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世界の科学者が今注目するテーマは? アメリカ科学振興協会年次総会に参加して

美ら島の国境なき科学者たち
世界の科学者らが集まるAAAS2020 年次大会の会場となったシアトル

世界最高レベルの研究・教育を目指し、50カ国以上から科学者が集まる沖縄科学技術大学院大学(OIST)では、広報活動も世界レベルを目指しています。優れたアイデアを持つ科学者を国境を越えて集めることが、ひいてはOISTの研究の質を高め、沖縄、そして日本が科学技術におけるリーダーを生み出すことにつながります。

そこで大切にしているのが、世界中の科学者やジャーナリストが集まる国際会議に出席し、OISTの存在感を参加者たちに示したり、これから推進すべき科学の潮流について情報収集したりすること。毎年2月に行われるアメリカ科学振興協会(AAAS)の年次大会ものその一つです。

AAASは、世界最大級の学術団体で、有名な科学雑誌『サイエンス』を出版していることでも知られています。科学者間の協力を促進し、科学界から各方面への情報発信を推奨しています。毎年米国内の異なる地域で開催しており、今年はワシントン州のシアトルで開催されました。科学者、政府関係者、大学関係者、ジャーナリスト、学生、そして地元の親子連れなど数千人が集う大規模な会議です。

AAAS会長のスティーブン・チュー博士の講演で幕を開けた2020年の年次大会は、「明日の地球を描く(Envisioning Tomorrow’s Earth)」をテーマに掲げていました。

スティーブン・チュー博士による講演

スティーブン・チュー博士は、レーザー冷却により原子を捕捉する技術研究における貢献が認められて1997年にノーベル物理学賞を受賞し、オバマ政権下で2009年から2013年までエネルギー長官を務めました。実は彼はOISTの設立にも深く関わっていて、OISTがまだその方向性を模索していた時に、その意見を取り入れた著名な科学者の一人とされています。2018年2月に行われたOIST初の卒業式でも祝辞を述べていただきました。これまでに何度もOISTに足を運ばれています。

チュー博士の講演では、世界が直面している課題と、大会の目的が示されました。地球規模の人口増加、そして気候変動は、干ばつを引き起こし、海水レベルを上昇させ、食料問題や環境難民等を生み出します。宇宙に関する研究が進む一方で明らかになっているのは、私たちが住めるような惑星にたどり着くためには4500万年もかかること。この地球を大切にする以外に人類が住める場所はないこと。そのために必要となっていく研究課題の例として太陽エネルギー、クリーンエネルギー、食肉に代わる食料源の開発…。そして、科学に対する市民の信用をいかに獲得していくかといった課題も提示されました。

そんな中、「科学はもっと楽しくできる!(Science can be fun!)」というメッセージもありました。純粋に科学を楽しむことが科学者の役割に尽きるのではないかと、チュー博士のユーモアに溢れるお話を聞いていて感じました。

2018年OISTの博士号修了生に対して熱意溢れる示唆に富んだ祝辞を述べるスティーブン・チュー博士

AAAS 2020年年次会合には、ビッグなゲストも訪れました。マイクロソフト社の創設者で、ビル&メリンダ・ゲイツ財団の活動に力を入れているビル・ゲイツ氏。ゲイツ氏の講演には、大会出席者のほとんどが詰めかけ、大きな会場は席に座りきれない立ち見客で溢れました。ゲイツ氏は、財団が目指す世界の病気・貧困根絶に向けた取り組みに、科学技術が欠かせないと語り、世界の乳児死亡率低下への取り組みには栄養学、腸内細菌研究や遺伝子編集技術が欠かせないこと、そして遺伝子編集技術はHIV、マラリアやコロナウイルスなど地球規模の感染病への戦いのための研究推進や、さらには干ばつに強い植物を作ったりすることで気候変動についても貢献するだろうと科学技術の発展に期待していました。

満席の会場でスピーチするビル・ゲイツ氏

その他、4日間にわたる大会期間には、メインテーマである「明日の地球を描く(Envisioning Tomorrow’s Earth)」に関連する科学のセッション(例:未来の気候、未来のバイオメディカル、未来のデジタル、未来の地球システム、未来の食料、未来の社会倫理…)や、科学コミュニケーションについての講演やワークショップ、そして最新の科学研究についての記者会見などが同じ時間に数十も並行開催されており、参加者は興味に合わせてそれらに参加します。

今回OISTは、他の日本の大学・研究機関と協力して、日本の研究展示ブースを出展しました。東京大学生産技術研究所、横浜国立大学、核融合自然科学研究所、九州大学と共に5機関で知恵を絞ったのは、研究内容も特色も異なる大学・研究機関からそれぞれ紹介したい研究テーマを、一つのまとまりのある展示にしていくためにはどうしたら良いかという問題でした。

そこで考え付いたのが、まずは「日本らしさ」で目を引くということ。「掛け軸」を使って研究を紹介することになりました。OISTが掛け軸の中で現したのは、北斎の「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」の荒波に打たれる波力発電機。OISTの新竹積教授の研究チームが開発しているクリーンエネルギー技術です。この展示に合わせて新作のビデオも公開しました。

AAAS2020の出展に合わせて制作した新竹積教授とその波力発電プロジェクトを紹介するビデオ。
これが波力発電機を掛け軸で紹介したもの。左がデザインにアイデアを出してくれたOISTメディアセクションスタッフのスコッティーと、デザインをしてくれた瀬良垣さん。右が筆者。
AAASの展示会場でも参加者から目を引いて人気だった。

モルディブと沖縄の海岸で実証実験が行われているOIST波力発電プロジェクトについては、新竹教授の魅力的な人柄と合わせて改めてこのコラムでご紹介したいと考えています。

AAASの年次大会には、現在の世界の科学界を牽引している人々がたくさん参加しています。そのため、大会が発するメッセージは米国の、ひいては世界の科学技術政策へも影響します。ですから、今年のAAASの大テーマがサステナブルな未来の地球を目指すものであったことは、地球規模の社会的課題や科学界の方向性を象徴しています。世界中の科学者がこぞってこのテーマに関してAAASで自分たちの研究発表を行うことで、同じ分野の研究者だけでなく、より広い層への興味関心を高めることにつながり、結果としてこうした研究がより大きな広がりや深みを増し、様々な課題解決につながっていくことになるでしょう。

さて、来年のAAAS年次大会はアリゾナ州のフェニックスで行われますが、その大会のテーマが「動的な生態系を理解する (Understanding Dynamic Ecosystems)」に決定しました。生態系が含まれるテーマは幅広いですが、このテーマを科学者が見つめることで進む地球規模の課題解決がたくさんあるといいなと願っています。

スティーブン・チュー博士が言ったように、科学者が科学することを心底楽しむことで、素晴らしい科学研究が行われ、結果として地球の課題解決につながる。それこそが最高のエコシステム(生態系)ではないでしょうか。

(OIST メディアセクション 大久保知美)