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そっけなく見えて実は世話焼き 暮らして分かった、ハノイ人の「情」

私の海外サバイバル 更新日: 公開日:
カフェで接客する長島清香さん=写真は本人提供

カフェ「安南パーラー」マネジャー、長島清香さんの「私の海外サバイバル」 ハノイの旧市街にある「安南パーラー」で2019年8月から、マネジャーをしています。ベトナム伝統のスイーツで果物や寒天、甘く煮た豆や芋類を組み合わせた「チェー」や「ベトナムコーヒー」などを提供しています。「ベトナムの良い物を紹介したい」と、14世紀ごろから陶器を作っているとされるハノイ郊外の陶器工芸村の「バッチャン焼」や、少数民族によるハンドメイド雑貨や工芸品などの販売もしています。

■私のON

仕事は接客のほかにベトナム人スタッフの教育、新商品開発やメニューの考案もします。お客様の9割が日本からの観光客。私も旅が趣味なので、不慣れな土地で心細く感じるのはよく分かります。なので、お客様がほっとするような接遇を心掛けています。

「おいしいレストランは?」「オススメのスパは?」などと聞かれることもあります。そんな時に備え、日頃から自分の足を使って情報収集をしています。

ベトナムの人は一般に「自尊心が高い」と教わりました。スタッフと接する際も、頭ごなしに命令したり、他の人の前で注意してメンツを潰したりしないよう気を付けています。また、相手が理解するまで何度も言葉にして伝えることを心掛けています。言葉や文化、生活環境も違いますから「言わなくても分かるでしょ」は通じません。

ベトナム人は合理的でもあります。「なぜこうしてほしいのか」といった理由が分かれば、案外すんなりと受け入れてくれます。あとはやはり、相手と仲良くなりたければ、その国の言葉を学ぶのがいいですね。スタッフとは普段、英語か日本語で会話しますが、私が時々、片言でもベトナム語を話すと相手の表情が和らぐのが分かります。

「安南パーラーカフェ」のスタッフらと。一番左が長島さん

ベトナムの北部に位置するハノイでは、観光地を除き、初対面の相手にフレンドリーさを感じることはあまりありません。愛想笑いもあまりせず、どちらかと言えばそっけない印象の方が強いかもしれません。少しシャイで、日本人に通じるところがあるようにも思います。

しかし、実際に暮らしてみて顔なじみになると、とても面倒見が良いということが分かりました。ご近所づきあいなど、人と人のつながりが強いです。「昔の日本のよう」とも言われますが、隣人がふらっと家に来てお茶を飲んだり、赤ん坊の世話をしたり、結婚式があると近所総出で料理をつくるなど協力する――。そんな光景は、私にとってはとても新鮮でした。

日本の大学時代、ニュージーランドに短期留学しました。卒業後は、編集プロダクションや地域情報誌、外資のIT系ウェブメディアなどで編集の経験を積みました。「ワーキングホリデーでいつかニュージーランドに戻りたい」とずっと思っていましたが、なかなかタイミングが合わず、海外生活への憧れは「いつか海外で働きたい」という形に変わりました。

ニュージーランドの語学学校で。ここでの経験から、日本語を教えたいと思い、日本語教育能力検定試験を受けることにしたという

そして2015年に一念発起し、シンガポールに拠点を置く、東南アジアで働く日本人向け情報誌に転職しました。17年にフリーライターに転身。半年ほど念願だったニュージーランドでの生活を楽しみました。

その後、以前から興味を持っていたベトナムで暮らしてみたいと考えるようになり、単身でベトナムに行き、シンガポール時代の知人を介して「安南パーラー」の代表と知り合いました。しばらくして、前任マネジャーが契約終了でポストが空くことになりました。代表に「ライターの仕事も継続していい」と言われ、自分にとってもマネジャーは新しい経験になると思い、引き受けることにしました。現在は木~日曜までの週4日勤務して、その傍らライター業も続けています。

【私のOFF】

実は、カフェマネジャー業務に支障のない範囲で、日本での就業を目指すベトナム人エンジニアたちに日本語を教えています。

17年のニュージーランド滞在中に語学学校に通うなかで「自分も日本語を教えてみたい」という思いが強まり、18年に日本語教育能力検定試験を受験し、資格を取得。この資格を生かせないかと思っていたところ、大学の同門会で縁あって紹介してもらいました。

生徒は大学を卒業したばかりの20代前半~30代前半が中心です。学歴や職歴など、高度人材としての要件にあてはまれば、出入国在留管理上の優遇措置を受けられる「高度人材ポイント制」が2012年から日本に導入されました。ベトナムでは多くのエンジニアが日本のこの「高度専門職ビザ」の取得を目指しています。ベトナムに比べ、日本での収入は魅力的なようです。

日本語学校の生徒たちと授業後にビアホイへ。授業以外でも交流があるという。右から3人目が長島さん

私の担当は会話です。みんな人生のチャンスをつかみ取ろうと真剣に日本語を勉強しています。そんな彼らの姿勢に私も刺激を受けています。多くの生徒が日本に行く目的として「家族を助けたい」と言います。私がその一助になれるのであれば、やりがいもあります。無事に日本で就職できた生徒たちから、今でも連絡をもらうことがあり、とてもうれしいです。

カフェマネジャーとライター、日本語教師と「三足のわらじ」を履いているので、丸一日休める日はほとんどありません。が、空いた時間にはカフェで本を読んだり、調べ物をしたりしてゆっくり過ごします。

ベトナムはコーヒーがおいしく、ハノイには素敵なカフェが多いので、お気に入りのカフェを探すのも楽しみです。歴史的建造物を見るのも好きで、ふらっと街を散策したり、お寺をのぞいたりもします。

旧市街にある東河(ドンハー)門。長島さんは「街の表情が毎日変わって飽きることがない」と言う

一人旅が好きなので、まとまった時間が取れたら旅行します。ASEANはブルネイ以外は全て行きました。ハノイは移住というよりは、現在の生活の「拠点」と考えています。これからもできる限りフットワークを軽くして見聞を広め、自分の目線で感じた面白いことや、世界のありようなどを発信していきたいと思っています。(構成・丹内敦子)

北部山岳地帯のサパにて。時間があればベトナム国内もよく旅行するという