイクニュースや偽情報の見分け方、ハッキングやフィッシング攻撃からどう身を守るかなどのメディアリテラシー教育も支援しています。

世界の様々な団体はこうした教育に10年以上取り組んできており、世界経済フォーラムや経済協力開発機構(OECD)を通じて世界基準になったばかりです。我々は幼稚園から12年生(日本の高校3年生)の教育に取り組んでいますが、成人やプロ向けの教育プログラムも準備しています。

――あなたは今年1月、CAがケニア、ガーナ、マレーシアなどで手がけた選挙運動に関する膨大な文書を公開し始めました。なぜですか?

昨年12月の英国の総選挙後、私たちの選挙が(世論誘導から)いまだ守られていないと気づいたからです。今年の米大統領選の前に、警鐘を鳴らす必要があると心配していました。民主主義を弱め、私たちの個人情報を手に入れることがいかに容易なことかを伝えるため、文書の公表を決めたのです。新型コロナのニュースが収束したらすぐ、さらに多くのことを世界に伝えます。