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農学者のオリジナルレシピ 科学と調理の幸せな出合い

One Meal, One Story 一食一会 更新日: 公開日:
Photo:Nakamura Yutaka

スウェーデン・ストックホルム 温室効果ガスの差し引き排出量を2045年までにゼロにすると宣言したスウェーデン。国際目標SDGs(持続可能な開発目標)の取り組みでトップを走るお国柄は、この一皿からもうかがえる。

ストックホルム中心部に近い住宅街の一角に昨年2月にオープンしたレストラン「フリック・アンド・サン」。一番人気のハンバーガーは、有機飼育した牛肉と有機野菜を使った地産地消の一品だ。

化学肥料や農薬を使わない有機農業は、生物多様性の維持やエネルギー消費量の抑制につながり、SDGsが目指す持続可能な社会の実現にかなう。地元食材を使えば輸送に伴うCO2排出も抑えられる。環境負荷が少ない「サステナブル(持続可能な)」バーガーなのだ。

訪ねると、共同オーナーで調理担当のブラージ・フリック(31)が切り出した。「僕はシェフじゃありません。農学者です」。なぜ農学者がキッチンに?

フリック(右)と共同オーナーの女性 Photo:Nakamura Yutaka

大学院で農学の修士課程を修了した2013年。ストックホルム市がフードトラックの営業希望者を初めて募ることを知り、友人とともに手を挙げた。「たいした元手も要らずに始められるビジネスだから」と振り返る。

自前でキッチンを備え付けた中型改造トラックで街に繰り出し、野外ロックコンサートがあるような日は11000個近いハンバーガーが売れた。ためたお金で開業したのが今のレストランだ。

「ハンバーガー以外のメニューもつくりたくなって。持続可能な方法でつくった地元の食材を使い、調理にもごまかしがない『本物』のレストランでね」

調理師修業ゼロのイケメン農学者が試行錯誤を重ねて「開発」したという数々のレシピも気になるが、やはりいただくのは、原点となったハンバーガー。

一口かじってみる。グリルした肉の香りが口の中にぷわーっと広がった瞬間、訪ねてきて良かったと思った。タマネギのシャキッとした歯ごたえ、バンズの絶妙な甘さとふっくらした食感も心地いい。手作りマヨネーズをベースにしたソースもうまみが深い。科学と調理の幸福な出合いが生んだ一品といったら、おおげさか。お値段160スウェーデンクローナ(約2100円)に、私は納得の価値を見いだした。