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ブロードウェーに大転機 「当たれば俳優も分け前」がようやく実現

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
リチャード・ロジャーズ劇場で2015年7月11日、「ハミルトン」の主役を演じるリンマニュエル・ミランダ=Sara Krulwich/©2019 The New York Times

ブロードウェーの舞台は、活況にわいている。そして、もたらされる富が、より多くの出演者に行きわたるようになった。

これは、この世界では画期的なことだ。2019年2月、ブロードウェーの劇場で興行の成功に寄与した役者らに、利益の一定の割合を与える協定ができた。

その当事者は、全米5万1千人の俳優や舞台マネジャーらが加入する労組「俳優組合(Actors' Equity)」と、(訳注=北米の商業演劇の)事業者団体「ブロードウェー・リーグ(Broadway League)」。双方の間で結ばれた協定が画期的なのは、舞台の現場で働く人々が、単に労働力を提供しているだけではないことが認められたからだ。新しいミュージカルや演劇を形づくることへの創造性の貢献――それを事業者側が初めて、暗黙のうちに受け入れたのだった。

ショーが当たれば、今でも事業者や監督、人気スターには報酬が支払われている。それが今後は、ささやかな額とはいえ、脇役や踊り手にも安定して広がるようになる。生活のためには、ウェートレスなどの副業もしなければならないような人たちだ。

「新しい舞台を立ち上げるのは、容易なことではない」。俳優組合幹部のメアリー・マッコールはこう話した上で、「さほどの給与ももらわずに、それを最初から一緒にやるのだから、かかった元手を取り戻す以上の成功を収めた場合は、みんなで分け合うべきだ」と組合側の考えを説明する。

協定が成立するまで、5週間のストがあった。その間、組合は大がかりな新しい興行に関連した活動に組合員が参加することを禁じた。

組合側によると、ブロードウェーの劇場が利益をあげた場合は、協定によってその1%を出演者や舞台マネジャーが事業者から受け取ることになる。この「利益配分」は、巡業公演での稼ぎも含めて、10年間続くことになっている。

さらに、今回の協定では、演目に携わる俳優と舞台マネジャーの給与の増額も実現した。

交渉相手となったブロードウェー・リーグ。執行役員トップのシャーロット・セントマーティンは、事業を実施する側として「仕事に戻ることができてうれしい」と協定の評価について控えめに語る。「利益配分」という組合側の解釈に同意はしないものの、「仕事をする新しい方法を定めたもの」と協定の意義については認める。

ブロードウェーの作品は、最終的に上演にこぎつけるまでに何年もかかることが多い。とくに、ミュージカルがそうだ。舞台づくりには、「labs」(訳注=作家や俳優らが、作品をどう舞台化するかを探る一手法。4週間ほどかかることが多い。完成に向けてこれを繰り返すので、他の手法も含めて複数形でよく使われる)や、(訳注=リハーサル方式などに応じて)「workshops」「staged readings」といった手法があり、これを積み上げ、創意工夫を凝らす中からヒット作品の多くは生まれてくる。ただし、そこに加わる俳優や舞台マネジャーには、一定の週給しか支払われてこなかった。

転機になったのは、ミュージカル「ハミルトン(原題:Hamilton」(訳注=15年、初演。米国建国の父の一人の生涯を描いている)だ。興行が空前の成功を収めると、問題も頂点に達した。立ち上げに関わった俳優たちから、利益の還元がないことに強い不満の声があがった。16年に弁護士を加え、さらに声高に訴えるようになると、事業者側も「利益配分」に応じることにした。しかし、問題はこの舞台にとどまらなかった。俳優ら関係者の間では、大当たりとなった作品への貢献と金銭的な処遇について広く論議されるようになった。

事業者側のいくつかは、こうした流れに自主的に取り組み、利益を分かち合うことにした。とりわけ、ディズニーの「アナと雪の女王(原題:Frozen)」とローン・マイケルズ制作の学園コメディー「ミーン・ガールズ(原題:Mean Girls)」があげられよう(それでも、組合側は、事業者すべてに同じ対応を求めて18年に動き出した)。

オーガスト・ウィルソン劇場で上演された「ミーン・ガールズ」。2人で自撮りシーンを演じるのはアシュリー・パーク(左)とエリカ・ヘニングセン=2018年3月10日、Sara Krulwich/©2019 The New York Times

