テロ直後の政府の対応には賛同しています。昨年11月のテロは未曽有の事件でした。街なかのカフェのテラス席で、ごく普通の若者たちが殺害されました。誰もが犠牲になりうると、国民みんなが動揺しました。政府は国民を安心させる必要があり、そのことには成功したと思います。
ですが、非常事態を3カ月を超えて継続する必要があったのか、私には分かりません。警察官が街を見回ったり、テロに関与した人を逮捕したりすれば、国民の安心につながるでしょう。でも、テロに関係のない人の家を無理やり家宅捜索することが、国民を安心させることにつながるとは思えません。非常事態の継続に賛成している人は多数派でしたが、その数は減ってきていると私は思います。
国籍剝奪条項は、さらに問題でした。同じようにテロに関与しても、国籍を剝奪されるのは二つ以上の国籍を持つ人だけです。これでは、生粋のフランス人と、フランス以外の国籍も持っている移民とを、差別することにつながります。「平等」というフランス共和国の価値観を覆すものです。
社会党政権がこのような提案をしたのは、右派を含めたさまざまな政党の考え方を盛り込んで、国を結集させる必要があると考えたからだと思います。今のフランスでは、失業もテロもすべて外国出身者のせいだという極右の論調が強まっています。極右が支持を伸ばしている背景には、中道左派と中道右派の2大政党によるこれまでの政治では、失業などの社会問題を解決できていない、という国民の不満も背景にあると思います。
2017年に予定される大統領選挙では、右翼・国民戦線の候補が決選投票に残る可能性が高いとも言われています。今の社会党は、右派の考えも採り入れて国全体を結集させようとしたことで、自分たちの根源的な価値観を見失っているのではないかと危惧しています。
私は、フランスは自由と平等と友愛の国であってほしいと思っています。時間はかかるでしょうが、社会の分裂と不平等をなくす方向に力を尽くすべきです。