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米中摩擦でベトナムが潤うからくり 中国企業が次々移転

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中国企業が進出先に選んだ工業団地の場所を案内する、不動産会社のグエンさん=3月、ベトナムクアンニン省、西山明宏撮影

首都ハノイから約150キロ東にある世界遺産の景勝地ハロン湾。そこから2006年に日本のODAでつくられたつり橋「バイチャイ橋」を渡り、車で40分ほど走ったところにドンマイ工業団地がある。現地特有の細長い家が並び、牛が草をはむのどかな工業団地に最近、異変が起きた。これまで自動車部品大手の矢崎総業、台湾とベトナムの計3社しか工場がなかったのに、今年に入って5社の中国企業の移転話が進んでいるという。

工業団地を運営する不動産会社ヴィグラセラの販売責任者、グエン・マン・フンさん(32)が現地を案内してくれた。中国企業が使う予定の土地は計約15ヘクタールで、整地済みの土地の半分を占める。具体的な企業名は明かせないというが、年内に正式契約を結び、工場の建設が始まる予定という。「米中貿易戦争のおかげだよ。とても大きなビジネスチャンスになっている」と、グエンさんは笑顔を見せた。

ドンマイ工業団地の入り口。右奥には未開発の土地も広がっている=3月16日、ベトナムのクアンニン省、西山明宏撮影

契約にこぎつけそうなのは5社だが、2017年末から中国企業の視察が急増し、今も続いているという。「200社以上いたと思うが、覚えきれないぐらい」。電子部品、自動車関連、縫製、家具など業種は問わない。二つの港に30キロ圏内という立地が評価された面もあるが、ベトナムに来れば米中の関税引き上げの影響を受けずにすむことが背景にある。

ヴィグラセラの別の工業団地も訪ねた。中国との国境に近い同省のモンカイという場所にあるハイイエン工業団地だ。中国へのアクセスの良さから、こちらにはすでに中国企業の大きな縫製工場がある。団地内の一角には衣服や携帯電話を売る商店や食堂、社員寮などが並び、中国語の看板も目につく。中国企業の進出を当て込み、拡張工事も続いている。グエンは「まだ契約には至っていないが、こちらにもよく中国企業が視察に来る」と話す。

ハイイエン工業団地の一角には中国企業の従業員向け宿舎や商店などが並んでいる=3月15日、西山明宏撮影

ヴィグラセラはベトナム国内に11カ所の工業団地を持ち、進出企業のほとんどが日本や韓国からだった。日本貿易振興機構(JETRO)による今年1月までの調査では、ハノイにおける製造業の賃金は月額217ドル。中国各都市の半分以下の水準で、人件費が高騰する中国から生産拠点を移す動きが続いてきたからだ。だが17年以降、米中貿易摩擦によって中国企業が急増し、いまや半数を占めつつある。今年の契約数もすでに当初の計画の2倍にまで伸びているといい、中国化が一気に進む。

ベトナム南部ホーチミンに拠点を置く中国のコンサルタント会社役員、高見さん(41)は、中国企業からのベトナム移転の相談を受けてきた。「貿易戦争で中国にも米国にも利はない。あるとしたらベトナムぐらいだろう」。現状がベトナムの”一人勝ち”になっている、と高見さんは指摘する。

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