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「ゲイ映画」と呼ばないで ベトナム映画「ソン・ランの響き」の挑戦

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「ソン・ランの響き」監督のレオン・レ(右)と主演俳優のリエン・ビン・ファット=鈴木暁子撮影

「ゲイ映画」への挑戦状

明かりのないビルの屋上。暗闇の中で主人公の2人は語り合い、孤独な心を寄り添わせていく。2人はひかれ合っているように見えるが、寝る時も別々の布団に眠る。体の接触は一切ない。

「たくさんの人に『あの2人の関係は』『兄弟?何なの?』って聞かれたよ」とレ監督は笑う。

監督のレは13歳のときベトナムから米国に渡り、俳優や歌手としてブロードウェーで活動。2012年から同性愛者を題材にした2つの短編映画を発表してきた。

だが、今回特にレ監督がこだわったのは、2人の男性間に「性的な体の接触は一切描かない」ことだった。

「これ『ゲイ映画』ですか、登場人物はセックスするの?ってよく聞かれるんだ。男性2人のラブストーリーはゲイ映画で、セックスとヌードがつきものっていう固定観念がある」とレ監督は言う。「あなたはセックスが怖いのか」「ベトナムでは検閲が厳し過ぎて描けないの」と言われることも。この映画ではそんな固定概念を壊したかった。「見る人の解釈でいいんだ。愛って人がはめようとする型よりももっと大きい。私の経験からそう言える」。

主人公ユンには実在のモデルがいる。ベトナムで悪名高いギャングで、大衆歌舞劇カイルオンの熱烈な支援者だった男だ。「マッチョと暴力の象徴のような人が、当時どこか女性的なものと見なされていた芸術に心を動かされていた。芸術はどんな人の心にも触れるもの。そこには男性的だとか女性的といった、どんな偏見も介在しえない」とレは言う。

映画のもう一つの見どころは、借金の取り立て屋ユンを演じたリエン・ビン・ファットさんの魅力だ。テレビのバラエティー番組などに出演してきたファットさんだが、実は演技は初めて。本作にばってきされ、2018年の第31回東京国際映画祭で、宝石の原石のような若手俳優に贈られる「東京ジェムスト-ン賞」を受賞。米、豪、中など各国の映画祭で作品に賞をもたらした。レ監督も「僕のミューズ」とべた褒めする。

レ監督がファットさんを見いだしたきっかけは、オーディション前に送られてきた写真だ。「外見は荒く、男っぽいのに近づくと目の中に子どもの姿が見える」と監督が表現する通り。言葉少なで、こわもての男なのに、子どもと遊ぶシーンなどにちらちらと優しさが見え隠れする。その孤独さ、その哀愁。ああ、守ってあげたい!そう思わせる何かがあるのだ。

肩を組む監督のレオン・レ(右)と主演俳優のリエン・ビン・ファット=鈴木暁子撮影

ファットさんはこの作品をきっかけにあちこちから出演の声がかかり、昨年末には日本での撮影も。大阪を拠点に活躍するマレーシア出身の監督リム・カーワイ氏が制作中のオムニバス作品で、日本で働くベトナム人の役を演じたという。

「大阪に来て初めて、自分が映画などで見た昔からの日本の光景があると思った。親しみを感じました」。そう話したファットさんは、実際に目の前に現れると、本当に穏やかで、優しい目をした男性だった。これからの活躍が楽しみなベトナムの俳優だ。

映画「ソン・ランの響き」公式サイトはこちら