モンゴルの平原を見下ろす崖の頂に、南アフリカ出身の写真家ブレント・スタートン(50)はいた。眼下には、崖の側面にハヤブサの巣がある。4羽のヒナを残して親鳥が飛び立つのを確認したスタートンは、ロープをたらし、巣の近くまで下降した。すばやく遠隔操作のカメラを設置し、再び上へ戻る。親鳥が戻ったらシャッターを切り、再び下りてカメラを回収した。
こうまでして野生のハヤブサを撮りにきたのにはワケがある。訓練した猛禽類を野に放って猟をする「鷹狩り」で使われる野生のハヤブサが、密猟によって生息数を減らしていると言われていたからだ。
モンゴルや英国などの5カ国を1年かけて取材した結果、多くの鷹匠が暮らしているアラビア半島で問題解決への糸口を見つけた。鷹狩り文化の継承とハヤブサの保護を両立するための革新的な取り組みが行われていた。
特にアラブ首長国連邦では、この15年、野生ではなく、飼育下で繁殖させたハヤブサを使うことで、密猟や違法取引を減らすことに寄与していた。効果は大きく、「中東の鷹狩りで使われるハヤブサは、今ではほとんどが飼育下で繁殖されたものになっている」とスタートン。その結果、一度は廃れかけた鷹狩りが、再び盛り上がりを見せているのだそうだ。
スタートンが写真家としてこだわるテーマは、人と自然の共存。その実現は「人間の選択次第」と強調する。
「野生動物や自然環境が急速に失われている今、あなたの選択がどのような影響を与えるのか、少しの時間でいいので考える習慣をつけてほしい」
写真を通じて最も伝えたい正直な気持ちだという。
■世界中にある鷹狩り文化
発祥は紀元前までさかのぼるとされる。主に中央アジアの遊牧民の狩猟手段として始まったというのが通説。中東でも砂漠で生き抜く生活手段の一つとして紀元前から行われていた。
欧州では中世貴族の娯楽として流行したほか、日本でも支配者の権威の象徴だった。戦国時代では織田信長が大の鷹狩り愛好者として知られている。歴史的にも世界各地に存在した文化だ。
今ではアラビア半島が有名だ。アラブ首長国連邦では、野生のハヤブサやタカの保護が重視されており、飼育、繁殖施設や専用病院まである。欧米では飛行場や養殖場などで野鳥を追い払うために鷹狩りが活用されている。(山本大輔)