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日本のジェンダー・ギャップに驚き アウンサンスーチー氏

World Outlook いまを読む 更新日: 公開日:
アウンサンスーチー氏=藤えりか撮影

「経済発展しているのに、なぜ?」 民主化運動を経て新政権が発足してから初めての訪問。アウンサンスーチー国家顧問兼外相が来日し、11月4日に東京都内の日本記者クラブで記者会見した。変わりゆくミャンマー社会のさらなる民主化への意欲から、変わらない日本のジェンダー問題への指摘まで、報道陣の質問に幅広く答えた。 (構成・GLOBE記者 藤えりか)

私たちは過去何十年もの間、発展から取り残されてきましたが、今や追いつく見込みがあり、それどころか追い抜く可能性すらあります。私たちは遅れてやってきたけれど、後発として、他の国・地域の経験から学ぶチャンスを得ています。ミャンマーが安定的かつ結束した民主国家であり続けるためには持続的な発展が必要です。

私は国民を常々こう励ましています。「長い困難な道のりとなるかもしれないけれど、日本が第2次大戦後にこれだけ発展を成し遂げることができたのだとすれば、私たちがなし得ない理由はない」と。つまり私たちは日本をただ友人として、また私たちが発展に向けて突き進むためのパートナーとしてだけ見ているのではなく、心からやり遂げようとすれば何が可能になるかの事例として見ています。

――軍政当時のミャンマーは中国に支えられてきましたが、テインセイン前政権は中国と距離を置いたように見えます。新政権は中国、米国、インド、日本をどのように見ているのでしょうか。

独立以来の我が国の外交政策は、他国と友好的でいられるかどうかに基づいています。私たちは世界を敵と友人とで分断するつもりはない。とりわけ近隣諸国とはよい関係を築きたいと考えており、そこには中国やインド、東南アジア諸国、もちろん日本も含まれます。私たちは米国や、旧宗主国である英国とも非常に良好な関係でやってきました。諸外国と友好関係を築く伝統をこれからも踏襲していきたいと思っています。

――今回の来日によってどんな利益がもたらされると期待していますか。

何かを得ようと期待して来日したわけではなく、両国間でよりよい理解を深め、より親密な関係を築くためにやって来ました。互いにできる限り多くを得ようとする考え方に陥るべきではないと思っています。

――日本と合意した協力プログラムについて、どのような分野での活用を望んでいますか。

昨年の総選挙の前に実態調査をしたのですが、国内で最もよい教育を受けた世代は60歳以上で、引退にさしかかっていることがわかりました。私たちはかつてはすばらしい教育システムをもっていましたが、いま40~55歳となっている世代の教育システムは非常に乏しいものでした。驚くべきことですが、1962年からおよそ半世紀もの間、大学でまともなキャンパスライフを送ることもままなりませんでした。日本の若い人たちには、ミャンマーの若者のポテンシャルを高める手助けをしてもらえればと思います。

――テインセイン前政権は想像以上に民主化にかじをきりました。テインセイン前大統領は本当に民主化を進めたと言えるのでしょうか。

憲法を見なければなりません。憲法を見れば、真の民主化ではないことがおわかりになるでしょう。私たちは真の民主化をめざしています。

総選挙で国民民主連盟(NLD)が掲げた主要綱領は、法による統治、安定的平和、国を挙げての休戦、そして真の民主主義を実現するための憲法改正でした。軍の関与が認められている現行憲法は民主的なものではない。それが答えです。

とはいえ不完全な民政移管ではあったものの、ある程度は民主的で、だからこそ私たちは選挙に参加して勝利し、政権をとることができたわけです。私たちは真の民主化へと歩むとば口にいます。そうした機会をもつことができて幸いに思います。私たちは今、軍を含む全国民と手を携えて目標に向かわねばなりません。

――これからどのように憲法を改正してゆくのでしょうか。

改憲へと非常に熱心に取り組んでいくつもりですが、もちろん保証はできず、ミャンマー社会の多くの人たちの協力いかんにかかっています。めざす憲法について、合意も得なければなりません。

――西部ラカイン州では治安部隊による武力弾圧が起きており、明確な声明を求める声が国際社会から上がっています。

この問題の責任を負うのは誰なのか完全な証拠がない限り、特定の誰かを非難することのないよう非常に慎重にしています。警察施設が襲撃されて警官が殺され、またイスラム教徒も殺害されています。私たちは何も隠し立てはしておらず、事実を明らかにし、原因を突き止めたいと思っています。

――安倍首相との夕食会で、会場に女性が少ないと指摘していました。日本のジェンダー問題について提言はありますか。

日本は経済的にこんなに発展しているのに、ジェンダーギャップはいまだにきわめて大きいという事実に興味をそそられています。なぜそうなのかわかりませんが、社会的な固定観念にあまりにも強くとらわれているということでしょうか? 私が2012年に出たフォーラムで、あるパネリストが「経済的に豊かになれば、ジェンダーギャップは自然になくなる」と言っていたことがあるのですが、日本はそうなっていません。なぜなのか知りたいです。

ミャンマーでは逆に、公務員に若い男性が少ない。優秀な女性がどんどん出てきて、男性が高等教育を受けるのがますます難しくなっている。私たちは男性に平等な機会を与えたいと考えているほどです。




アウンサンスーチー 1945年、ミャンマー建国の父アウンサンの長女として生まれる。85年、京都大学客員研究員に。軍事政権が民主化デモを弾圧するなか、88年に国民民主連盟(NLD)を結成、翌年から2010年まで断続的に自宅軟禁された。91年、ノーベル平和賞受賞。民政移管を経てNLD政権が発足、今年4月に国家顧問に。

藤えりか撮影