『ミッドナイト・サン~タイヨウのうた~』は、太陽の光にさらされると細胞が死に至る難病を患う17歳のケイティ・プライス(ベラ・ソーン、20)をめぐる物語。日中は外に出られないケイティは、陽気な父ジャック(ロブ・リグル、48)と親友モーガン(クイン・シェパード、23)を話し相手に、夜に近くの駅で好きなギターを奏でて歌うのを楽しみとしてきた。ある夜、いつもの駅でチャーリー(パトリック・シュワルツェネッガー)とばったり出会う。その人こそ、UVカット加工の窓からひそかに見つめていた片思いの相手だった。「普通の女の子」として振る舞いたいがゆえに難病について隠すケイティは、チャーリーとともに恋に落ちてゆく。2006年に日本映画として、またTBS系ドラマとして公開・放送された『タイヨウのうた』のリメイクだ。
パトリックは父アーノルドの3番目の子で長男。母マリア・シュライバー(62)は元米NBCキャスターで、故ケネディ米大統領の姪だ。今作の日本公開を前に来日したパトリックにインタビューした冒頭、「お父さんにインタビューしたことがありますよ」と言うと、「いいね、今度は僕の番ってことだね」と笑った。
父についてまず切り出したのは、有名すぎる父と同じ道を進んだ彼の、父との距離感はどんなものだろうと思ったためでもある。新人として父につき従う風なのか、父はまったく関係ないという感じか。パトリックの場合、そのどちらでもなかった。
パトリックはモデルなどを経て俳優となり、長編映画としては今作を含めて7作品に出ているが、いずれも小中規模のインディペンデント映画。アクション大作への出演を重ねてスターになった父とは対照的だ。「自分自身の道を作って前に進みたかったからね。父の映画に出るとか、父の手助けで出演するといったことはしたくない。小さな作品から自分の道を築き上げていきたいんだ」とパトリックは語った。
今回の役も、オーディションで勝ち取った。「アーノルド・シュワルツェネッガーの息子」でもオーディションを受けるのだな、と至極当然のことに感心していると、「そりゃそうだよ。名前がきくのは最初だけ。そこから先に自分で進めなければ、どこへも行けないよ」と返ってきた。
米国はショービズ大国、「七光り」だって実力が伴ってこそ。その現実はパトリックもとっくに実感している。「オーディションなんてほとんどが不合格。僕がこれまで受けた99%はうまくいかなかったよ」。だから今作のオーディションも、結果が出るまでは父に話さなかったという。「合格するまでは言いたくないんだよね」
撮影は「初日からすべてが重みとプレッシャーに満ちたものだった」という。「これまでのような小さな役じゃなかったから、違うレベルのプレッシャーを感じた。でも、より大きなことをやろうとすると、より大きな責任がついてくるのが人生だし、いい経験になったよ」
今作で演じたチャーリーは、水泳選手としての道をいったんあきらめて悩む役どころだ。パトリックは言う。「思うように物事が進まないことは誰にだってあると思う。取り組むすべてがうまくいくわけではない。家族や恋人と一緒にいたって、あるいは仕事があって健康でも大変な経験はする。そういう時は一息入れて、次の段階に行くのがいいと思う」。24歳と思えない達観ぶりは、小さい頃から街を歩けばパパラッチに追い回される環境に慣れてきたゆえもあろうか。
それにしても、父と一定の距離を保とうとしながらも、同じ仕事を選んだのはなぜだろう。「子どもの頃、父の撮影現場に見学に行くのが好きでね。そこで父と一緒にいながら育ったのが大きいと思う。『ターミネーター』シリーズや、『バットマン&ロビン Mr. フリーズの逆襲』のセットに行ったのを覚えているよ」とパトリック。「バスケットボール選手や宇宙飛行士、消防士になりたいと思ったこともあるけど、映画にはいつも興味があって大好きだった。俳優はどんな人物にもなれる。いろんな人の立場になってみて、それがどんな人生か経験できる」
オーストリア移民としてスター俳優になり、知事にまでなった父からはかねて、政治の大切さとともに、「自分が情熱を持つものに突き進み、夢を見つけて追い求め、誰にも邪魔されることなく進みたい道を明確につかみ、毎日を無駄にせず目標に近づいていくこと」とアドバイスを受けてきたという。
日本も米国も、ショービジネスの世界や政界などで「世襲」が花盛りだ。好むと好まざるとにかかわらず、著名な親を持つと良いスタートを切れるし、幅広いコネクションもある。ただ、それだけに重圧も大きそうだ。そう言うと、パトリックはこう答えた。「自分が人生で何をやりたいか、常に立ち戻ることなんだと思う。両親に追いつこうとするプレッシャーがあったり、両親と比べられたりするのは実際そうなんだけど、結局、自分がやりたいことを成し遂げているか、楽しんでいるのか、そもそもやりたかったことなのか、自分自身に立ち返ることだと思う。家族と比べて不安になったりせず、やりたいことをやっていれば、結果はついてくる」
パトリックは続けた。「この両親のもとで育った人生はとてもありがたいと思っているし、満足している。両親によっていくつかの扉が開かれ、ある人たちに会う助けにもなっている。ただ、いろんな扉が開かれていても、次のレベルに進むには、打ち込んで取り組まないといけない。期待を大きく寄せて、僕と親とを比べたりする人もいる。何事も、いい面と悪い面がある。自分がそれをどう受け止め、どちらをより重視するかにかかっている」
淡々と語る言葉の端々に、「二世」だからこその覚悟が感じられた。
母や、母方の祖父母らケネディ家からは、慈善活動についても多くを教わってきたそうだ。「ケネディ家の一員として、彼らから多くを学ぶことができ、とても幸運に感じている」とパトリックは言った。
そうした素養や家系、落ち着きぶりからして、政界から秋波を送られる日もいずれありそうに思える。そんな時がきたら、彼は「自分自身に立ち返」ってどんな判断をくだすのだろうか、と気の早い想像をめぐらせている。