ミクロネシア連邦と日本が国交を結んで30年。書記官から公使、そして大使として、ずっとこの大使館で勤務しています。その前にも大学で9年学び、日本で通算39年。人生の半分以上を過ごしています。滞在歴は、各国の外交官で私が最長かもしれません。
赤坂の大使館の窓からの眺めはずいぶん変わりました。昔の庶民的な町並みが好きでした。でも、普通に生活する人たちのささやかな楽しみは、いまも昔も変わりません。そんな姿が垣間見える有楽町のガード下の飲み屋さんが、私の一番好きな東京です。電車に乗って、1人でふらっと行くんです。焼き鳥をほお張りながら、ぐーっと飲むビールは最高ですね。
仕事帰りに、隣の人と肩をくっつけながら一杯飲んで疲れを癒やす。これが、昔から変わらない庶民の風景だと思うんです。見知らぬ人と、その場で仲良くなれるのもいいですね。私は母方の祖父が神奈川県出身の日系3世なので、見た目は日本人っぽいでしょ。でも、言葉のアクセントがちょっと違うので、「沖縄出身?」なんて聞かれます。「ミクロネシア連邦です」と答えると、それだけで盛り上がります。
ガード下での一杯は、仕事にも役立っているんですよ。一般の生活感覚が分かれば、庶民感覚だとこのくらい、豪華なもてなしはこのくらい、というのが分かるんです。
2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて、東京の風景は、更に変わってしまうかもしれない。でも有楽町のガード下は、残って欲しい日本の風景です。
(2018年3月16日付朝日新聞東京版掲載。肩書、年齢は掲載当時のものです)