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ネトフリは盤石ではない 「おすすめアルゴリズムに代わる何か」が必要だ

World Now
ジーナ・キーティング氏。著書、「NETFLIX コンテンツ帝国の野望」を元に制作され、今年11月に米国で公開されたドキュメンタリー映画の資料より

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――ネットフリックスが米大手レンタルビデオチェーン「ブロックバスター」を激しい攻防の末、倒産に追い込むまでの成長の軌跡を追った本を米国で出版したのは2012年でした。

ネットフリックスがカナダや欧州に進出した直後だったが、あれ以降も同社は大きく変わった。アジアなどに進出した後の16年や17年に書けば、まったく違った本になっただろう。国際市場に打って出ることは、実はとても難しいことだからだ。インターネットの通信回線の環境や銀行の決済システムも国ごとに違い、企業の成長速度を左右する。だからこそ彼らはすごいことをやり遂げた。

――ネットフリックスを取り巻く状況はさらに変化しています。

いま本当に面白いことが起きている。アップルとディズニーの動画配信サービスが11月に始まり、米国では今後半年ほどの間に、大手の制作会社や通信会社の後ろ盾を持つ複数のサービスが始まる。

いずれも大量のコンテンツを持ち、制作経験も長い。これを受け、ネットフリックスの力点は、得意としてきた「おすすめアルゴリズム」などの「技術開発」から、良質なコンテンツの制作へと移っている。

――ネットフリックスは売上の大半をコンテンツの制作や調達につぎ込んでいます。

ネットフリックスのロサンゼルスオフィス。ハリウッド東部の歴史ある撮影スタジオ「サンセット・ブロンソン・スタジオ」の敷地内に立つ=渡辺志帆撮影

ネットフリックスの懸念材料の一つは高額な制作費だ。ハリウッド業界の人たちは当初、新参者のネットフリックスと組むことに慎重だった。そこで優秀な脚本家や有名俳優を起用するために多額の契約金を払うようになり、世界的な制作費の高騰につながっている。これは持続可能とはいえない。

また月額利用料も、ディズニーなどの新規の参入各社は、ネットフリックスより安い。会員からの利用料が頼みのネットフリックスに対し、他社はテーマパークやグッズ販売など複数の収益源があるため、配信料金を長い間低く抑えて競争力を保てる。

コンテンツ数が多ければいいわけでもない。選択肢が多すぎると人は選べなくなるし、アルゴリズムで同じような内容の作品ばかり薦められてもわくわくしない。

優れたアルゴリズムは、黎明(れいめい)期のネットフリックスが他社と差別化できた最大の強みだった。コンテンツが少なく知名度の低い外国作品などが多いなかで、人々はそれまで聞いたこともなかった名作をおすすめ機能をきっかけに知って興奮し、ファンになったものだ。あの時のような「新たな発見の旅」に再びユーザーをいざなう方法を見つけなくてはいけない。

制作や調達に多額の費用をかけた作品の元を取ろうと、しつこくおすすめするのもよくない。制作ペースを落として、どんなコンテンツならば新規会員を呼び込めるのか慎重に決めないと、今後の安定的な成長は難しいだろう。

ジーナ・キーティング氏(右から2人目)。著書を元に制作され、今年11月に米国公開されたドキュメンタリー映画の資料より。

――群雄割拠の動画配信サービス業界は数年後にどうなっていると思いますか?

各社の参入で、ネットフリックスが大量の会員を失うのか。それはしばらく様子を見てみないと分からない。

私に言わせれば、コンテンツも重要だが、プラットフォームの成長の速さを決めるのはユーザー画面の使いやすさだ。ネットフリックスのユーザー画面の使いやすさはぬきんでている。見たい作品がすぐに見つかり、それに追加料金を払ったりしなくていい。これほど世界各地の多彩なコンテンツを集めたサービスもない。

ウォルト・ディズニーは動画配信技術に早くから目をつけて様々な配信モデルを試していたにもかかわらず、コンテンツを違法にコピーされるリスクをおそれるあまり、1話ごとに購入する必要があったり、コマーシャルを挟んだりして、ユーザーの使い勝手を向上させらなかった。人々はオンラインで何でも手に入れる経験に慣れている。たくさんの障壁はそっぽを向かれるだろう。

使いやすさの点では、(米国の)従来のケーブルテレビも、ユーザーの不満が多かった。月額利用料は高額だし、コマーシャルが入る。制作費もネットフリックスほど大胆にはつぎ込めない。

課題はあるものの、ネットフリックスはいずれ、テレビ局から市場の主導権を奪うだろう。広告収入で運営するテレビ局のビジネスモデルは崩壊しつつある。莫大(ばくだい)な資本を持つ制作会社やテレビ局は利幅の狭い動画配信モデルへ、どうにかして転換しなければいけない。また他の動画配信サービスも、同じ社内の制作会社との収益の「共食い」に難儀するはずだ。勝負の行方はまだなんとも言えない。今後20年が勝負になるだろう。(構成・渡辺志帆)