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なぜ日本アニメは世界で愛される ディズニーとは対極の「ガラパゴスの力」

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セルビアのアニメ団体「サクラバナ」が主催して定期的に開催している日本作品に特化したアニメやマンガのイベント。コスプレをして参加するファンも多い(サクラバナ提供)

■セルビアにアニメ団体?

「オタク」という言葉が存在しなかった幼少期からアニメ好きだった。『母をたずねて三千里』(放送開始1976年)で涙し、『機動戦士ガンダム』(79年)に熱狂。『天空の城ラピュタ』(86年)で完全にアニメのとりこになった。その後、87年から98年まで、中高、大学を米国で過ごしたが、現地で日本アニメの放送はなく、地元の友人は存在も知らない。話題にすらできなかった11年間の反動で、帰国後ますますアニメにのめり込んだ。それが今、元同級生の米国人でもアニメのいろはを語る。

いったい全体何が起きているの?

アニメ関連の話題であふれるネットを検索しても、なぜ世界で大人気なのかの詳しい情報がほとんどない。ならばと、各国の友人たちに聞くと、熱いメールが次々と届き驚いた。最初に来た返信はセルビアの友人からで「日本アニメに熱狂する団体が地元にある」。

なぜ、セルビアで?

早速取材に行くことにした。

■大人向けか、子ども向けか

移動途中のシンガポール。搭乗便を待つ間、チャンギ国際空港内の映画館でディズニーの新作『FROZENⅡ(アナと雪の女王2)』(19年)を見た。シンガポール在住のマレーシア人の友人(35)にSNSで伝えると爆笑された。

「なぜアナ雪2?ディズニー映画は子どもにせがまれて仕方なく行くものでしょ。あなたいくつ?」
47歳。ただ、内容はとても面白かった。そもそも何が子ども向けで大人向けなのかよく分からない。しかし、その線引きは、世界では明確にされていた。

シンガポールの空港にある映画館で見た『アナと雪の女王2』のチケット

海賊王を目指す主人公と仲間による海洋冒険アニメ『ONE PIECE(ワンピース)』(99年)。超人的な忍び同士のアクションアニメ『NARUTO―ナルト―』(2002年)――。

10時間以上の移動時間を経てようやく着いた、セルビアの首都ベオグラード。ビルの一室で、十数人の若者の会話から、よく知る作品名が聞き取れた。部屋の扉には「サクラバナ」の看板。07年設立で、アニメや漫画好きが集まる「旧ユーゴスラビア圏唯一」の同人会だという。

いまや「アニメ」は世界で日本作品を指す言葉として定着。それ以外は「カートゥーン」などと呼ばれる。「マンガ」と西洋の「コミック」も区別されている。世界のアニメファンの常識だと言われた。
20万人とされる犠牲者が出た旧ユーゴスラビア紛争や、国連による経済制裁の影響が色濃く残っていた05年のセルビアで、サクラバナの設立構想は浮上した。

セルビア・ベオグラードにあるアニメ同人会「サクラバナ」に所属するファンたち。後方の棚には、欧州各地のアニメフェスなどで集めたというワンピースなどの登場キャラのフィギュアが並べられ、販売されていた

「暗く厳しい時代だからこそ、社会の見方に左右されない自由が許される世の中にしたかった」と、発起人のボヤン・ヴカディノヴィッチ(35)。思いついたのが、紛争が始まった90年代前半に地元テレビで見て好きになった『UFOロボ グレンダイザー』(75年)や『超時空要塞マクロス』(82年)などのアニメだった。

「コミックやアニメーションは子どもが見るもので、それを好む大人は奇妙な目で見られる。それだけ欧米のカートゥーンは内容が幼いものばかり。でも、日本のアニメを初めて見た瞬間に『全く違う』と衝撃を受けた。アニメならば世間の常識を破り、大人が見てもおかしくない環境が築けると思った」
国情が安定していくと地元テレビ局にアニメが戻ってきた。

サクラバナでは定期的に現地のイラストレーターらを招き、マンガのワークショップが開かれている

『ドラゴンボール』(86年)や『美少女戦士セーラームーン』(92年)、『デジモンアドベンチャー』(99年)。衛星放送ではワンピースやナルトが視聴できた。今サクラバナには非正規会員も含め1000人規模の参加者がいる。取材に応じてくれた22~35歳の会員11人全てが、欧米のカートゥーンに交ざり放送されるアニメを日本産とは知らずに見て、例外なく「これまでと全く異なり、新鮮」と、とりこになったという。

■主役も敗れ、死ぬ世界

日本アニメは、そこまで違うものだろうか?

勤務する高校でサークルをつくり、生徒たちにアニメの上映会をしているステファン・ミトン・ラドイチッチ(29)の説明が分かりやすかった。

欧州のカートゥーンは、かわいいキャラが動くだけでストーリー性の薄いものが多く、「動く絵本みたいなもの」なのだそうだ。ディズニーやピクサーの劇場映画は物語があって面白いが、主役キャラが1人いて、最後はハッピーエンディングが基本のファンタジーばかり。子どもが夢見る世界を具現化する物語には一定のスタイルがあり、作品が異なっても内容は似通っているというのが、サクラバナ会員の共通認識だという。

一方で、アニメは作品ごとに独特の存在感が際立ち、「自分の趣味や興味にあった作品が必ず見つかる」。アクションに時代劇、学園青春ものにスポ根、料理にロボット、ホラーやSF。サクラバナ会員たちが好きなジャンルもまちまちだ。

