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五輪を語るプロテニスプレーヤーたちから感じる、心地よい「適度な愛国心」

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ロジャー・フェデラー。2008年北京五輪開会式でスイスの旗手として入場行進した=中田徹撮影

国旗のついたウェアをまとい、4年に一度、世界のアスリートたちが愛国心を胸に挑む祭典、オリンピック。新型コロナウイルスが猛威を振るう中、東京五輪は来年に延期された。あおりを食う選手の中には、グローバル化の波を謳歌してきたプロテニスプレーヤーたちがいる。

リオ五輪開会式で入場行進する日本選手団=林敏行撮影

本来、地球の「良い季節」を満喫する特権を享受する人たちだ。1月なら全豪オープン。ロジャー・フェデラー(スイス)は母国のアルプスが雪化粧している季節に、南半球の日差しの下で躍動し、歓声を浴びる。初夏からはパリの全仏、ロンドンのウィンブルドン、夏の終わりにはニューヨークの全米へ。賞金の原資となるスポンサーと舞台を提供できる都市を行脚し、国家の支援を受けずに自らの力で人生を切り開く。明快な競争原理の下、強い者に富が集中していく。

そんな億万長者たちが、なぜか五輪には吸い寄せられていく。優勝すれば数億円の賞金が懐に入る4大大会と違って賞金は出ないし、金メダルも純金ではないのに。

2016年リオデジャネイロ五輪で目を疑う瞬間を目撃した。世界ランキング1位ながら初戦で敗れたノバク・ジョコビッチ(セルビア)がコートの去り際、悔し涙をぬぐおうともしなかった。「失望しているよ。だってこれは五輪なんだから」

リオ五輪を現地で取材していた稲垣記者のツイート

1990年代の旧ユーゴスラビア紛争で、母国は「悪役」のレッテルを貼られ、首都ベオグラードは北大西洋条約機構(NATO)の空爆を受けた。そんな生い立ちがジョコビッチの母国愛につながっている。新型コロナの感染拡大を受け、人工呼吸器などの購入を援助するために母国に100万ユーロ(約1億2000万円)を寄付すると明かし、目に見える愛国心を示した。昨秋、東京五輪会場のこけら落としとなった楽天ジャパンオープンに初参戦し、しっかり優勝して「予習」を済ませた。

その楽天オープンの決勝でジョコビッチに敗れたジョン・ミルマン(豪州)は、テニス界屈指の五輪好きを自負する。リオに出場した思い出に、右腕に五輪マークのタトゥーを彫り込むほどだ。「開会式の入場行進は、僕の人生の最高の瞬間だった。翌日には試合があったけれど、そんなの関係なかった。母国を代表して、あらゆる競技のトップ選手たちと共に歩く。人生最高の体験だった」。決勝後のインタビューで熱い思いを明かしてくれた。

英国男子として77年ぶりに「聖地」ウィンブルドンの王者に輝き、12年ロンドン、16年リオと五輪を連覇したアンディ・マリーは、リオで開会式の旗手に選ばれたとき、「僕のキャリアで最も名誉な瞬間だ」と吐露した。忖度とは無縁な彼の率直な性格を知るだけに、心からの言葉だと感じた。

昨秋、08年北京五輪金メダルのラファエル・ナダル(スペイン)の故郷マジョルカ島を訪ねたとき、彼の博物館を訪問した。リオ五輪で旗手をつとめたときの大きな写真と、北京の金メダルが目立つところに飾られていた。ジョコビッチ、そして4大大会通算20度の優勝を誇るフェデラーも過去に開会式の旗手を快諾した。男子テニス界のビッグ4も、母国を代表する栄誉はうれしいのだろう。

リオで銅メダルを手にした後、錦織圭(日清食品)はこんな思いを明かした。「本心を言えば、1、2回戦ぐらいは気持ちが入らないまま試合に入っていました。自分は何をめざして戦えばいいんだと」。しかし、選手村で一緒に過ごす日本チームの他競技での活躍を見て気持ちが変わった。「同じ日本人であれだけかっこいい活躍をされると自然と燃えます」「すごいモチベーションが上がって、ここで全部吐き出して帰ろうと思った」

リオ五輪男子シングルスで銅メダルを獲得した錦織圭=竹花徹朗撮影

日本屈指のスターであるにもかかわらず、錦織は自分を誇りたい傲慢さとは縁遠い。「テニスって、純粋に五輪競技と言いにくいというか。競泳や陸上とか他競技のように4年に一度、人生のすべてをかけるひのき舞台ではないじゃないですか」

そこには東西冷戦時代、国威発揚の道具に利用された旧共産圏のアスリートのような強迫観念に近い使命感、64年東京五輪で銅メダルを獲得し、次の五輪への重圧から27歳で自ら命を絶ったマラソンランナー、円谷幸吉に漂った悲壮感はない。

五輪が人生のすべてではない。純粋な栄光への渇望が選手たちを駆り立てる。錦織はじめ、テニスのスターたちの適度な熱さの愛国心が心地良い。