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ニュージーランドが外国人の住宅購入を禁止した

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
ニュージーランド最大の都市オークランド=2018年2月26日、Mark Coote/©2019 The New York Times

2017年のことだが、IT億万長者のピーター・ティール(訳注=米国の投資家。ペイパル創業者)がニュージーランドに約193ヘクタールの農地を買っていたと報じられた。彼はその2年前、ニュージーランドの登録会社「Second Star」を通じて農地を取得したという。ニュージーランドの多くの人々はいぶかった。その土地取引に、地元の人たちや政治家は怒りを隠せなかった。

ドイツ生まれで米国籍を取得したティールは、ニュージーランドの「2005海外投資法」を免れる特別待遇を受けたのではないか。同法はニュージーランド政府が定める「sensitive land(特別重要地、訳注=一定面積以上の農地など)」を外国人が購入する際は政府の認可が必要、と定めていた。

後で分かったことだが、ティールは11年、ひそかにニュージーランドの市民権を取得していた。しかし、彼は市民権を得るのに必要な条件(訳注=政府公式サイトによると、申請の直近5年以上ニュージーランドに居住し、その間年4カ月以上離れてはならない、など)を満たしていなかったに違いないと、誰もが信じて疑わなかった。ティールの農地取得は、国中に懸念が広がる事態に発展した。金持ちの外国人投資家は住宅価格を上昇させ、購入を希望する元々の住民を住宅市場から締め出している、と言うのだ。

ニュージーランド不動産協会によると、08年12月から18年12月までの10年間で、住宅価格は65%近くも跳ね上がった。最大都市オークランドでは、住宅の中間価格がほぼ2倍に上昇した。政府統計局が17年初めに公表したデータによると、持ち家で暮らしている国民はわずか63・2%で、1951年以来の低水準になった。

こうした状況を踏まえ、首相ジャシンダ・アーデーンは2018年8月、自ら率いる労働党の選挙公約だった海外投資法の改正を実現した。改正は、すべての居住地を「特別重要地」とし、外国人が既存の住宅を購入することを事実上禁止した。デンマークやスイスといった国では、市民権を持っていない者による不動産投資を以前から規制しているが、ニュージーランドもこうした国に仲間入りしたのだ。

最近では、似たような規制に踏み切った国々も出てきた。オーストラリアは4年前、非居住者が国内で住宅を取得する際には政府の外国投資審査委員会の承認を得るだけでなく、購入した住宅を優先的な住居として使うよう求めている。外貨が市場にあふれる中、国内居住者が住宅を少しでも確保できるように講じた対策の一つだ。

カナダのオンタリオ州では17年、非居住者が住宅を購入する際に15%の投機税を課すことにした。18年にはシンガポールとカナダのブリティッシュコロンビア州が、外国人の不動産投資に対する課税率をさらに重くし、20%にした。英国でも、非居住者が住宅を購入する際の税率をさらに1%増やすことを検討している。同国ではすでに別荘や賃貸不動産には3%が課税されているが、さらに増税というわけだ。また、マレーシアも新たな課税をもくろんでいる。

こうした規制を取り入れた地域の多くでは経済成長が低迷し、数年間大幅な利益をあげた後に投資家の利益率が縮小するケースがいくつもある。世界43都市の住宅価格の動きを示す不動産大手ナイトフランク(本部・ロンドン)のPrime Global Cities Index(プライム・グローバル都市指数)の年次報告書によると、住宅価格は12年以降もっとも低調な伸びとなっている。

報告書は、世界で「不動産市場で規制が広がっている」ことが最大の危機的要素の一つだ、と結論付けた。

オークランドの住宅街=2018年6月7日、Asanka Brendon Ratnayake/©2019 The New York Times

「海外投資修正法2018」として知られるニュージーランドの新法の反響はさまざまだ。同国貿易・輸出振興相のデビッド・パーカーらは、必須の法律だと強調している。パーカーは18年8月の同国議会で「(国民の)住宅取得を改善する政府計画の鍵になる」と述べた。他の人たちは、ニュージーランドに最も投資している人びと、特に中国人バイヤーがニュージーランドに住むのを阻止するためで、自由市場への介入と外国人嫌いの施策に過ぎない、と一蹴した。

