テレビ朝日が、韓国の人気グループ「防弾少年団(BTS)」の音楽番組「ミュージックステーション」への出演を見送ったというニュースは、発表のあった8日から、韓国でもSNSなどを通じて騒がれだした。
韓国在住の私が詳細をきちんと読んだのは10日付東亜日報。「日本の放送出演前日、キャンセル通告受けたBTS」「メンバーが1年前に着たTシャツ、光復節テーマのデザインを問題視」という見出しで、一面に出た。光復節というのは、8月15日、日本の植民地支配からの解放を祝う日だ。一瞬、光復節をテーマにしたぐらいでなぜ出演できないのかと首をかしげたが、本文を読んでそのTシャツに原爆の画像がプリントされていたことを知った。光復節を祝うこと自体は、被支配国として当然のことだと思うが、光復節をテーマに原爆の画像を使うのはあまりにも無神経だ。
昨年の着用を理由とした出演前日のキャンセルには、韓国内で「元徴用工への損害賠償を認めた韓国大法院(最高裁)判決の影響」という指摘が相次いだが、一方で原爆の画像を使ったTシャツの着用は「適切でない」と非難する声も上がった。13日には「BTS」の所属事務所「Big Hit Entertainment(ビッグヒットエンターテインメント)」が公式サイトなどを通じて謝罪し、16日にはさらに事務所関係者が在韓被爆者が多く住む慶尚南道陜川を訪れ、直接謝罪した。
この問題の根底には、日韓の「8月15日」に対する認識のギャップがあると思う。日本では終戦記念日だが、韓国では解放記念日だ。例年この時期、日本では広島や長崎への原爆投下に関する多くの報道がある一方、韓国では慰安婦問題や徴用工問題などが報じられる。教育も同様だ。日本は修学旅行などを通して原爆について学ぶ機会は多いが、植民地支配についてはあまり触れない。韓国では植民地支配については詳しく学ぶが、日本の原爆被害について考える機会は少ない。
「引き金」となったのは、大きく二つあるように思う。一つは韓国の多くのメディアが指摘するように、徴用工判決。日本の世論に再び嫌韓ムードが広がるきっかけとなり、昨年着用した「原爆Tシャツ」が見過ごせない存在となったのではないか。もう一つは、「BTS」と秋元康氏のコラボが中止となった件だ。韓国のファンが、秋元氏を「右翼作詞家」と指摘し、コラボに反対したためだ。秋元氏を「右翼」という根拠はよく理解できず、日本で「BTS」に対する印象が悪化するきっかけとなったように思う。日韓で歴史問題を文化に持ち込んだ「応酬」が続いているように見えるのは残念だ。
思い出すのは、2012年の李明博大統領(当時)の竹島上陸だ。前年の2011年末のNHK紅白歌合戦に韓国から「少女時代」「KARA」「東方神起」の3グループが出演するほど、日本で第2次韓流ブームが盛り上がっていたが、竹島上陸直後から嫌韓ムードが広がり、K-POPアーティストは地上波番組から消えていった。やっとここ1年ほど、第3次韓流ブームと言われるぐらい久々に盛り上がってきたところだった。日韓のK-POP関係者は、徴用工判決に続くBTS問題で、「ブームが戻ってきたと思ったら……」と、ため息をついている。
第3次ブームをけん引した主人公は、「BTS」と「TWICE」だろう。今年の紅白には「BTS」は出ず、「TWICE」は昨年に続く2度目の出演が決まった。ところが、さらに「TWICEのメンバーが慰安婦Tシャツを着ていた」という指摘があり、TWICEの紅白出演をめぐって日本国内で「辞退か?」といった報道まで出てきた。これには韓国で反発の声が高まっている。「慰安婦Tシャツ」と言っても、見て分かるものではなく、そのTシャツを作った会社が元慰安婦を支援しているというものだ。韓国では「日本の右翼勢力がK-POPアーティストに『反日』のイメージを植え付けている」などと批判的に報じられているが、右翼かどうかは別にして、私も、TWICEの「慰安婦Tシャツ」に対する指摘は、度を越えていると思う。
原爆、徴用工、慰安婦。外交問題は外交問題として、日韓双方の一般市民が、もう少し逆の立場で考える機会を増やすことはできないだろうか、と思う。原爆の被害者に思いを寄せるように、植民地支配を受けた側の気持ちを想像したことがあるだろうか、と。