――中ロは原発輸出を推し進める方針です。どのような懸念がありますか。
中国とロシアの原子力産業が、政府の手厚い補助金を受け、政府の戦略的ツールとして使われていることは確かだ。原子力産業は単に経済的な理由だけで(輸出を)決めているわけではない。中ロの影響力を拡大させるためのツールになっている。
中国が各国にとても魅力的な融資条件を提示し、セールスに使っていることはよく知られている。この手法は、海外の顧客を負債と依存関係の罠に陥れるために利用されている。率直に言えば、中国の原子力産業は経済的な理由だけで決めているわけではなく、そこには政府や中国共産党の影響力拡大に向けた戦略的利益がある。明らかに略奪的な(国の)原子力産業と密に連携することには、(各国に)注意を促したい。多くのことがロシアにもあてはまる。
近年、中国の原子力産業が急速な発展を遂げたのは確かだ。安全規制機関の能力を超えて拡大したのではないかと、懸念する声もある。
――何か対抗策は考えていますか。
我々は昨秋、中国との原子力協力を見直す新たな政策を発表した。2015年に協定を更新して以降、彼らが国際的な市場シェアを得ようとするだけでなく、(米国の)技術を盗み、誤った方法で利用していることに気づいたからだ。中国の軍事活動に転用しているという情報もある。南シナ海の領土拡大に向けて、弾道ミサイルを積んだ潜水艦や空母、水上浮遊型原発の動力源にも使われている疑いがある。
――中国は核不拡散条約(NPT)非加盟のパキスタンにも原発を輸出しています。
通常の保障措置の枠外にあるような国への原発輸出は、もちろん懸念している。中国は自国の原子炉を誇示するショーケースにできる他国の顧客を探している。それが(原子力)外交に重点を置いている理由だ。中国の原子力ビジネスは、他国を依存関係に陥れる政治的、戦略的な意味があり、最終的には政治経済における脅威になることを心配している。各国が適切な注意を払うことを望んでいる。
――イランについてですが、7月に核合意で定めたウラン濃縮度の上限(3・67%)を超えて濃縮を進めると発表しました。どう対応しますか。
とても遺憾だ。我々と交渉をするよう最大限の圧力をかけ続ける。現在の課題は、欧州がイランに(核合意を超えたウラン濃縮を)やめるよう促すことだ。もし何もしないなら、欧州は口出ししないというシグナルを送ることとなり、イランはよりひどいことをするよう促されているように受け止めるだろう。直接的な核拡散の脅威となるだけでなく、対話による解決を阻害する動きとして問題だ。
特に注意したいのは、ウランの濃縮度が、核兵器製造に十分な核物質を持つことと密接な関係にあることだ。欧州はイランによる挑発に何も対応しておらず、実際に核兵器を持つ方向に導いている。欧州が何も対応しないのは恥であり、そんな対応は見たくない。
――日本政府には何を期待しますか。
引き続き、日本とは緊密な連携を望みたい。国際原子力機関(IAEA)の特別理事会の開催を要請したが、国際社会の全ての責任ある当事者が我々の側につくことを望む。イランの現在の行動は危険な挑発であり、まったく受け入れられないことを明確にする必要がある。
――イランとの対話のドアは開かれていますか。
あらゆる問題の解決に向けて、イランと交渉する用意がある。イランが前に進む唯一の道は、我々との交渉のテーブルにつくことだと理解させる必要がある。我々は前提条件なく、イランとゆっくり話し合う用意がある。圧力と負担、痛みから逃れるためには、我々と交渉するしかないと理解することを望んでいる。
――日本は大量のプルトニウムを保有していますが、昨年夏に削減をめざす新たな方針を発表しました。どう評価していますか。
とても喜んでいる。日本は長年にわたって(プルトニウムの)供給と需要が均衡することの重要性を理解しており、1997年に示された方針にも盛り込まれていた。新たな方針が実行に移されるのを楽しみにしている。
――昨年の日米の原子力協定改定では、米国は日本に余剰プルトニウムへの対応を求めたと言われています。
日米は長年、緊密な対話をしてきた。原子力協定は昨年夏に改定の時期を迎え、自動的に延長された。日本との良好な関係には何の問題もなく、プルトニウムについての圧力もなかった。日米の素晴らしい関係が次の30年間も続くことを望んでいる。
――核エネルギーは人類が永遠に使うものですか。それとも次世代のエネルギーへのつなぎと考えていますか。
米国は、保障措置の枠組みやNPTができる前から、原子力の平和利用を強く推進してきた。原子力は発電だけでなく、医学研究や産業利用、健康、安全、真水化など、多くの方法で人類を豊かにできる。だからこそ、こうした技術的な利益が世界中にもたらされるよう、IAEAに最大の貢献をしてきた。米国は誇りを持って、安全で責任ある原子力利用を推進してきたし、これからもそうあり続ける。