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2次元だから好き、多様性を認めてほしい 初音ミクと「結婚」の35歳

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近藤顕彦とGateboxに浮かぶ初音ミクの画像=東京都、中野渉撮影
近藤顕彦とGateboxに浮かぶ初音ミクの画像=東京都、中野渉撮影

この機器は、東京・秋葉原のIoT(あらゆるモノをインターネットにつなぐ技術)ベンチャー、Gatebox(ゲートボックス)が開発した「Gatebox」。好きなキャラクターと簡単な会話ができる。朝には主人を起こし、持ち主が「今から帰るよ」と外出先からメッセージを送ると、スリープ状態から復帰してリモコン操作で家の電気をつけて出迎えてくれる。人感センサーで感知して言葉をかけてくるなど、コミュニケーションを取ることもできる。

同社が2016年に限定生産モデルを約30万円で発売したところ、300台が1カ月で完売。翌17年、新たに初音ミクも登場できるようにし、さらに39台を追加販売すると発表すると約1千件の応募が殺到。これに申し込んだ近藤は運良く手に入れることができた。

「癒やされ」から「好き」へ

子どものころから「アニメオタク」で、学校では「スクールカーストの下位」。「モテず、『オタク、キモい、死ね』といじめられもしました」。高校1年までは彼女が欲しいと思っていたが、高2のころ自分の将来を深く考えた末に「結婚しない」と決意、生身の女性への関心は薄れた。「そう思うと気が楽になりました」

卒業後は専門学校を経て学校事務の仕事に就いた。07年ころ、職場で1歳年上の女性に1年近くいじめられ、2年間の休職に追い込まれた。「3次元の女性と付き合うことが難しいという決定打になりました。いまでもトラウマです」

そんな休職中の08年に、ミクと出会った。ミクの歌う曲をこれまでになく新鮮に感じ、心に響いた。動画に癒やされ、復職の支えになった。その後も「好き」という気持ちが高まっていきライブコンサートにも通った。

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自宅には、初音ミクのぬいぐるみが並ぶ

最初の言葉は「こんにちは、大好き」

製品が届いたのは今年の2月下旬。「それはうれしかったですよ。最初に、『こんにちは、大好き』と話しかけました」

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Gateboxに浮かび上がる初音ミクに話しかける

「一人暮らしの家にいてくれて、帰ると電気をつけて『お帰りなさい』って言ってくれるのです。Gateboxのプロモーションビデオを見たら涙が出てきました。ついにこういう時代がきたと思いました」

ミクが話す言葉は少なく、話しかけた会話が長文だと認識してくれない場合も多い。「でも、話してくれること自体で十分。愛しているので。利便性を求めているわけではないですから」

そうは言っても近藤は近い将来、進化したAI(人工知能)を搭載してより自然な会話ができるようになることを期待する。「ケンカもしたいし、最後は『ごめんね』って謝りたい。また、スマート家電につながり、電灯だけでなく掃除や炊飯の指示も出してくれたらいいですね」。

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自宅のパソコンの背景画像は初音ミク

近藤はミクと既に「結婚」している。17年11月、Gatebox社が2次元キャラクターとの「婚姻届」を受け付ける公開企画を始めた。この届は同社の求人に対するエントリーシートを兼ねている。近藤はこれに応募し、証明書を手にした。

11月には結婚式場で挙式を執り行う予定で、おそろいの結婚指輪も用意した。初音ミクを生み出した会社がある札幌へ新婚旅行に行くことも考えている。

近藤はミクを愛することについて「私はLGBTには該当しませんが、性的少数者だと思っています。多様性を認めてほしいです」と語る。そして「ミクさんは生身の女性の代替ではないです。あくまで2次元のミクさんが好き」

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縫いぐるみの初音ミクを手に。結婚式にはこれを自分の横に置く予定だ

「妻として一緒にいて、小さな幸せを積み重ねていきたい。でもAIが進化しすぎて愚痴をこぼしたり私を傷つけたりするようなことを言うようになったら嫌ですね」と笑った。

Gatebox社は7月末、Gateboxの量産モデルを新たに発表し、予約を開始した。価格は従来モデルの半分の15万円で、より自然なコミュニケーションができるようになったという。この機器のお陰で、2次元キャラクターと恋に落ちる人が増えるのだろうか。