争点は、修正法2018がすべて実施されたところで、果たして住宅価格がどれほど下がり、持ち家率が上がるかだ。

ニュージーランド不動産協会会長のビンディ・ノーウェルは、外国人もさることながら、地元の人たちも住宅需要を引っ張っており、それが価格を釣り上げている最大の要因になっている、と明かした。好調な経済のため、元々の住民は他の土地を検討する気にはならない一方、観光に魅せられてニュージーランドに移ってくる人々は増加の一途をたどってきたのだ。

「もっと多くの人がここに来たがっているが、出て行く人は少ない。ここ数年、移住のものすごい勢いを感じるようになった」とノーウェル。「それが市場に大きな圧力をかけている。その半面、土地は本当に高く、建設費も高い。それで実際問題として多くの住宅を建設して需要に応えるのが難しくなっている」

外国人投資家の影響について、ニュージーランド・サザビーズ・インターナショナル不動産の販売員Pene Milneに聞いてみると、データが誇張されていると言った。「現状認識がちょっと違う。非居住者の買い手が価格を釣り上げているというが、実際には彼らが市場に占める割合はわずか3%に過ぎない」とMilneは言った。

しかし、修正法2018の支持者は、3%という数字にはトラストや会社を通して買われた不動産は含まれていないと話している。また、オークランド中心部のように人気の高い所では比率はもっと高いとも指摘する。それでもMilneは、多くの外国人バイヤーは最高級の不動産を探し求めているのであって、住宅不足が深刻な中間層より高級な不動産市場への影響の方がずっと大きい、と話した。

外国人投資家が購入禁止規制を回避する方法はいくつかある、と言ったのはオークランドのコンサルタント会社センスパートナーズのエコノミスト、シャンベール・イーカブだった。買い手がオーストラリア人なら、同国とニュージーランドの貿易協定で規制が免除されている。このため、ニュージーランドの外国人バイヤーの多くをオーストラリア人が占めている。シンガポールの市民も同様だ。しかも、法律の対象は既存の住宅であって、新築住宅には適用されない。

修正法2018が施行(訳注=18年10月)されてから4カ月間、イーカブは「私たちの見たところ、本質的には外国人及び企業への住宅販売の比率は、1%か2%とごくわずかな下落だ。この比率は今後も変わらないだろう。なぜなら今回の政策は基本的に回避できるからだ」と説明。修正法2018をあくまでも政治的な動きと見て、次のように語った。

「要するに、同法は世界中で今、見られる移民排斥論者の宣伝の一部で、政治的に外国人や部外者を嫌がる一般的な風潮に沿った動きだ。それが排斥論者にはある程度の信用を与えたと思う。しかし、実際に効果があるかどうかとなると、そうは見えない」

一方、ニュージーランド不動産協会のノーウェルは、今回の禁止規制が住宅販売に大きく影響した、と言った。彼女によると、18年12月は販売件数で12・9%も落ち込み、過去7年間で最も低調な12月となった。同協会のデータによると、翌19年1月は前年実績に近づき、住宅販売は対前年比2・5%減にとどまった。 ニュージーランドでは夏(訳注=12~2月)になると住宅市場は低調になるため、修正法2018の実際の効果を見定めるには早すぎる、とノーウェル。「あともう1四半期のデータを見る必要がある。しかし、価格は上がり続けている。特にニュージーランド全般にわたって地域的な成長が価格を押し上げている」

オークランドでは、住宅価格が高い上、住宅供給は限られている。このためニュージーランド人はもっと余裕のある地域に移るようになり、今度はその地域の価格が上がっていく、とノーウェル。オークランドには約160万人が暮らしているが、住宅の中間価格は19年1月に2・4%下がって80万ドル(1米ドル=110円換算で8800万円)で、16年2月以降最低となった。オークランド以外の地域では住宅価格は10.1%上昇し、中間価格で47万3300ドル(同約5206万円)になった。(抄訳)

(V.L. Hendrickson)©2019 The New York Times

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