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作り手が減る日本の果物、救うヒントがポルトガルにあった

マイケル・ブースの世界を食べる 更新日: 公開日:
北村玲奈撮影

日本は今、危機に直面している。農家の人たちが年をとり、悲しいことに亡くなっていく中で、彼らの畑や牧草地、果樹園を受け継ぐような若い人がどんどん減っている。地方の農業コミュニティーの場合、容赦ない都市部への移住がその傾向をより深刻化させている。

食料調達の問題に関わってくることは明らかだが、同じくらい重要なのは、日本文化の大切な要素である野菜や果物、コメのユニークで豊富な品種を、だれが守っていくのかということである。

日本食は、日本のみならず全世界にとって貴重な文化遺産の一つとして認識されている。この豊かさ、多様さが失われてしまうことは、地球規模の悲劇なのだ。特に日本の果物や野菜の品種の多くは、世界ではまだほとんど知られていないのだから。

思いがけないところに希望がある。果物栽培のためにポルトガル南部に定住したという年配のフランス系カナダ人夫婦のジャン=ポール・ブリガンとアン・ケニーを最近訪ねた。夫婦は柑橘類を専門としているが、それ自体はなんら特別なことではない。南欧のこの地域はオレンジの産地としてよく知られている。しかし、セルカル・ド・アレンテージョという所の驚くほど豊かな緩やかに起伏した田舎で、小高い丘の上にある豪華な19世紀式の農園ルガール・ド・オルハー・フェリスに着いたとたん、彼らは普通の柑橘類を育てているわけではないとわかった。

あそこに見えるはスミカンか? あれはダイダイの木? 見慣れない垂直の格子をつたって実っているのはユズに見えるが、そんなはずは……あった! 農園は、かくも日本の柑橘類でいっぱいだったのだ。日本でよく見かけたことがある種類がいくつかあったが、今まで見たことも食べたこともないものもあった。全部で350種類もあるという。

絶滅の危機を救う挑戦

アンによると、夫婦はよく日本を訪れていて日本が大好き。私と同じように、特に種類が驚くほど豊富なおいしい柑橘類にすっかり魅了されたそうだ。日向夏やデコポン。私も日本に行くといつも探すが、他の国では見たことがない。

アンと元統計学者のジャン=ポールは、日本の農家の平均年齢がとても高いことを知り、これらの品種が深刻な絶滅の危機にさらされていると実感し、何かしようと決心した。

最初の何年かは、ポルトガルの農家や地元のシェフたちに知ってもらうために様々な木々を育てた。その品種ごとに一番いい木を慎重に選び、輸入する─果汁の多いバンカンや香りのいいスダチだ。

しかし彼らは、ただ日本の品種に限っているわけではない。柑橘類をこよなく愛するアンとジャン=ポールは、他の地域の品種も育てている。例えばポメロにイタリア産シトロンだ。2人が願うのは、こうした話が南欧中に広まり、この地で需要と供給を生み出すこと、それによって果物たちの未来が保証されることだ。

どうして年を重ねてから、こんな物凄い挑戦をするのかと質問してみた(70歳は日本の農家の水準と比べても若いわけではない。しかも、この農園では彼ら2人が唯一のフルタイム勤務者なのだ)。

ジャン=ポールの答えは、シンプルだった。「果物を食べるのが好きだから」。革新的でもある2人は、ユズの木がブドウのように垂直に育つように改良している。そのほうが毎年、実りが早くなることを発見した。

日本の若手農家で新しい取り組みに積極的な人たちは、この夫婦を訪ね、やり方を学ぶのがいいかもしれない。知識の連鎖は、シェアされてこそ完成していく。(訳・菴原みなと)