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白人至上主義者に娘を奪われた母親の叫び

群像アメリカ人~分断時代を生きる人たち~
ヘザーさんの死を悼み、義援金と一緒に送られてきたカードを見せるスーザン・ブロさん=シャーロッツビル郊外で、沢村写す

突然の娘の死

 2017年8月、南北戦争で奴隷制維持を求めて戦った南軍兵士の像を撤去する動きに反対する白人至上主義者や極右活動家がバージニア州のシャーロッツビルに集まった。これに抗議する市民も大勢集結。白人至上主義の若い男性が、集まった市民の中に車で突っ込み、弁護士事務所に勤めるヘザー・ヘイヤーさん(当時32)がはねられて亡くなった。

リベラルな気風が強い大学町で起きた事件にアメリカ中が大きな衝撃を受けた。

娘の死で、母スーザンさんの公務員としての静かな生活は一変した。

非業の死を遂げた女性の母親として全米の注目を浴び、静かに悲しみに浸る余裕すらなかった。憔悴し、疲れ果て、葬儀が終わっても、元の仕事には戻れなかった。

 最も違和感を覚えたのは、事件に関するメディアの洪水報道も手伝って、ヘザーさんや自分自身が「悲劇のヒロイン」にまつりあげられたことだった。事件が起きた場所は「ヘザー・ヘイヤー通り」と名付けられ、今もなお献花が絶えない。

「ヘザーは、酒を飲めばタバコも吸っていた。小さなころも宿題をよくサボっていたし、部屋を片付けるのも苦手だった。母として、そんな娘がいとおしかった」

「私だってそう。パソコンの操作がうまくいかなければ、人には聞かれたくない表現で罵倒の言葉を発する。ごく普通の庶民なのです」

娘と共有した思い

スーザンさんは公民権運動の指導者キング牧師が1968年に暗殺された時のことを覚えている。当時、バージニア州では白人と黒人は別々の学校に通っていた。一緒に学校で机を並べるようになったのはスーザンさんが中学生になってからだ。以来、人種間の垣根はゆっくりと崩れてきた。

だが、警官の黒人に対する発砲事件やそれに抗議する暴動が相次いだ2014年ごろから、その流れが逆転しはじめたのではないかと漠然と感じ始めた。

 娘のヘザーさんも同様の思いを抱いていることに気づいた。彼女の高校時代の友人が同性愛者で、ネットなどで心ない言葉を浴びせられていた。偏見や憎悪をあおりたてる人たちについてヘザーさんは心底、憤っていた、という。

 「よく2人で『この社会の雰囲気が心配だね』と話し合っていました。でも、私も娘も活動家ではなく、ごくありふれた普通の市民です。ただ、偏見をまき散らす人は少数でも声が大きい。一方、普通の市民は人数が多くても、その『声なき声』はあまりに小さい。サイレントマジョリティー(沈黙する多数派)のプレゼンスを示そうと、彼女はあの日、白人至上主義に反対する集まりに参加したのだと思います」

本当に必要なものは

 ヘザーさんの死後、彼女の遺志に役立ててほしいと世界中から義援金が届き始めた。

一方で、自分への心ない陰口も耳にした。「娘の死を利用して金を稼いでいる……」

 娘の名前を冠した「ヘザー・ヘイヤー基金」を立ち上げ、社会的な不公正に非暴力で対抗していくという目標に共鳴してくれる大学生や高校生に奨学金を贈ることを決めた。

私(記者)がスーザンさんに初めて会ったのは、基金を発足して間もない昨年11月のことだ。シャーロッツビルに近い町にある事務所には、ヘザーさんの大きな肖像画が飾られ、義援金に添えられたたくさんのカードが積まれていた。

スーザン・ブロさん。基金の事務室の壁には娘のヘザーさんがほほえむ肖像画が飾られていた=シャーロッツビル郊外で、沢村写す

なぜ奨学金なのか。

その後、スーザンさんは娘の命を奪った男性と法廷で対面した。中西部オハイオ州の白人男性、ジェームズ・フィールズ容疑者は、まだ顔にあどけなさが残る20歳の青年だった。中学生のころから、ヒトラーとナチズムに感化されていたという。生まれる前に父親は事故死。決して裕福とはいえない家庭に育ち、女手一つで育ててくれた母親にしばしば暴力を振るっていた。

 「深い思想があったわけではない。一人の怒れる若者でした。もちろん『怒り』は人命を奪う正当な理由にはなりません。私の息子もいつも怒っているけど、だれも傷つけたりはしませんから。でも、彼(容疑者)もまた、憎悪をまき散らす者たちによって洗脳されていたのです」

 今年3月にはスーザンさんは「本当に彼に必要だったのは、『救いの手』だったかもしれない」と記者に吐露した。ゆがんだ価値観、狭い世界から抜け出すための手助け。しかも、もの考え方が凝り固まる大人になる前に。それは本来、教育が果たすべきものだ。

 バージニア州裁判所の陪審は昨年12月、フィールズ被告に対して殺人など10の罪で終身刑を求刑した。これに加えて連邦地検は今年3月、ヘイトクライムの罪などでもフィールズ被告を訴追。ただし司法省は、被告が有罪を認めることと引き換えに、死刑は求刑しないことを決めた。

スーザンさんは「彼を死なせたって意味はありません。別にそれでヘザーが戻ってくるわけではないですから」と述べ、死刑回避に同意したことを米メディアに語っている。

ヘザーさんが亡くなった事件現場でメッセージを書き記す人々=シャーロッツビルで、沢村写す

白人至上主義とイスラム過激派

「ヘイトクライムがあらゆるところで台頭しています」。3月のメールでスーザンさんはそう警鐘を鳴らした。

 実際、米国でも、世界でも、憎悪犯罪が勢いを増している。

 昨年11月の米中間選挙の前、トランプ大統領に批判的な政治家や著名人らにパイプ爆弾とみられる不審物が送りつけられた事件があり、フロリダ州に住む男が逮捕された。男はトランプ氏の支持者で、野党・民主党の有力者や政権に批判的なメディアへの敵意をソーシャルメディアで発信していた。

