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ケニアで見つかった世界最小の類人猿、猫より小さかった

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
世界最小の古代類人猿とされるSimiolus minutusの歯の化石=James B. Rossie, Andrew Hill via The New York Times/©2018 The New York Times

低木が広がる酷暑の地、ケニアのトゥーゲンヒルズ。ここで見つかったごく小さな歯の化石から、世界で最も小さな古代の類人猿(訳注=原語はape。人間以外のシッポのない猿)の存在が確認されたことが、新たな研究結果で明らかになった。

学術名Simiolus minutus。体重は、飼い猫の平均値よりやや軽い8ポンド(約3.6キロ)と推定される。現在の大型類人猿のゴリラやチンパンジー、オランウータンと比べると、まさにミニチュアだ。1250万年ほど前に、木の上で葉っぱを食べて暮らしていたと見られる。しかし、同じ食物をとるコロブス亜科(訳注=霊長目オナガザル科の亜科の一つ)のサル(訳注=原語はmonkey。ape以外の猿)との生存競争に敗れ、絶滅してしまった。

「相手との能力の違いを無視して、戦いを挑んだのも同然」とニューヨーク州立大学ストーニーブルック校の古代の霊長類学者ジェームズ・ロッシーは説明する。「銃を相手に、ナイフで立ち向かった。そのナイフも、よく見るとピクニック用のプラスチック製のものだった」

出発点となったのは、大臼歯の化石だった。イエール大学の同僚アンドリュー・ヒルとともに2004年に見つけた。これを研究した論文がこのほど、専門誌Journal of Human Evolutionのサイトで発表された。中新世と呼ばれる時代のできごとで、類人猿とサルとの間にあった厳しい自然淘汰(とうた)が浮かんでくる。

中央の小さな「b」がSimiolus minutusの大臼歯。左の「a」はチンパンジーの口蓋(こうがい)=James B. Rossie, Andrew Hill via The New York Times/©2018 The New York Times

それまでは、類人猿が支配的な存在だった。ところが、それがこの時代に逆転する。現在では、コロブス亜科のサルだけで、ルトンやシシバナザルなど60種以上もがアジアからアフリカにかけて生息している。この推移を映画化すれば、「サルの惑星の隆盛」という題名にでもなろうか。

なぜ、Simiolusなどの小型のものを含めて、多くの類人猿が姿を消したのかは、よく分かっていない。サルとの生存競争の激化や環境の変化が原因ではないかというのが、現在では中心的な仮説になっている。

いずれにしても、その時代の影響は、今もはっきりと残る。類人猿の種は、20ほどしかない。一方、アフリカとアジアの「旧世界ザル」(訳注=中南米の「新世界ザル」と対比した新旧大陸別の分類)の種は、130を超える多様さを誇る。

ところが、今はその双方に、もっとおそろしい脅威が出現している。人間による生息環境の破壊が主な要因となり、類人猿もサルも生息数を減らすようになってしまった。

今回の大臼歯を発見したとき、ロッシーもヒルも、ある博物館に保管されている二つの歯に似ていると思った。1970年代と80年代に採取されたものだった。合わせて三つしかなかったが、これまで明らかにされていた種の歯とは明白に違っていた。新種の類人猿に違いないと早くから確信していたとロッシーは言う。

「アリゾナの砂漠で、火星からきた宇宙船が1機墜落しているのを見つけたのと似たようなもの」とロッシーは例える。「それが何なのかを知るのに、12機も見つける必要はない」

発見した大臼歯は、直径が約0.15インチ(3.8ミリ)だった。これからあごと体の大きさを推定することができた。すると、古代の絶滅種から現存種までの、知られているどの類人猿よりも小さかった。ちなみに、現存種の最小はテナガザルで、体重は10~30ポンド(約4.5~13.6キロ)だ。

歯の形状を詳しく分析した結果、完全な葉食動物かどうかはともかく、葉を食べていた特徴を備えていた。これより先に、同じところから見つかった化石がコロブス亜科のサルのものと特定されており、同じ食物をめぐって類人猿とサルが争っていたことが推測された。そのことは、類人猿の衰退とサルの隆盛の推移を見る上で、新たな視点を与えてくれた。

「ようやく、ピッタリはまるパズルの一片を手に入れることができた」とロッシーは今回の発見の意義を語る。

それにしても、発表まで14年もかかったことには、複雑な思いがある。論文の共著者として名を連ねるヒルが白血病を患い、15年9月に亡くなっているからだ。

「正直言って、研究を仕上げるのに全力を尽くさないでいたところがあった。一緒に仕事をするよき理由を、失いたくはなかった」とロッシーは振り返る。

「2人でやり続けたかった仕事をこうして終えることには、悲しい思いがある。同時に、こうして一緒に成し遂げることができたことを、とても誇りにも思う」(抄訳)

(Nicholas St. Fleur)©2018 The New York Times

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