ストックホルム中心部に近い住宅街の一角に昨年2月にオープンしたレストラン「フリック・アンド・サン」。一番人気のハンバーガーは、有機飼育した牛肉と有機野菜を使った地産地消の一品だ。
化学肥料や農薬を使わない有機農業は、生物多様性の維持やエネルギー消費量の抑制につながり、SDGsが目指す持続可能な社会の実現にかなう。地元食材を使えば輸送に伴うCO2排出も抑えられる。環境負荷が少ない「サステナブル(持続可能な)」バーガーなのだ。
訪ねると、共同オーナーで調理担当のブラージ・フリック(31)が切り出した。「僕はシェフじゃありません。農学者です」。なぜ農学者がキッチンに?
大学院で農学の修士課程を修了した2013年。ストックホルム市がフードトラックの営業希望者を初めて募ることを知り、友人とともに手を挙げた。「たいした元手も要らずに始められるビジネスだから」と振り返る。
自前でキッチンを備え付けた中型改造トラックで街に繰り出し、野外ロックコンサートがあるような日は1日1000個近いハンバーガーが売れた。ためたお金で開業したのが今のレストランだ。
「ハンバーガー以外のメニューもつくりたくなって。持続可能な方法でつくった地元の食材を使い、調理にもごまかしがない『本物』のレストランでね」
調理師修業ゼロのイケメン農学者が試行錯誤を重ねて「開発」したという数々のレシピも気になるが、やはりいただくのは、原点となったハンバーガー。
一口かじってみる。グリルした肉の香りが口の中にぷわーっと広がった瞬間、訪ねてきて良かったと思った。タマネギのシャキッとした歯ごたえ、バンズの絶妙な甘さとふっくらした食感も心地いい。手作りマヨネーズをベースにしたソースもうまみが深い。科学と調理の幸福な出合いが生んだ一品といったら、おおげさか。お値段160スウェーデンクローナ(約2100円)に、私は納得の価値を見いだした。