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中国人社員、日本語の電話応対コンクールで入賞

World Now
李蘭花さん

李蘭花さん(28)はカシオ計算機の羽村技術センター(東京都羽村市)に昨年から勤務している。電話応対コンクールで入賞と聞いた当初、てっきり日本語応対専門の方かと思っていたら、生産資材部の時計生産管理課で同社の主力製品の時計の生産計画を管理・調整する業務を担っていると聞いて驚いた。つまり、電話応対はメインの業務ではない。しかも中国で生まれ育ち、日本語歴は9年。「入社2年目なので、まだまだ勉強することがあります」と笑う李さんの様子はまるで日本語ネイティブだ。

李さんは上海工程技術大学の管理学院(日本の学部に相当)を卒業後、2011年秋から東京で日本語学校などに通った末に、早稲田大学大学院商学研究科を昨年修了した。経歴を尋ねる過程で、「上海の大学名、なんて書きますか?」と聞くと、「工事の『工』に、程度の『程』です」と口頭で日本語の「字とき」をしてくれた。

李さんは6歳から2年間、技術研修生として来日した父とともに群馬県で暮らしたことがある。父は中国・上海に帰国する際に日本の電化製品をいくつか買って帰ったが、そのなかにカシオの電子キーボードがあった。李さんは、その後クラシックピアノを始めるまでしばらくこれを愛用した。幼いなりに、友だちが使っていた中国産の電子キーボードと見比べて、「日本製品は長持ちして故障もなく、品質がいいなと思いました」。そんな風に「小さい頃からカシオというブランドを知っていた」がゆえに、カシオに就職したいと夢みた。

ただ、日本語を覚えたのは日本で暮らした当時ではなく、大学2年の時に副専攻として学び始めてから。本格的に上達したのは来日後だ。日本語学校に通う傍らすき焼き店でアルバイトし、「日本のお客さまやスタッフとの会話でレベルがアップしたんじゃないか」と李さんは言う。

来日した2011年秋は、東日本大震災を機に日本行きを控えたり、日本から帰ってくる中国人も目立っていた。李さんがすごいのは「逆に、(日本に来る)チャンスだなぁと思った」点だ。6歳上の姉が日本の大学を卒業し、すでに日本で働いていたことも背中を押した。

電話応対コンクールに参加しないか――。上司に言われたのは入社まもない頃だ。財団法人「日本電信電話ユーザ協会」が主催するこのコンクールは、どの企業の新入社員も「通るべき関門」の一つと言える「思わぬ電話」への対応力を各社で競うものだ。カシオからも毎年、新入社員が何人か参加している。「外国人だし、参加はないんじゃないかと思っていた」李さんだったが、9月の多摩中央地区大会に日本人の男性新入社員とともに出ることになった。

事前に先輩の女性社員2人から、毎日約30分の特訓を受けた。「恐れ入りますが……」といった「クッション言葉」をうまく使う訓練が最も難しかったという。「中国には、そんな習慣がないんですよ」

コンクール当日、審査員や参加者ら約100人が見守るなか、舞台のうえで架空の顧客からの電話を受けた。物産館のスタッフとして、忘れ物をしたという入場者からの電話に応じる設定だった。「お客さまの言う内容を聞いて、焦らずにポイントを絞って安心感を与えるようにした」と李さんは言う。

結果は優良賞。カシオ社員で入賞したのは李さん1人だった。

カシオ計算機では、2012年ごろから外国人の採用を進めている。海外の売上高がいまや約7割を占めるなか、世界に通用する多様な人材を取り込もうと、日本語で面接したうえで、就労ビザに基づき正規で採用している。本体の社員約2600人のうち、中国やロシア、東欧、アフリカなどからの外国人が約30人。桐山英之・人事部企画グループマネジャーは言う。「日本に単身乗り込んできて、将来こういうことをしたいとビジョンをもってやって来る彼らは、日本の温室育ちの人たちよりやはりたくましく、優秀だなと思わせる方が多い。見てると脅威に思います」

外国人採用を進める企業自体、グローバル化に伴い増えている。厚生労働省によると、昨年10月末時点で国内で雇用されている外国人は90万7896人。届け出が義務づけられた2007年以降で最も多く、うち中国人が35.5%と最多だった。

桐山マネジャーは言う。「経済力的に、日本よりも米国を留学先に選ぶ外国人も増えている。海外からの人材は、各社で争奪戦になっていますね」