――フランスでは長年、左右の政党間で政権交代が可能になっていたように見えます。
右と左が対立する政治状況を生み出したのはフランス革命でした。以後、私たちはこの価値観に2世紀の間どっぷり漬かり、国外にも輸出しました。左右対立は、フランス製品として珍しく評判がよかったのです(笑)。
ただ、何十年か前から、この枠組みでは現代の社会経済の大課題に対応できないと、多くの人が感じ始めました。環境、欧州統合、グローバル化の諸課題は、左右の論議でも解決を見いだせません。
――確かに政策論議で左右のねじれも目立ちます。
欧州連合(EU)を巡る仏国民投票でも、右対左でなく、左右内部の穏健派と強硬派の対立になりました。左右の政治勢力への不信感も募り、政界、代表制民主主義、政府といった従来の政治システムへの疑念が高まった結果、左右双方の性格を備えたマクロンが、刷新を体現する人物として大統領に選ばれたのです。
なのに、社会民主主義勢力は相変わらず「福祉国家を守る」とか「社会正義を実現する」とか言うばかりです。右派政党も、様々な人々がどう共生し、どう連帯するか、回答を出せていません。
―1989年の「ベルリンの壁」崩壊で東西対立は終わったと思ったのですが、それは「終わりの始まり」だったわけですね。
国際社会で始まった両極政治の終幕がようやく国内に達したといえます。ただ、古いものが死んだからといって、新たなものがすぐに誕生するとは限らない。イタリアの思想家グラムシは「古いものが死に、新しいものが生まれるのをためらう状態」こそ危機だと看破しましたが、それが現在です。
英労働党党首コービンや仏左翼メランション、米大統領候補サンダースが台頭したのも、この危機が背景にあります。彼らは、消えゆくろうそくの最後の輝きに過ぎません。彼ら「左のポピュリスト」が掲げるのは、使い古された理想主義に他ならないからです。
――右翼ポピュリストもやはり「ろうそく」ですか。
右翼の場合は少し異なります。従来とは異なるグローバル化世界の実現が可能だと左翼が考えるのに対し、右翼はそもそもグローバル化を否定し、国家に立ち戻ろうとする。彼らは、理想を掲げているわけではありません。右翼と左翼で手法は似ていますが、目的は異なります。
左右を問わず、ポピュリズムには民主主義を改革する機能があると同時に、強すぎる指導者の下で権威主義的な振る舞いに陥る恐れもあります。代表制民主主義を非効率的と見なす態度、(議会や政党など)統治者と市民を仲介する機関を軽視する姿勢も問題です。それは民主主義への脅威ともなります。
――ポピュリズムが政治を牛耳る時が来ませんか。
そう簡単には来ないでしょう。現代の政治に必要なのは妥協です。妥協を重ね、多数派を結成できなければ、政権は担えません。しかし、ポピュリズム勢力は孤独です。互いに妥協して協力する勢力が周辺にいません。その結果、批判ばかりを続け提案能力のない抵抗政党にとどまっているのです。
ただ、フランスでは従来の野党にまとまりが見られず、マクロン政権を助けています。野党が政権交代の選択肢になり得ていないのは、ドイツも日本も同じ。だからこそ長期政権が続くし、信頼に足る野党の代わりにポピュリストが大手を振ることにもなっています。
(聞き手・GLOBE編集長 国末憲人)
パスカル・ペリノー Pascal Perrineau
1950年生まれ。専門は選挙社会学、右翼分析で、フランスの右翼政党「国民戦線」研究の第一人者。パリ政治学院政治研究所長を長年務めた。9月に東京で開催される朝日地球会議に参加予定。