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歯を調べて分かった、ワニが「ベジタリアン」の時代があったという事実

ニューヨークタイムズ 世界の話題
A man holds a one-year-old pet crocodile during a gathering of a reptile lovers club during car-free day in central Jakarta, Indonesia December 10, 2017. REUTERS/Darren Whiteside
ジャカルタの歩行者天国で開かれた愛好家の集まりで、1歳のペットのワニを手にする男性=2017年12月10日、ロイター。絶滅した太古の草食ワニ、シモスクスもネコほどの大きさだった

今は中生代で、自分は小さな哺乳類になったと想像してみてください。あたりをかぎまわっていると、ひょっこり小型の爬虫(はちゅう)類に出くわしました。

大きさはネコほど。体はうろこに覆われ、目は大きい。一気に時代を21世紀まで下れば、ワニという生き物がいますが、これとどこか似ています。あなたを見かけると、口を大きく開けて……とても小さな、複雑な並びの歯をのぞかせました。そして、頭の向きを変え、葉っぱをむしゃむしゃと食べ始めました。

――そんな出会いが、有史以前にはよくあったのかもしれない(訳注=「中生代」は2億5千万余~約6600万年前で、恐竜が生きていたときとほぼ重なる)。太古のワニは、植物を食べていたものが多く、少なくとも三つの異なる草食期の発展プロセスがあった――そんな論文が2019年6月、生物専門の米学術誌カレントバイオロジーに掲載された。シモスクス(Simosuchus)と呼ばれる冒頭の絶滅ワニなど、数多くの種の独特な歯の形状をつぶさに調べた結論だ。

現代のワニには、クロコダイルやアリゲーター、ガビアルなどが属し、広く南半球に分布している。いずれも、肉食を主としており、泳ぐのがうまく、同じような歯を持つといった共通の特徴が多い。もし、「はい、チーズ」といってみんなの集合写真を撮ることができれば、笑った口元にはビッシリと歯が並んでいるだろう。どれも単純な形で、先端が丸い円錐(えんすい)状になっている。

これが中生代となると、様相は違っていた。当時のクロコダイル型類(訳注=現生種や絶滅種を含むワニ類の総称)は、多くが地球全体に生息していた。陸にも、海にも、河川にもいた。草食がいれば、肉食や雑食もいた。ただ、その食性にあわせて、歯の形状は異なっていた。「それが研究対象になった」とユタ大学の地球生物学の大学院生で、今回の論文の主執筆者になったキーガン・メルストロームはいう。

歯は、極めて多くのことを語ってくれる。肉食動物なら、鋭くてツルツルしていることが多い。かみついて、肉を引きちぎるのに必要だからだ。草食なら、のみ込む前に食べ物をよくかまねばならないので、歯には凹凸が増え、形状も複雑になる。人間のように雑食なら、両者の中間の特徴を持つ。

メルストロームは、11年からワニの歯に強い関心を寄せてきた。パカスクス(Pakasuchus)という絶滅ワニについての発表を聞いたことがきっかけとなった。口の最前部には犬歯が、奥には大臼歯があり、口を閉じると歯はぴったりとかみ合って収まっていた。歯が口の外にむき出しになる今のワニというよりは、哺乳類の口に近かった。「脳天を打ち砕かれたような衝撃を受けた」とメルストロームは振り返る。

今回の研究でメルストロームは、共著者のランドル・イルミスとともに16種の絶滅ワニの歯146本を調べた。分析には、歯の形状を測る特殊な手法(orientation patch count rotated)を使った。調査対象をスキャンすると、数値スコアがはじき出され、その形状が持つ複雑性が示される。「これによって共通の特徴的な目印がない歯と歯でも、互いに比べ、検証することができる」とメルストロームは説明する。

この手法がとくに役立ったのは、有史以前のワニは、現生種とは類似性がない歯を持つことがよくあるからだ。キメラスクス(Chimaerasuchus)と呼ばれる絶滅ワニの歯の一つは、七つの歯尖(一つの歯の中の尖〈とが〉っている部分)が少なくとも2列ある。一つ一つの歯尖の大きさが違い、エナメル質の山脈のような形をしている。別の絶滅種イハルクトスクス(Iharkutosuchus)には、深い溝が刻まれた大きな四角い歯があった。

今回の研究チームは、分析した歯の形状の複雑性を示す数値スコアを収集し、食性が分かっている現代の爬虫(はちゅう)類や哺乳類の歯のスコアと比較した。すると、絶滅ワニ種の半分は、草や葉を食べていたらしいというびっくりするような結果が出た。

それだけではない。いくつかの種は異なる系統に属していた。クロコダイル型類の歴史の中では、草食は決して例外ではないばかりか、少なくとも3回は草食期の発展プロセスがあったことがうかがえた。

では、草食性の絶滅ワニは、なぜ白亜紀(訳注=中生代の最後の時代区分で、約1億4500万~6600万年前)を超えて生き延びられなかったのか。気候が寒冷化したせいなのか。植生が変わったからなのか。哺乳類との生存競争に敗れたのか。その謎に迫ることが、今後の研究課題になるとメルストロームは語る。

これまでも、クロコダイル型類の中に草食ワニがいたことは推測されていた。今回の研究は、これに「初めて数量的な支えを与えた」と脊椎(せきつい)動物が専門の古生物学者アッティラ・オーシは評価する。ハンガリーの名門エトベシュ・ロラーンド大学の専門家だ(この研究には加わっていない)。

そして、こうした太古のワニは、「中生代の草食動物の世界では、重要な構成員だった可能性がある」とこの研究に潜む広がりを指摘した。(抄訳)

(Cara Giaimo)©2019 The New York Times

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