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『希望の灯り』 ドイツはどれくらい「統一」したか、東側からの問いかけ

シネマニア・リポート
トーマス・ステューバー監督=北村玲奈撮影

『希望の灯り』より © 2018 Sommerhaus Filmproduktion GmbH

『希望の灯り』の舞台はドイツ東部ライプチヒ近郊の巨大なスーパーマーケット。建設現場をクビになった無口な27歳の青年クリスティアン(フランツ・ロゴフスキ、33)は在庫管理担当として働き始め、慣れないフォークリフトの運転などに悪戦苦闘する。運転などを教わる飲料担当の54歳のブルーノ(ペーター・クルト、62)を父のように慕い、菓子担当の39歳のマリオン(ザンドラ・ヒュラー、40)に静かに惹かれるうち、温かい同僚たちがそれぞれ抱える影に触れてゆく。

トーマス・ステューバー監督=北村玲奈撮影

ステューバー監督は「これは労働者層の物語だ。社会には労働者層のヒーローがいるし、薬局や銀行、スーパー、地下鉄に行っても労働者たちに囲まれているのに、おかしなことだが、そうしたことを忘れがちだ。世の中を動かす労働者たちはたくさんいて、たくさんの物語がある。愛や死があるのは王や女王だけでない」と話す。

『希望の灯り』より © 2018 Sommerhaus Filmproduktion GmbH

今作で登場するスーパーマーケットは、東ドイツ時代のトラック運送の人民公社を買収して営業している設定だ。ブルーノらはトラック運転手から店員への転換を強いられたとして描かれている。

ステューバー監督は役者たちとフォークリフトの操縦方法を習い、免許も取ったという。車道を走る一般の車とどれくらい違うのだろう? そう言うと、ステューバー監督は「まったく違うよ! 車両は360度回転するし、車輪もひとつしかない。運転自体は簡単かもしれないけど、荷物の上げ下げとなると本当に難しい」と振り返った。ドイツ再統一による激変に伴いスーパーで働かざるを得なくなったブルーノも、この物語の前段として、きっとかなり苦労したということなのだろう。

トーマス・ステューバー監督=北村玲奈撮影

原作『夜と灯りと』と脚本を書いた作家クレメンス・マイヤーは旧東ドイツ出身。建設作業や家具運送などの仕事を転々とした経験があり、今はライプチヒに住む。ステューバー監督はライプチヒで生まれ育った。

「今作を見て『フランクフルトやハンブルクにも似たようなコミュニティーがあるよ』と言う旧西ドイツの人たちもたくさんいた。そうだと思う。労働者はどこにでもいる。でも僕は、(旧東ドイツとの)ちょっとした違いを見いだしたかった」とステューバー監督。「たとえばブルーノやマリオンはハグしたりしないし、最初は『新人』と言ったりもする。でも、(クリスティアンが)彼らに属していない感じで遠ざけられた気持ちになっても、知り合ううち本当に心を開いてくれて、寄り添ってくれる。それが小さな違いかもしれない」。日本にも、そんな風景が昔あった気がする。

『希望の灯り』より © 2018 Sommerhaus Filmproduktion GmbH

ライプチヒは工業都市として栄えた旧東ドイツ第2の街。ベルリンの壁崩壊前には、民主化を求める市民たちが大規模な「月曜デモ」を繰り広げ、社会主義体制を倒す原動力となった。ところが最近は、難民排斥を訴えるデモが暴徒化した様子が盛んに報じられる街と化している。

「今のライプチヒは繁栄はしている。衰退した産業はあるけど、代わりに自動車やIT企業の新たな拠点が生まれ、大学に学びに来る学生も流入している。ここ20〜30年でかつてないほど街で槌音が聞こえ、建物もものすごくたくさん建っている」とステューバー監督。

「でもそれによって別の側面も生じている。生活費が高くなり、もともと住んでいた人たちが外れに追いやられる状況も起きている。東ドイツで労働者階級は支配階級という考え方だった。なのに労働者層の人たちが、社会から置き去りにされていると感じている。今の制度にもう満足しないという人は多く、これを求めて街に繰り出したわけではない、と彼らは言っている。そうして旧東ドイツは今、ポピュリスト政党の台頭に直面している」

今作は政治的メッセージを鮮明に出した映画ではないなりに、そうした背景が画面の端々からにじむ。

『希望の灯り』より © 2018 Sommerhaus Filmproduktion GmbH

「今作の登場人物はみんな、今の近代的な社会にはもう居場所がない、と感じている。ブルーノは昔やっていた仕事を失ったが、変化したり出直したりするパワーはもうなかった。たまたまその時にドイツ再統一があった。いろんなことが可能になると同時に、何かを失ったと感じた。それでもブルーノは誰かを責めたりせず、街を出て行ったり、抗議したりもしない。自分自身に目を向け、孤独を感じて鬱々となり、酒を飲んで、若い頃を懐かしんでいる」

トーマス・ステューバー監督=北村玲奈撮影

フィクションではあるが、ライプチヒの実際の労働者たちもまじえて撮影した。その空気感は、役者たちにも伝わったことだろう。旧東ドイツでさまざまな労働を経験した原作者マイヤーの観察も盛り込まれていることから、この地のコミュニティーのある種の現実を映し出しているはずだ。でも、そう考えれば考えるほど、報じられるような激しい排外デモのイメージが、およそ像を結びづらく感じる。

『希望の灯り』より © 2018 Sommerhaus Filmproduktion GmbH

「この映画には敵対的な人が登場しないし、責め立てたくなるような悪い人も出てこない。でも、例えばブルーノのようないい人たちの多くがもしかしたら、選挙でとんでもない政党に投票しているかもしれない。ただ、だからって彼らはよくない人たちなのか? いや、いい人たちだ。だからこそ難しい。たぶんこの映画で、彼らのような人たちの別の側面を理解することになる。それが今作の考え方だ」

トーマス・ステューバー監督=北村玲奈撮影

そのうえで、ステューバー監督はインタビューをこう結んだ。「非常に明らかなのは、ドイツ再統一はあくまでプロセスで、終わりではない。日々は続く。私の生まれた国はもうないけれど、影響はさらに長く続く。私たちはベルリンの壁崩壊後に焦点を当てなければならないと思う。何がよかったのか悪かったのか、私たちはどれくらい『統一』したのかという問いかけが、今、立ちのぼっている」