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500年前の木造帆船が原型そのまま 奇跡の発見を可能にした条件

ニューヨークタイムズ 世界の話題
In a photo from Deep Sea Productions/MMT, a remotely operated underwater vehicle is launched by the Stril Explorer in the Baltic Sea. In March, an international team of scientists explored a pristine ship remotely, but its identity is a mystery. (Deep Sea Productions/MMT via The New York Times) -- NO SALES; FOR EDITORIAL USE ONLY WITH NYT STORY RENAISSANCE SHIPWRECK BY WILLIAM BROAD FOR JULY 22, 2019. ALL OTHER USE PROHIBITED. --
バルト海の海底に下ろされる探査用ロボット=Deep Sea Productions/MMT via The New York Times/©2019 The New York Times

ヨーロッパ大陸とスカンディナビア半島に囲まれたバルト海。その氷のように冷たい海底で、ルネサンス期の大型帆船が500年もの間眠り続けていた。500年前といえば、コロンブスが「新大陸」を見つけた(訳注=1492年)ごろ。コロンブスの船はとっくに海のもくずと消えたが、同時期のこの帆船は、最近になって突如、目の前に現れたのだ。しかも、上々の保全状態で。

初めての手掛かりは2009年、スウェーデン海事局がソナーを使って海底を測量した際、異常な物体を感知したことだった。その後、19年初めに民間探査チームが天然ガスパイプラインの海底ルートを探索した。その際、同チームが手配したロボットカメラが、軟泥質の海底表面とは違う不可思議な残骸を照射した。

同年3月、科学者による国際的な研究チームが二つのロボットをケーブルでつないで海底に下ろし、探査して記録した。その結果、ルネサンス期の大型帆船であることが判明した。

In a photo from Deep Sea Productions/MMT, a photogrammetric model, created by merging thousands of high-resolution photographs, of a wreck in the Baltic Sea. In March, an international team of scientists explored the pristine ship remotely, but its identity is a mystery. (Deep Sea Productions/MMT via The New York Times) -- NO SALES; FOR EDITORIAL USE ONLY WITH NYT STORY RENAISSANCE SHIPWRECK BY WILLIAM BROAD FOR JULY 22, 2019. ALL OTHER USE
バルト海の海底で撮影された沈没船の合成写真=Deep Sea Productions/MMT via The New York Times/©2019 The New York Times

「驚きだった」と、研究チームを率いた英サウサンプトン大学の海洋考古学者ロドリゴ・パチェコ・ルイス。「私たちは今もまだ、ちょっと興奮している」

水温が氷のように低い海底では、沈没した木造船をエサにしようとする生物は酸素不足で普通の活動ができない。一方、何世紀もの歳月による損耗と水中の微生物などの増殖が繰り返されると、マスト(帆柱)や船体の厚板は、がれきと化し海底の軟泥層に沈んでゆく。

研究チームには博士課程の学生たちも参加していた。海底で、手つかずの状態のまま横たわっていた帆船を見つけた。船体はキール(訳注=竜骨。船底の中心部分を縦貫している部材)からデッキ(甲板)まで良く保存されていた。マストやいくつかのリギン(訳注=索具。マストや帆を支えるロープや滑車などの船具)も良好な保存状態だった。デッキには、他の大型船に船員を運ぶ際に使う小型の木製ボートが、メインマストに寄りかかっていた。

この古い沈没船には、木造の排水ポンプや巻き上げ機、複数のロープを巻き上げる幅広のシリンダー(円筒)を含め、さまざまな珍しい物も目についた。アンカーも見えた。パチェコ・ルイスは、アンカーの存在が15世紀末から16世紀初めの沈没船と時代を特定するのに役に立った、と話した。

研究チームの探査声明によると、船はおそらく軍用船というより商船だったが、旋回砲を備えていた。それは「緊張した状態にあったことの証拠」という。

In a photo from Deep Sea Productions/MMT, remotely operated vehicle pilots conduct an inspection of an intact Renaissance shipwreck Baltic Sea. In March, an international team of scientists explored the pristine ship remotely, but its identity is a mystery. (Deep Sea Productions/MMT via The New York Times) -- NO SALES; FOR EDITORIAL USE ONLY WITH NYT STORY RENAISSANCE SHIPWRECK BY WILLIAM BROAD FOR JULY 22, 2019. ALL OTHER USE PROHIBITED. --
バルト海の海底に沈没した帆船を探査するロボットを操作するメンバー=Deep Sea Productions/MMT via The New York Times/©2019 The New York Times