『ワンピース』や『ドラゴンボール』、『BLEACH』などのアニメ作品のフィギュア。サクラバナでは欧州のアニメ祭やネット経由で入手し、会員たちに販売している

さらに展開も予測不可能で、主役ですら挫折があり、敗北もあり、死すらある。主役とは全く異なる人格の脇役キャラがたくさんいて、主役以上に目立つような展開は「欧米作品ではあり得ない」という。
そうした作品の代表例として、『進撃の巨人』(13年)や『僕のヒーローアカデミア』(16年)などを挙げた。「子どものころは誰もが主役だと思っていたのに成長すると現実は違う。人生なんでも起きる。リアルで厳しい人生を送るキャラに自分を投影しやすいから深くはまる。欧米では実写でしか作らない大人の世界がアニメにはある」

毎年300作品以上がテレビ放送される日本国内にいると、当たり前となっているアニメの存在が、世界で特別視されているなんて考えもしなかった。国内にいたら見えてこない日本アニメの特異性を外国人たちは自然に感じ取り、そこを魅力としてファンになっていた。

アニメやマンガへのアクセスが困難だった時代から、サクラバナは独自にマンガを集めてきた。今ではセルビア語や英語版に加え、日本語オリジナルのマンガ本まで数百冊を「図書館」に所蔵している

建築家のイリス・グラバシュ(25)は小学生の時、夕方放送のナルトを見るために学校から走って帰宅するのが習慣だった。アニメは毎回、物語がつながって進んでいくので、1編たりとも見逃せない中毒性がある。毎回の展開が完結している西洋アニメーションと比べ、これもまた日本独特の魅力なのだという。

アニメの強みについて日本動画協会はこう分析している。「世界中で増えつつあるオトナアニメ世代にとって、そのニーズを万全に満たせるのは現時点で日本のアニメしかないと言える。この点について非常に大きなアドバンテージを持っている」。同協会によると、日本アニメの海外市場はここ数年で急成長。国内も含めた全体の市場規模2兆1814億円の46%を占める。

■ディズニーとは対極、「狭く、深く」

アニメ熱を実感したセルビアだが、同国内で広く共有された人気ではない。そう言われた時、日本で取材したアニメ評論家の分析を思い出した。

国内外の映画祭で審査員も務める土居伸彰(38)だ。

「海外の人にとっての日本アニメは、ちょっと変わったものだったり、みんなが見ているものとは違うものだったりとして存在しているのが現実のはず。特定のアニメ作品を愛する人が世界の様々な所にいるという見方が正しいと思う」。ディズニーやピクサーは、作品が異なっても世界中で「広く、浅く」刺さるが、アニメは特定の好みを持つ人たちが好きな作品ごとに「狭く、深く」熱狂する傾向が強いという。まさに、その通りだった。

サクラバナのビルから一歩出ると、ベオグラードの街に日本アニメの存在感はない。ところがディズニーの新作映画『アナと雪の女王2』のポスターはあちこちで見かけた

調べてみると、これには制作構造の違いが影響していた。ディズニーは最初から世界公開に向けた市場戦略で制作しており、国ごとにある宗教や政治、生活習慣上のタブーを考慮せざるを得ない。そのため世界共通で受け入れられるよう、物語は単純化する。一方で日本アニメは基本的に国内市場向け。世界を意識したタブーがない分、様々な物語設定が容易だ。

自由だからこそ、世界の常識では驚くほどの暴力シーンや性描写にも寛容になるのだろう。

例えば、昨年日本で爆発的なヒットとなり、世界では『Demon Slayer』の名で話題となった『鬼滅の刃』(19年)。筆者(山本)も熱狂中だが、確かに鬼が人を食い、主役が鬼を殺す流血場面の描写は生々しく過激だ。青春時代に好きだった『うる星やつら』(81年)は女性キャラの肌の露出が特徴的で、世界中にファンのいるワンピースの女性キャラは胸の大きさや腰のくびれなどが過剰に表現されている。

なんでもありの両刃の剣になりうるが、だからこそ、あらゆる好みを満たす多様な作品が生まれる。

「ヘンタイ」「エログロ」から「萌え」「ツンデレ」などまでの日本語が、アニメファンには世界共通語になっているのも理解できる。未成年向けのアニメにも「両刃」の表現方法を多用する日本では、子ども向けと大人向けの境界線があいまいになるのは当然なのだろう。

■製作費も桁違い

予算規模でも米ハリウッド大手と日本では別次元。映画などの米インターネットデータベース「IMDb」によると、1月27日現在ですでに世界歴代10位の大ヒットとなったアナと雪の女王2の制作費は、推定約1.5億ドル(約164億円)。興行収入は世界45カ国・地域以上で14億ドル(約1526億円)を超えた。

一方、国内興行収入歴代1位のスタジオジブリ作品『千と千尋の神隠し』(01年)は制作費推定20億円超とされる。IMDbの最新の統計では約3.5億ドル(約382億円)の興行収入となっている。逆に言えば、海外で広く売るためには、ディズニーと同様の規模感が必要ということなのだろう。

規模が小さいからこそ、原作者や映画監督の創造性やオリジナリティーが作品に反映しやすいという利点はあるという。

ジブリ作品が「宮崎作品」、劇場アニメ『君の名は。』(16年)や『天気の子』(19年)が「新海(誠)作品」などと監督名で世界的に知られるのも、作家性が強く反映されていることをファンが認知しているから。多くの意見を取り込み、組織全体で制作するディズニーやピクサー作品が監督名で知られることはあまりない。強い作家性の反映が可能だからこそ、それぞれの作り手の創造性や独自性が際立つ作品が生まれやすいと、セルビアのアニメファンたちも口にしていた。

それどころか、米ハリウッド作品と比較する質問ばかりする筆者を、「ディズニーやピクサーと日本のアニメは別の存在」「ライバル視することに全く意味がない」などと疑問視するファンが相次いだほどだった。(つづく)

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