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芸能人の謝罪会見見るとスッキリ、なぜ? カギは「シャーデンフロイデ」にある

World Now
学習院女子大学(感情心理学)の澤田匡人准教授=目黒隆行撮影

――シャーデンフロイデとは、そもそもどういった感情なのでしょうか。

シャーデンフロイデは「Schaden(害)」と「Freude(喜び)」を合体させたドイツ語で、簡単に言えば「人の不幸を見聞きして生じる喜び」という意味です。例えば、とんでもないあおり運転をする人や、傲慢キャラで売り出している芸能人を見ていると、気に入らないと思うことがありますよね。そういう人たちが不幸になると、ふさわしいとみなしやすい。ですから、警察に捕まったりすると「ざまあみろ」とか「いい気味だな」といった感情がわくのです。

――迷惑な行為をしている人に対しては、シャーデンフロイデを感じやすいのでしょうか。

だれかに迷惑をかけるような人は罰を受けてしかるべきだという思い込みが、私たちの社会では知らず知らずのうちに共有されています。そういう人は私たちとは違う、だから皆からたたかれてしかるべきだ、と言わんばかりに、私たちは「ふさわしい不幸」へと引き寄せられてしまう。そういう意味で、迷惑はシャーデンフロイデを呼び起こす生き餌みたいなものなのです。

――ここ最近、シャーデンフロイデを冠する学術論文や一般向けの書籍が次々と出ています。

SNSが発達して、ツイッターなどを通じて世界中の不幸をすぐ見つけられるようになりました。ふさわしい不幸かを判定する情報も手に入りやすく、匿名性のある集団の一員と化してたたいたり、不幸を喜んでいるのは自分だけではないと確認したりすることも可能になっています。シャーデンフロイデを身近に感じる機会が増えているのだとすれば、拙訳にもあるように、現代を「シャーデンフロイデの時代」と呼んでも違和感はないでしょう。

――ネットの発達で可視化されるようになったということですね。

それはかなりあると思います。日本には古くから「隣の貧乏鴨の味」という言葉があり、それが転じて「人の不幸は蜜の味」という言葉も生まれました。おいしい、甘い、という言葉が人の不幸を喜ぶ隠語として使われてきたのでしょう。それが脈々と受け継がれているのがネットスラング「メシウマ」(他人の不幸で今日もメシがうまい)だと思います。

――「メシウマ」を使っている人は、シャーデンフロイデという言葉を知っていたのでしょうか。

たぶん、知らないで使っていた方が多かったことでしょう。ですが、私たちは自分が抱いている気持ちに名前が付いていなくても、しっくりくる表現に出合うと「ああなるほど、そういう感情あったな」と気づくことがありますよね。シャーデンフロイデはその一つです。逆に「メシマズ」という言葉もあって、人の幸福でメシがまずいという意味です。人の成功を見聞きして意気消沈してしまうようなことです。これはグラックシュメルツという言葉で表される感情で、研究対象にもなっています。

――シャーデンフロイデって、卑しい感情なのかなと思います。なるべく感じないようにすることはできるのでしょうか。

結論から言うと、シャーデンフロイデを感じるのを避ける必要はありません。なぜなら、傷ついたり、落ち込んだりして低下した自尊心を回復する、心の絆創膏のような効果があるからです。例えば、誰かと競い合って負けると、当然落ち込みますよね。優れた相手を見て劣った自分を思い知らされるだけでなく、時には妬みのような感情もわき上がることでしょう。妬みは「痛み」と言い換えてもよい。そんなとき、自分に痛みを与えた相手が勝手に失敗してくれれば、低下した自分の価値が上がる、つまり、心の中でうずく痛みを簡単に緩和できるわけです。こうした観点から見れば、シャーデンフロイデは、多かれ少なかれ私たちの役に立っている感情の一種だと言えるのです。


さわだ・まさと 1975年、栃木県生まれ。専門は感情心理学、教育心理学。著書に『子どもの妬み感情とその対処』など。2018年、訳書の『シャーデンフロイデ 人の不幸を喜ぶ私たちの闇』(リチャード・H・スミス)が出版された。