沈没した帆船の大きさについて、パチェコ・ルイスはインタビューで、52フィート(約16メートル)から60フィート(約18メートル)と明かした。コロンブスが乗ったサンタマリア号は、おおよそ60フィートだったとみられている。またサンタマリア号と一緒に航海したニーニャ号とピンタ号は50フィート近かった。記録によると、サンタマリア号には52人、他の2隻にはそれぞれ18人が乗っていた。

今回バルト海で見つかった船の名前や所属先はまだ特定されていない。今のところ海洋考古学者たちは、スウェーデン語で「未知の船」を意味する「Okänt Skepp」と呼んでいる。パチェコ・ルイスと彼のチームは、船を回収しようとしたり宝物探しをしたりする者を阻むため、船体の正確な位置をわざと隠している。

研究チームは次回、特に船体の厚板を回収するためにバルト海に行く計画だ。この厚板を実験室で分析すれば、人間がいつこの板を手に入れたか、その取得年まで特定でき、建造および出港の時期を正確にさかのぼるのに役立つだろう、とパチェコ・ルイスは語った。

探索は、パチェコ・ルイスが客員研究員を務めるサウサンプトン大学海洋考古学センターとスウェーデンのセーデルトーン大学海洋考古学研究所およびディープ・シー・プロダクション(Deep Sea Productions)、沖合での風力エネルギー発電を手掛ける企業向けなどに海底探査をしているMMT社が共同して実施されている。パチェコ・ルイスは海洋考古学者としてMMTでも働いている。

2019年3月の探査には、サウサンプトン大学とストックホルムのスウェーデン王立工科大学の博士課程の学生も加わった。学生たちは、光の届かない海底でのロボットの操作性や感知能力を高めるための人工知能を開発している。

In a photo from Deep Sea Productions/MMT, students from Southampton University and Stockholm KTH joined the expedition to explore a shipwreck onboard Stril Explorer. In March, an international team of scientists explored a  pristine ship from the Renaissance  remotely, but its identity is a mystery. (Deep Sea Productions/MMT via The New York Times) -- NO SALES; FOR EDITORIAL USE ONLY WITH NYT STORY RENAISSANCE SHIPWRECK BY WILLIAM BROAD FOR JULY 22, 2019. ALL OTHER USE PROHIBITED. --
英サウサンプトン大学とスウェーデン王立工科大学の博士課程の学生たちも探査に加わった=Deep Sea Productions/MMT via The New York Times/©2019 The New York Times

考古学者たちは、沈没船を明るく照らし出し、高解像度の写真を何千枚も撮影した。そしてコンピューターを使って写真を組み合わせ、3Dのように細部まで立体的なポートレートに仕立てた。この合成写真は、通常の一枚写真と比べれば一目瞭然、驚くほど鮮やかではっきりとしている。しかも、沈没した船全体を映し出している。その半面、クローズアップで作った大きなモザイク写真でも、船の全体像はまずつかめない。

パチェコ・ルイスは16年、黒海の海底で見つかった中世の沈没船の探査でも、同じ方法を採用した。その時もサウサンプトン大学の海洋考古学者で組織されたチームで、合成したポートレートは船の残骸を驚くほど細部まで映し出した。

セーデルトーン大学海洋考古学研究所長のヨハン・レンビーはインタビューで、バルト海の沈没船は重要な意味を持つ、と語った。近代の帆船の発達および大航海時代を知るうえで新たなとびらを開けたからだ、と。

「今回の探査結果は、保存状態がきわめて良いという点で、特別な意味を持っている。本当に夢のような話だ」とレンビーは語った。

長年にわたり、海洋考古学者は大航海時代とそれをもたらした大型帆船について、非常に多くのことを習得してきた。「だが、まだ埋められない溝が残されている」とレンビーは言った。バルト海の沈没船は、その一部の詳細を明らかにするのに役立つだろう。

「この種の発見は我々が歴史を理解する上で本当に、本当に重要なのだ」。彼は「本当に」を2度繰り返して、そう言うのだった。(抄訳)

(William J. Broad)©2019 The New York Times

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