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無業者に潜む「健診難民」リスク

World Now
工藤啓理事長=藤えりか撮影

ここ2年、企業から「人がいない」「一生懸命がんばる人がいれば育てます」という声をたくさんいただいています。雇用情勢が厳しかった数年前は見向きもされなかったのに、中堅企業を中心にすごい勢いで増えています。どちらかといえば若い人が求められていて、賃金が安く済むといったこともあるのかもしれません。

ただ、就職という出口環境は比較的よくなった一方で、いまもってほとんど変わってないのは、無業になって孤立した人たちがどこにいるのか分からない点です。学校を卒業して無職になった人はどこにも所属せず、誰も把握していない。彼らに出会えないと、僕らの支援も始まらない。だから、彼らとどう接点を持つかというところに意識を割いてます。

そうした中にあって多少変化が出てきたのが、若者たちがいる場所に僕らが入れるようになってきた点。無職になってしまう前に学校で会っておく取り組みを増やし、もし無業になったら僕らのところに来てね、と言うようにしています。進学希望者が少ない高校を中心に、高校の職員室に机を持ったり、空き教室を借りて勉強の指導や、教師と一緒に進路指導をしたりしています。貧しい家庭の子どもたちを中心に、生活ぶりも見ています。無業になりやすい層は必ずいるので、予防の取り組みですね。

今はさまざまな自治体で、経済的に苦しい家庭の子どもたちに勉強を教える学習支援事業が進んでいますが、学校の中でやるのが一番。彼らがいるところにこちらから行く方が大事だと思います。

育て上げネットのジョブトレの様子=仙波理撮影

10月からは、少年院の中での支援活動も始めました。退院した子どもたちがどこにいるか、保護司以外はほとんど知らない。だったら初めから少年院の中に入って話をする。今後は就業支援をやらせてもらえればと考えています。

海外に比べると日本はホームレスが少ない。無業の若者も、ひきこもりという形で家族が把握していることが多いです。ただ、ぎりぎり家庭が持ちこたえているという形。親が退職して年金生活になったり、大きな病気をしてこれ以上子どものことを抱えるのが難しくなったりしてから家族が相談にくることが多い。

雇用関連の数値が改善する一方、非正規雇用の割合は増えています。時間的にフルタイムで働けない事情の人もいる。コミュニケーションを大前提とする職場を苦手に感じて軽作業を希望したり、小売業でも事務管理部門といった、人とあまり会わない職種がいいという子がいたりします。問題は、そうした仕事は非正規がほとんどで、生活設計が立たない点です。

好景気なので就職はしやすくなっていますが、その先に幸せな働き方があるかどうかということです。そのためには最低賃金を上げるのか、ベーシックインカムを導入するのか。

ただ、それでも広い意味で言えば、今の若者の生活満足度は高い。内閣府による2014年度「国民生活に関する世論調査」によると、今の生活に満足していると答えたのが20代で79.1%と、世代別で最も高いです。親の保護下にあるから、ということかもしれませんが、グローバル化とか政治とか変革とかと関係なく、今の生活に満足している。

恐らく、不満を感じづらいのではないでしょうか。人は、似たような価値観をもつ同士でかたまる。同じような洋服を着て同じような食べ物を食べているなかで意外と満足する、といったことではないか。それに政治に怒りをぶつけても、実際に改善されるには時間がかかる。親が定年や70代になったりするまで、現実に本気で直面しない。5~10年先にあるべき姿になるために今こうしなきゃいけない、といった話はやっぱり遠い世界の話になってしまうのかなと思います。

ただ、うちのNPOに来ている若者たちに健康チェックの機会を作っています。その数値が全国平均と比べて非常に悪いです。39歳以下の無業者は「健診難民」なんです。学校にいると健康診断があり、正社員だと勤め先で法定健診があります。40代になると自治体の補助で健診を受けられる。学校や職場という所属先のない若者たちの健康サポートが抜け落ちています。若い世代への健康問題が顕在化していないわけです。

ひきこもりの家庭について支援者の間で使っている「奇妙な安定」という言葉にたとえられるかもしれません。家にいる大きな息子に対して、昔は「外に出ろ」と言っていたけれど、そのうち親も干渉しなくなる。子どもが親に干渉しなければ、嫌なこともいいことも起きない。はたから見れば奇妙で、ほんとうは崩れかけているんだけれど、日常が淡々とトラブルなく、前進もなく止まったまま流れていく。場合によると今の日本も世界からみると、そうした「奇妙な安定」ということかもしれません。