「アナと雪の女王」も「ミーン・ガールズ」も、うまみのあるもうけをあげるにはまだ至っていないが、興行収入は今のところ順調に推移している。「ミーン・ガールズ」で「10代の憧れの的」を演じる若手俳優カイル・セリグは、通常の給与の他に配分金が入るので、副業をせずに役作りに専念できると話す。

「この仕事を始めて最初に立った5、6回の舞台は、すべてまだ完成を目指す段階でのショーだった。だから、次から次へと新たな注文がつき、給与は変わらないので大変だった」と現在との違いを説明する。

一方、事業者の中からも、不満の声が漏れる。俳優には、作品を形づくっていく過程での仕事については、それに見合う給与(この10年余は同額で、週給1千ドルほど)をきちんと支払っている。逆に、金銭的なリスクを冒して興行を支えるのは投資する側だし、作品を真に形づくるのは(訳注=作詞、作曲や脚本、演出などを担う)クリエーティブチームだと言うのだ。

これに対して、出演者側は、テレビ番組など他の娯楽業界に先例があると指摘する。番組を再放送する際に俳優らに支払われる再使用料だ。こうした支出が、作品の長期的な成功につながると反論する。

セントジェームズ劇場の「アナと雪の女王」の舞台では、トナカイのスヴェン役(右のぬいぐるみ)をアンドリュー・ピロッツィとアダム・ジェプセンが交代で演じている=2018年4月19日、Karsten Moran/©2019 The New York Times

俳優組合によると、今ではブロードウェーで実際に演じられるまでになった作品の四つに一つは、先のlab手法で舞台を完成させている。16年から数えると、この手法は75件で採用されており、その約半数がブロードウェー劇場での上演にこぎつけた。

組合と事業者側の交渉はなかなか進展せず、組合員は19年1月、ストに入った(すでに上演されている舞台を除いて)。俳優組合としては、ほぼ50年ぶりの決行だった。

翌月に妥結すると、組合はこの新協定を全会一致で承認し、すぐにストを解いた。

これで助かったのは、この冬のシーズンにlab手法で舞台化を進めようとしていた二つの作品だった。いずれも、既存曲を使うジュークボックス・ミュージカルで、一つはマイケル・ジャクソンの「今夜はドント・ストップ(原題:Don't Stop ‘Til You Get Enough)」、もう一つはヒューイ・ルイス&ザ・ニュースの「ハート・オブ・ロックン・ロール(原題:The Heart of Rock & Roll)」だ。 ヒューイ・ルイスのミュージカル制作をカリフォルニア州サンディエゴの劇場オールドグローブで率いたマット・ドイル(訳注=米俳優、シンガー・ソングライター)は19年2月、同じ出し物をニューヨークで上演をするために、準備を進めようとしていた。それだけに、交渉の妥結を喜んだ。まずは、自分が仕事に戻れるから。さらに、当然支払われるべきものを俳優が受け取れるようになったことを評価するからだ。

キャストが代わるとする。それを引き継ぐ俳優には、その役柄のオリジナルな形を継承して演ずることがしばしば求められる。

「俳優が持つ創造性が大切で、与えられたセリフをただしゃべるだけでは、そこに吹き込まれた命を引き出すことはできない。役を演じ切る必要性が出てくる」――もう何年にもわたって、舞台づくりの手法をいくつもこなしてきたドイルは、配役の交代を例に俳優の持つ重みをこう指摘する。

今回の協定は、ブロードウェーの舞台収入がかつてない額に達したときに成立した。18年の観客数は1437万人を数え、18億2500万ドルの総収入をもたらした(訳注=ブロードウェー・リーグによると、15―16年シーズンの年間の観客数は1332万人弱、総収入は13億7300万ドル強)。ほとんどの舞台は興行的にはもうからないままという厳しい現実の中で、「ライオン・キング(原題:The Lion King)」「ウィキッド(原題:Wicked)」といった一部の作品はロングランとなり、何十億ドルも稼いだ。

ブロードウェーのスター(とくに映画やポップミュージック出身で多くのファンを抱えている場合)は、かなり高額な出演契約をたまに結ぶことがある。何万ドルもする週給だけでなく、劇場のチケット収入の一定額が保証されることすらある。

しかし、群舞などの集団演技で登場する出演者のほとんどは、ブロードウェーの最低賃金しかもらえない。週給2千ドルほどだ。(抄訳)

(Michael Paulson)©2019 The New York Times ニューヨーク・タイムズ

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