同じ時期、ペンシルベニア州ピッツバーグのシナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)で反ユダヤ主義の男性が銃を乱射。11人が命を奪われた。

今年2月には、民主党の議員や司会者を狙ったテロを準備していたとして、白人至上主義を信奉する現役の沿岸警備隊員が起訴された。

 米人権団体の調査によると、2011年の同時多発テロ(9・11)より後の米国内に限っていえば、過激派によって命を奪われた死者の71%は白人至上主義者など右翼過激派によるもので、イスラム過激派の犠牲者の26%を大きく上回ったという。

さらに戦慄させられるのは、こうしたテロが国境を越えて「伝染」することだ。

 ニューヨーク・タイムズ紙が4月に掲載した調査報道によれば、クライストチャーチの銃撃容疑者は、2011年7月にノルウェーで77人が殺害されたテロ実行犯の反イスラムと白人優位の思想に感化されていた。ノルウェーの事件は、17年に米カンザス州でインド人2人がイスラム教徒と間違われて銃撃され死傷した事件の実行犯にも深い影響を与えていたという。

一方、クライストチャーチの容疑者は2017年にカナダ・ケベックシティーのモスクで起きた銃撃テロのカナダ人実行犯からも影響を受けていた。そしてそのカナダ人男性は2015年に米サウスカロライナ州チャールストンの黒人が集まる教会を銃撃して9人を殺害した白人男性の「思想」に感化されていた。

 イスラム過激思想に負けず劣らず、白人至上主義もまたインターネットでいとも容易に拡散されるようになったことを示している。

 白人至上主義や白人優位の思想が広まる背景には、アルカイダやイスラム国(IS)など西洋文明を敵視するイスラム過激思想と、それに感化されたテロの広がりがあることは否定できない。さらに、社会の多様化や移民や難民など大量の「人の移動」に伴って、欧米で支配的な地位を占めてきた白人の存在が揺らいでいることもある。米国では非ヒスパニックの白人人口が2045年に5割を切るという見通しが様々な統計によって明らかにされている。

 スリランカでの連続テロが、クライストチャーチのモスクでのテロに対するISの「報復」だったかどうかは、今後の捜査をまたなければならない。だが、白人至上主義者とイスラム過激派の暴力がお互いに呼応しながら、連鎖する実態はかなり明らかになっている。

 多くのイスラム教徒が犠牲になったクライストチャーチでのテロの後、ISの「広報担当者」は、報復を呼びかけると同時に、シリアやイラクでの米軍などの対IS作戦にも触れて「イスラム教徒が焼き殺されている」と訴えた。

一方、ピッツバーグのシナゴーグを襲った反ユダヤ・白人至上主義の男性は「ユダヤ人の難民支援グループが我々の仲間を殺す侵略者を(米国に)連れてくる。私の人々(マイ・ピープル)が虐殺されるのを傍観はできない」と犯行直前にSNSに書き込んでいた。

双方が「自分たちこそが被害者」とうそぶき、不安と怒りをあおりたてる。憎悪の連鎖は止まらなくなり、競い合うように過激化していく。

しかし、それより深刻なのは、白人の不安を和らげたり、人種間の融和に心を砕いたりしてその連鎖を断ち切る努力を払うどころか、率先して不安をあおることで自らの求心力を高めようとする政治リーダーが世界各地に現れていることだ。

 米国も例外ではない。

白人至上主義者に反対する〝カウンター〟のグループもヘザーさんが亡くなった現場を訪れた=シャーロッツビルで、沢村写す

「居心地のいい内輪」から飛び出す

 シャーロッツビルでの事件の直後、トランプ大統領は「非は双方にある」と、白人至上主義者を擁護するかのような発言をして、批判を浴びた。

ヘザーさんの葬儀が終わり、スーザンさんが携帯電話のスイッチを入れると、ホワイトハウスから3件のメッセージが届いていた。だが、スーザンさんはコールバックしなかった。

 「大統領の本音がどうあれ、白人至上主義者の暴力に理解を示す発言をすれば、『自分たちの考えがお墨付きをもらった』と受け止めます。まず口に出す前に立ち止まって考えて下さい、と言いたい。小学校3年生でもわかることです」

トランプ氏と話すつもりは今後もない、とスーザンさんは言った。

 そして、ニュージーランドのクライストチャーチでの惨劇。

トランプ氏は「ニュージーランドの人々に心から同情の気持ちを表したい」とツイートした。だが、白人至上主義者の蛮行を非難する言葉はなかった。

それどころか、記者団から「白人至上主義は世界の脅威だと思うか」と問われて、「そうは思わない。ごく少数のグループだ」と答えた。

むしろ、銃撃の実行犯がトランプ氏を支持していたとする報道にいらだちを募らせ、「フェイクニュースが事件に乗じて私を非難している」とメディア攻撃。マルベニー首席補佐官代行が「大統領は白人至上主義者ではない」との声明をわざわざ出す異様な経緯をたどった。

 冒頭で書いたスーザンさんから私に届いたメールにはこうも書かれていた。

 「権力と影響力を持つ者が、憎悪に対して非難の声を上げるのを拒む。自ら絶え間なく憎悪の言動を繰り返す。つまり、それは憎悪を許容しているのです。愛とお互いの敬意によってこそ憎悪は克服できます。私たちはみな『居心地のいい内輪の世界』から飛び出して、他者の言葉に耳を傾けねばなりません」