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「スロージャーナリズム」の広がり、写真の世界にも

世界報道写真展から――その瞬間、私は
アナ・レイナ・ミール氏と、2019年の大賞に選ばれた作品=目黒隆行撮影

――今年の応募作の特徴にはどんなものがありましたか。

応募された写真の中には、スピード感があって速報性のある写真もあれば、より時間をかけた「スロージャーナリズム」の手法で撮られた写真もありました。特に「長期取材」の部に応募が多く、作品のレベルも高かった。最終的な審査には通常1日半かけるのですが、この部門はそれでは決まらなかったので、夕食後に再び集まり、深夜までかけて受賞作を決めました。

――「長期取材」の部の応募が増えているのはなぜでしょうか。

メディア界の変化が原因になっていると思います。新聞や雑誌の発行部数がどんどん減ってきているいま、社内のカメラマンに保険をかけて旅費を出し、遠い国で取材をさせるということがなかなかできなくなってきています。そんななかで、カメラマンのフリーランス化が進んでいます。こうしてカメラマンは、自分が暮らす地域に自らが関心を持つテーマを設定し、生活のなかで長期間取材を続け、写真を撮りためていくというスタイルで一つの作品にまとめ上げていきます。 

世界報道写真展のプレス向け内覧会=目黒隆行撮影

■市民ジャーナリズムの重要性とフェイクニュースを見抜く目

――いまは誰もがスマホを持ち、画像を撮って発信できる時代になりました。

伝統的なフォトジャーナリズムはなくなっていませんが、縮小傾向にあるのは確かです。物事が起きている現場に常にジャーナリストがいるわけではなく、市民ジャーナリズムが出来事の証人になることができる、という時代なのだと思います。

アナ・レイナ・ミール氏=目黒隆行撮影

ただ、ソーシャルメディアではあっという間にニュースが拡散するものの、それがフェイクである可能性も潜んでいます。こうした状況だからこそ、メディア側はむしろプロフェッショナルのカメラマンや記者に投資しないといけないとも言えます。適切な形で、正確にニュースを伝えるには、専門性が必要だからです。同時に、写真を見る人、記事を読む人が批判的なまなざしをもって真偽を判断していくという意識が必要だと思っています。

――応募された写真の真偽の確認はどのようにしていますか。

プロのカメラマンやメディアの専門家の目で、加工されていないか、撮られた場所で本当にそういう事実があったのか、などを確認しています。もちろん、撮影者自身がきちんとファクトチェックをすることが大事です。

2018年6月12日、米テキサス州マッカレンで=ジョン・ムーア氏(ゲッティイメージズ)撮影

今回、世界報道写真大賞を取った写真ですが、キャプション(説明文)には「母親と幼い子は(この後)引き離された」とは明記していませんでした。しかし、写真が公表された直後、一部メディアが「このカメラマンは、トランプ政権の移民親子の分離を批判するためにこの写真を撮った」と騒ぎ立てたのです。もちろん、撮影者は事実確認をしていたので、その批判があたらないことは分かっていました。

――応募作のテーマ性や地域性にも特徴はありますか。

今回は、明らかに「移民」にフォーカスが当たっていました。大賞も、ストーリー大賞も移民がらみでした。移民は米メキシコ国境だけでなく、世界中の様々な地域で起きている問題です。応募作の地域を見ると、受賞作はまだ少ないものの、アジアが最も多くなっています。国別では中国が最多で、アメリカが続きます。

世界報道写真展のプレス向け内覧会で話すアナ・レイナ・ミール氏=目黒隆行撮影

――近年は動画の発信も広がっています。

それはよい傾向だと私は思っています。私たちの世界報道写真財団も2011年から、動画などを対象にしたコンテストを始めました。様々なメディアを使って表現することで、物事の見せ方を深くすることができます。ただし、それは写真が重要ではないということではありません。写真は時に、その一瞬をとらえることによって、動画より強い印象を見ている人に与えることができるメディアだと思っています。

 

Anna Lena Mehr アナ・レイナ・ミール

1981年、ドイツ生まれ。オランダの大学、大学院でコミュニケーションを専攻。2009年からアムステルダムにある世界報道写真財団の職員になり、以来審査団のマネジメントをつとめている。