南極大陸を巡航する旅行者が増えるにつれ、極地探検の各社はバケットリスト・トリップ(bucket-list trips=死ぬまでに行っておきたい旅)のための、環境に配慮した船舶を進水させている。
国際南極ツアーオペレーター協会(IAATO)によると、2018~19年のシーズンに南極を訪れた観光客は約5万6千人で、14~15年シーズンと比べて53%増加した。
「気候変動が南極旅行への関心が高まっている主な理由だ」とメアリー・カリーは指摘する。小型船クルーズのスペシャリストで、旅行会社「アドベンチャーライフ」の旅行プランナーだ。「南極地域が、今後も現在のようにすばらしいままかどうかは、まったくわからない」と言うのだ。
「南極大陸への旅行プランは1年か2年前に売り切れてしまうことがよくあるので、早めに予約したほうがいい」。彼女のアドバイスだ。
地球最南端の大陸への観光に興味がある?
以下で、ツアーオペレーターによる旅行プランの概要をいくつか紹介する。
アンタークティカ21(Antarctica21)
「アンタークティカ21」は19年11月、南極観光に特化した世界初の船を就航させた。この船は乗客73人を収容できる「マゼラン・エクスプローラー」で、氷探知レーダー技術や熱リサイクルシステム、ゾディアックボート(訳注=ゾディアック社製の強力なゴムボート)10隻を備えている。前方に面した展望デッキやガラス張りのラウンジから主な野生生物を一望でき、デザイン性を重視した客室はバルコニーがあり、個室になっているのが売りだ。
8日間の「クラシックアンタークティカ・エアクルーズ」などほとんどの旅行プランは、ドレーク海峡の荒海を避けるため、プンタアレナス(訳注=南米チリの最南端の町)からキングジョージ島(訳注=南極大陸の沖合に位置)までは飛行機を使う。そこからは船に乗り、ペンギン、クジラ、その他の海洋生物を見ながら南シェトランド諸島と南極大陸の西海岸を巡航する。フルボード(3食込み)の料金は1人1万3995ドルからで、これには南極へのフライトや各種アクティビティーが含まれる。
フッティルーテン(Hurtigruten)
クルーズオペレーター会社「フッティルーテン」は、20年3月に530人乗りの船「MS Fridtjof Nansen」をデビューさせる。最近進水した「MS Roald Amundsen」の姉妹船だ。いずれも科学センターと市民科学プロジェクトが目玉で、低排出エンジン搭載のハイブリッド電源を備えている。
「意識の高い旅行客を、私たちが誇りを持っている環境に優しい技術によって大自然へとお連れしたい」。同社の最高経営責任者ダニエル・シェルダムは、そう語った。
MS Fridtjof Nansenの旅行プラン「凍結大陸のハイライト(Highlights of the Frozen Continent)」は12日間の旅程で、南極半島の各地20カ所ほどを訪ねる。観光客たちはポーラープランジ(polar plunge=極寒の海に飛び込む)をしたり、氷上で一夜を明かすキャンプが当たる宝くじに参加したりすることができる。20年の11月から21年1月まで、計8回の航海が予定され、料金は1人7875ドルから。
リンドブラッド・エクスペディションズ(Lindblad Expeditions)
20年4月には、「リンドブラッド・エクスペディションズ」は69の客室を備えた新造船「ナショナルジオグラフィック・エンデュランス」を運航させる。この船は、科学コマンドセンターがあり、極地氷海の航行可能階級はPC5。これは極地氷海船の国際格付けシステムに基づく分類で、この種の砕氷遠征船としては最強を意味する。他にも、二つの観測「イグルー」(igloo)、つまりインフィニティー・ジャグジー付きのスパや、極地の芸術作品(インスタレーション)なども置かれている。35日間の新旅行プラン「エピック・アンタークティカ」の航海は南極半島、200フィート(約60メートル)のロス棚氷、オーストラリアのユネスコ登録の自然遺産やニュージーランドの亜南極諸島といった自然遺産を探索する。ベテランの自然保護員、有資格の写真撮影指導員、ハイドロフォン(水中聴音器)や水中ビデオカメラを装備した海中スペシャリストが同行する。
「旅行客は、想像し得るほぼあらゆるタイプの氷に遭遇するだろうし、地球上ほかのどこにも見られない固有種を観察するだろう」。同社の遠征隊長Trey Byusは、そう言っている。この旅の出航は、21年12月27日と翌22年1月26日に予定されていて、すべて込みの料金は4万8800ドルから。
アドベンチャーライフ(Adventure Life)
天文学ファンは、今年の12月に進水する「オーシャン・ビクトリー」(客室93)に注目しておくべきだ。旅行用品の会社「アドベンチャーライフ」は、21年12月4日の皆既日食を見るため、サウスオークニー諸島東部の最高の場所に旅行客を連れて行く(このまれな天体ショーは、この地域では2061年まで見られない)。旅行のハイライトは他にもある。サウスジョージア島でのペンギンの繁殖やクーバービル島のウェッデルアザラシ、ルメール海峡のシャチを見ることなどだ。
「お客さまの知識欲に役立つよう、歴史家や生物学者、氷河研究者らの専門家チームが常に同乗している」とアドベンチャーライフの旅行プランナー、カリーは言っている。15日間の旅は、フルボードで1人1万3千ドルから。
クォーク・エクスペディションズ(Quark Expeditions)
「クォーク・エクスペディションズ」は来年、102室の「ウルトラマリン」を就航させる。2機の双発ヘリコプター、20隻の簡便型ゾディアックボートを備えている。旅行客はヘリを使ってのハイキングから遊覧まで、さまざまな冒険飛行で肝試しができる。そこは、いずれも空からでなければ近づけない場所だ。
アウトドア愛好家たちなら、クロスカントリースキーや極地の水上でのスタンドアップパドルボード、氷の荒野でのキャンプが楽しめる。ツアーオペレーター「スコット・ダン(Scott Dunn)」は、ウルトラマリンによる21年の南極大陸への11泊~23泊旅行をフルボードで1人約1万5千ドルから提供する。
ポナン(Ponant)
探検クルーズ会社「ポナン」は、21年5月に進水する新造の電気ハイブリッド船「Le Commandant Charcot」(135の個室付き)で旅行客と科学者たちを一緒に輸送する計画だ。近代的な海洋学機器と調査研究室を備えており、旅行客は科学者たちの研究活動を手助けできる。
「科学者たちのチームは1時間で海氷の調査を実施できるが、200人の乗客たちはその10倍の速さでそれができる」とニコラス・デュブレイユは言う。探検および持続可能性のディレクターだ。
この船には、ホーバークラフトや電動スノーモービル、係留型の熱気球など極地での遊具を積んでおり、旅行客は南極大陸の忘れがたく、もろくもある美しさが堪能できる地点に近づくことができる。シャルコー島とピョートル1世島への探検15日間の旅は次の秋から冬にかけての出発で、すべて込みの料金が1人1万6480ドルから。(抄訳)
(Nora Walsh)©2019 The New York Times
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