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より居心地のいい教室のために 支援が必要な子どもと先生を助けるための研究

美ら島の国境なき科学者たち
インタビューに答えてくれたジジさん(チーチン・チャン)は、学校心理士の資格を持つOISTの技術員。

子どもにとって教師とは、教育者としてだけでなく、社会的にも精神的にも、成長を助けてくれる存在として重要な役割を果たします。このことは、自閉症やADHDなどの発達障がいを持つ子どもにとっても同じことです。

過去20年あまりで、スペシャルニーズ(援助が必要な障がい)の子どもたちに対する認識が高まり、無理解による差別的な扱いが減少するにつれて、軽度の発達障がいを持つ子どもたちが通常学級で授業を受けることが多くなっています。子どもたちにとっては、お互いの違いを受け止められられる良い機会ですが、教師にとっては、クラスをうまく運営するために新しいスキルを学ぶ必要があります。ところが、日本の教育現場では、各国に比べて、教師がそうしたスキルを高めるための専門的なトレーニングに費やされる時間が少ないことが問題になっています。

OECD(経済協力開発機構)が発表した、中学校教師の週間勤務時間の内訳。合計勤務時間は各国の平均より長いものの、日本の教師は学級運営のトレーニングなどの専門能力開発に費やす時間が少ない

「教師にとって大きな課題の1つは、教室をお互いの違いを受け止め、お互いを思いやれる環境にするために必要な継続的なサポートと実用的なツールが不足していることです。これにより、障がいのある児童・生徒が授業に参加できなくなったり、クラスメートの注意をそらしたりするなどの行動を見せることがあります」と語るのは、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の心理学者兼研究者であるチーチン・チャンさん(ニックネーム:ジジ)です。

台湾の南にある屏東県で育ったジジは、国立台湾師範大学で特殊教育教師としてのトレーニングを受けました。児童の行動管理と教師のカウンセリングにおいて豊富な経験があります。

「私には、言語障がいを持つ親族がいます。これが私がスペシャルニーズの子どもたちに興味をもったことのはじまりです」とジジは私に説明してくれました。「でも、特別支援学級の教師として何年も仕事をしていると、特別支援サービスの対象とはならないけれども、学習のためにサポートを必要とする子どもたちのグループがあることに気づきました」

そこで、彼女は、より多くの子どもたちをサポートするために、反抗やちょっと気になる行動を防ぐ教室環境の整備方法について小学校の教師をトレーニングしたいと、教育心理学と学校心理学に研究を切り替えました。

「重要なのは、早い段階で予防することです」とジジは言います。 「こうしたトレーニングがなければ、教師は感情的な疲労や燃え尽き症候群に苦しんでしまう可能性がありますし、困難を抱えた児童・生徒は学業成績が低下し、メンタルヘルスの問題や社会的関係の問題に苦しむ可能性もあります」

OIST研究室でのジジ。

ジジは、教師トレーニングプログラムがとても効果的であることを体験しています。米国のミズーリ大学における博士課程で、100人以上の教師と小学校低学年の約2,000人の子どもたちを参加させた研究プロジェクトに取り組んだ時です。ジジは、学級運営プログラムによって、子どもたちの気になる行動を改善できるかどうかを知りたいと考えていました。そこで、教師の半数には6か月の期間にわたってトレーニングを受けてもらい、比較として残りの半数にはトレーニングを受けずに通常どおりに指導を続けてもらいました。

そして6か月後、トレーニングを受けた教師のクラスでは、実験開始前に発達障がいによると思われる行動のレベルが高かった児童が、トレーニングを受けなかった教師のクラスと比較して、感情の調整と積極的な社会的行動の改善が見られ、気になる行動のレベルも低下していることを確認しました。さらに、トレーニングを受けた教師がいるクラスでは、そうした子どもたちの算数の成績に改善が見られました。

「私たちが使用した学級運営プログラムは、特に算数の指導についてフォーカスしていたわけではなかったので、算数の成績の向上には驚きました。これは、困難な行動をより効果的に処理することにより、教師が算数の指導により長い時間を割くことができ、児童の学力がそれによって上がったと考えています」

米国ミズーリ大学での同僚であるKeith Herman博士とWendy Reinke博士とともに2019 年の国際学校心理学会で。

現在OISTでジジは、軽度あるいは未診断の発達障がいを持つ小学生の発達障がいによると思われる行動を解決するための方法を、全国の小学校教諭に対してトレーニングする新しい研究を開始しています。

「通常学級において特別支援が必要な児童が増加しているにもかかわらず、これまでのところ日本でこういった研究はわずかしか行われていません」とジジは説明します。 「日本特有の課題として、みんなが同じことを同じようにできるようになることを重視した学級運営があります。これにより、個別の指導やケアを必要とする神経発達障がいを持つ児童は、必要なサポートを受けられない場合があります。教師が長時間労働している状況ではなおさらです。私は、教師がさまざまな方法を効果的に使えるようトレーニングすることで、この状況の改善になればと考えています」

米国などの他国で使用されている集中トレーニングワークショップを実施する代わりに、ジジは、機能的行動アセスメント(FBA)の使用方法について、教師に日本語でのオンラインコーチングを通じて、より時間効率の良いアプローチを提供することを計画しています。

「FBAは行動介入プログラムの中心です。これにより、教師は発達障がいによると思われる行動が発生する理由をより科学的かつ予防できる方法で特定できるようになります」とジジは述べています。 「FBAのアセスメント結果を使用することで、教師が最も適切な介入戦略を見つけられるようになります」

「FBAは伝統的に、学校で働く心理学者や特別支援教育の教諭が、一般教師と協力することで、子どもたちの発達障がいによると思われる行動を減らすために使用されてきました。しかし、ワークショップやコーチングを通じて、一般教諭もFBAの知識とスキルを習得することができます」

ジジが最初に行いたいと考えているのは、教師に対するオンライン調査とフォーカスグループの採用です。これにより、教師が直面している問題の実態を詳細に把握し、文化的な背景を尊重しながらクラスの運営をより柔軟にできるようFBAを修正していきます。

「その後、プログラムの試用を開始します。希望があれば、全国の教師と児童に必要なサポートを提供できればと思っています」

オンライン調査への参加にご興味のある全国の小学校教諭の方は、chiching.chuang [アット] oist.jpまでご連絡ください。

OIST広報メディアセクション ダニエル・アレンビ)

キャンパスの中庭で、ジジと筆者のダニ。